幸せ幸せ
(プトミラ)
「ウィット、お前が好きだ」
「…悪いな、俺にはその気はない。お前には俺よりもっといいこがいるぜ、クリプちゃん」
そう言って笑うミラージュの顔は今にも泣き出しそうだった。
「どうしてそんな顔をする?」
「そんな顔?いつもと変わりねぇよ」
「隠そうとするな。何でそんな泣きそうな顔をしている?」
「目にゴミでも入って潤んでるんだろ、気のせいだ」
「気のせいじゃない。事実だ」
「お前に俺の何がわかる!?」
怒鳴ったミラージュはそんな自分に驚き、クリプトに背を向ける。
「悪い、もう出て行ってくれ」
「ウィット」
「頼む。これ以上お前に嫌われたくない」
「嫌うわけないだろ。好きだと言っている」
「だからそれは無理だって」
「じゃあなんで俺に嫌われたくないんだ?」
「…」
「ウィット」
「…お前にはミラちゃんがいるだろ」
「は?何故今ミラの名前が出てくる」
「俺には母親がいる。記憶が危うくなっている大切な母親だ。俺は母さんを1人にはできない。最期までそばに居るって決めたんだ。笑顔にするって決めたんだ。だから俺は、お前の隣にはいられない。お前だってそうだろ?」
「俺は…確かにミラは家族だし大切だ。だけど、ミラを救ったその後、命が終わるその時まで隣にいて欲しいのはお前なんだ、エリオット」
クリプトの言葉にミラージュが振り返る。
その頬には大粒の涙が伝っていた。
ミラージュは泣いていた。
自分の心臓を抑えて何かの痛みに耐えるように。
「俺は、俺だけ幸せになんてなれない。怖いんだ。もう誰も失いたくない!だからっ」
クリプトは泣きじゃくるミラージュを抱きしめた。
腕の中で暴れるミラージュ。
心に傷だらけのミラージュを護るように強く優しくクリプトは抱きしめた。
「俺がいる」
「お前だって消えるかもしれないだろ!」
「消えない。仮にお前が居なくなったとしても見つけてやる。絶対だ」
「俺のこと忘れるかもしれない」
「俺を誰だと思っている?脳に焼き付けてでもお前のことは忘れない。約束する」
「信用できない」
「これから嫌ってほど分からせてやる」
「こんなの横暴だ」
「でもお前も俺のこと好きだろ?」
「…」
「ウィット?」
「…っ、あぁ!好きだよ!好きだ!これでいいだろ!?」
「ふっ、あぁ上等だ」
ミラージュは降参というようにクリプトの肩に頭を押し付けた。
その頭をクリプトが優しく撫でていく。
「ウィット、お前はひとりじゃない。お前の母さんも、レジェンドも、俺もいる。だから1人で抱え込むな。お前らしくないぞ、“ミラージュ“」
「お前の前ではエリオットでいさせろよ」
「殺し文句だな。喜んで」
「…なぁ、テジュンって呼んでいい?」
「2人きりの時だけな。間違っても皆の前で呼ぶなよ?」
「呼ばねーよ、多分」
「やれやれ、困った恋人だ」
「でも、好きなんだろ?」
にやりと笑うミラージュに、先程までの陰りはない。
それに気がついたクリプトは笑う。
「あぁ、どんなお前も好きだよエリオット。お前が生きてるそれだけで俺は幸せだ」
ミラージュは母親イヴリンの言葉を思い出す。
そして今、同じ言葉を愛する人から受け取り、もう一度涙した。
今度の涙は嬉し涙だった。