WH 信そそ♀「武者ワールドの酒は初めてか?きっと気に入る」
「ほぉそれは楽しみだ」
「いけません信長様!曹操殿は禁酒されてる身ですので!」
注いでやろうと徳利を持ったはずが空を切る。いつの間にやら信長から取った徳利を抱えた佐助が側に控えていた。
「少しくらい大丈夫であろう、客人の持て成しぞ」
「いえ、ダメです。」
不服そうに唱えるが即座に否定する。
「……佐助」
「幾ら曹操殿の頼みでも拙者夏侯惇殿と男の約束を交わしています故、御免!」
スッと佐助が消え、持ったままの空のお猪口を見つめため息を吐く。
夏侯惇め、私が悪酔いするといけないからと佐助に頼んだんだな。心配せずとも大丈夫なのに。
仕方がないとお猪口を置くと、隣からは怪しく笑う信長の声がする。
「ふふふ……佐助のやつめまだまだ甘いわ。」
すくりと立ち上がり何処に行くのかと思えば目の前に飾られた屏風……の裏の障子戸を開け放った。物置のようでギチギチに何か分からない物が詰まっていた中をゴソゴソと暫く漁るとニンマリと笑みを浮かべ酒瓶を手に戻ってきた。
「前に飲みすぎて佐助に怒られた時に隠して置いた」
「いいのか?」
「構わん。お前にムシャワールドの味を堪能させたい」
盃になみなみと注がれた日本酒を仰ぐ。
「確かにキングダムワールドの酒とまたちがうな。……少々辛いが口触りは滑らかで美味い」
「で、あるか」
自国の酒を褒められ気を良くした信長は自分の盃と共に空いた盃曹操の盃に注いだ。
「……是非ともうちで販売したい。」
「取引か、是非もなし。お前になら売ろう」
「それならば最初に5000本ほど用意は可能か。」
ひとしきり取引の話で盛り上がると互いに無言で酒に酔いしれた。
しばらくし、ふと横目に曹操が盃を持ったままぼんやりとしていた。
「酔ったか?」
「……いや、大丈夫だ。」
本人はそう言うが目がとろんとしており身体もフラフラと横に揺れている。曹操が美味いと言うから調子に乗ってついガンガンとハイペースで飲ませてしまったがマズかったかもしれない。部下から外で酒を控えるよう言われていたと言うことはスグ酔うためだったのか。少しだけ悪いことをしたと思いながら「もう休め」と声を掛けようとした時だった。
「あつい」
スッと立ち上がりいきなり鎧を脱ぎ始めた。
「なっ!?」
釘付けの視線の先、曹操の裸体にはたわわと揺れる乳房があった。
「曹操」
「んー……どうした?」
「おぬし女子だったのか」
「おなご?」
いつもの冴えた曹操の姿はなく、酔いがすっかり周ったようでコテンと首を掲げ「んー」と声を上げた。
驚いたがなるほど曹操の部下達が本当に秘密にしたかったのはこれだ。……となると佐助のやつめ知っていたな。
「どうしたー?おーい信長あ」
黙りこくったままの信長を不思議そうに見つめる。意中の人間がまさかの異性、結婚相手として申し分なし。渡りに船とはこの事か。信長の気など知らず盃に残っていた酒をちびちびと呑んでいたのを取り上げる。
「あっ!」
「これ以上はよせ曹操」
「もう少しだけ……。」
盃を取り返そうとのそのそと近づき密着しながら掲げた手の盃目掛けて手を伸ばす。ぎゅむと軽装越し押し付けられた柔らかな感触に息を飲む。
もう我慢できん。盃を投げ捨てそのまま抱き囲うと性急に唇を奪った。
「ふぅ……ッ……」
ぼんやりとた頭でうまく思考回路が回らない。されるがままに口内を蹂躙される。ようやく唇を離されると酸素を求め乱れた呼吸で大きく肩で息をし、生理的な苦しみからか目には涙を溜めていた。
淫蕩的な姿にくらりとくる。別に男も女も経験が無いわけではない。前にも何度かこういった事はある。それなのに
「の、ぶなが……?」
どうしてこんなにも興奮するのかゾクゾクと駆け上がっていく昂る気持ちを最早抑えられそうには無かった。
素早くそのまま仰向けに押し倒しーー上にのしかかったところで動きを止める。ー押し倒したはずの曹操が人形になっていた。
「そこまででござる!」
「……佐助。」
思わず地を這うよう唸る声を上げる。まさか自分の忍びに据え膳されるとは思うまい。
「いくら信長様言えど客人に無体を強いるのは許せまぬ!それが曹操殿となればなおのこと!」
佐助にお姫様抱っこで抱えられた曹操は状況をイマイチ理解していないようで「あ、さしゅけえ」とふにゃりと笑った。
「ーッ!」
不意討ちに思わず手を離しかけるが慌てて直ぐに体制を立て直し共に駆けつけた才蔵に託した。
「知っていたな曹操が女だと」
ゆらりと信長が動く
「はい。曹操殿がキングダムワールドを発つ前に夏侯惇殿から教えて頂きました。そして酒に酔うと脱いでしまうことも。」
「何故報告しなかった」
「曹操殿が秘め事にしていたので。信長様こそ何をお考えなのですか!?ここでもし曹操殿をキズものにでもしたら国際問題に発展するかもしれないでごさる」
「余は構わん。」
「拙者が止めるでござるよ。」
「お前に出来るのか」
その言葉と共に立てかけていたへし切長谷部を抜刀しながら襲いくる。苦無で受け止め弾く。ガキィンと金属のぶつかり合う音が狭い部屋に響き渡った。
「……ハァ。」
腕ですやすやと眠る曹操に視線を落とす。
アンタのお陰でこっちは随分と大変なことになってるってのに。肝の据わった社長さんだと嘆息する。止むことのない剣戟音に主と同僚の喧嘩は当分続くだろうと確信し静かに才蔵は姿を消した。とっ散らかった部屋の片付けの事を思うと胃が痛くなる。そんな事を頭の隅で考えながら眠りにつく元凶のお姫様を安全な部屋まで運ぶのだった。