科学が発展した現代社会においても海、特に深海は宇宙よりも謎が多い。だからこそ、人間は海に浪漫を見る。やれ巨大鮫が現代まで生きているとか、謎の未確認生物が南極にいるとか。未知の場所に未知の存在を夢見る。
ウルフウッドもその一人だ。かつて見た碧を探している。
彼が産まれたのは小さな島国だった。四方八方を海に囲まれたこの国は自然が豊かで、住民達は昔から自然と共に生活してきた。ウルフウッドもまた幼少期から自然を遊び場として育ってきた。特に海に潜るのが好きで、学校終わりや休日は必ず海で泳ぐほどに。
その生活が変わったのはよく晴れた日だった。
学校でちょっと嫌な事があったから無心で潜っていると、いつの間にか深い場所まで来てしまっていた。まずいと思って岸に戻ろうとするが中々戻れず、遂には体力がなくなり海中に沈んでしまった。
このまま溺れて死ぬのかと、遠くなる海面を見上げていた時、目の前に見た事もないほど大きな影が現れた。鮫か、とその姿を見るべく目を凝らして、次の瞬間、ウルフウッドは目を見張った。
碧だ。海の青とも空の青とも違うその色が、ウルフウッドをじっと見つめている。ごぽり、と口から大きな気泡が漏れ出る。それがウルフウッドが海中で見た最後の記憶だった。
次に気が付いたのは病院のベッドの上で、母曰く、近所に住む漁師が海岸で倒れているところを発見してくれたらしい。念のためと受けた検査は特に問題がなく、もう一人では泳ぐなと母から説教を受けた。
だがウルフウッドの頭の中は気を失う前に見た碧の事でいっぱいで、その数日後にはこっそりと一人で潜りに行っていた。中学生になってからは友達と一緒に潜り、高校生になったら漁師である親の仕事を手伝いながら空いた時間に潜って、そうしてウルフウッドは大人になった。