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    numasoko_tri

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    1日くらいなら眠らなくても平気な台風×眠い牧師 in HL。

     ウルフウッドは眠かった。もう30時間以上は起きている。許されるのなら、任された仕事を全て放り出して今すぐ家に帰りたいくらい眠い。
     常人よりも頑丈な肉体と体力を持っているウルフウッドだが、恋人であるヴァッシュとの情事は肉体的な負担も体力の消耗も大きく、終わった後は暫くベッドから出られなくなる。
     だから翌日は二人でゆっくりするのがいつもの事だったのだが、今回は違った。ピロートーク中にかかってきた一本の電話によって、二人の時間は終わりを告げた。
     電話をしてきたのは二人の上司であるスティーブンだった。なんでも繁華街の住民と裏社会の住民が大暴れしているのだとか。
     曰く、最近流行り始めたという違法薬物が保管されていた倉庫の近くで原因不明の爆発が発生し、倉庫内に保管されていた大量の薬が宙を舞ったのが原因だという。最悪な事に、空高く舞った大量の薬は風の流れに乗り、夜でも賑やかな繁華街を楽しんでいた住民達の頭上に降り注いだ。その結果、繁華街に居た住人の殆どが薬物中毒になり、副作用で暴れ出す住人が現れた。更にこの騒動にのって常日頃から不満を抱いていた裏社会の住人達も暴れ始め、ポリスだけでは収めきれないとライブラが出動する事になり、ライブラの構成員であるヴァッシュとウルフウッドの二人も呼ばれたという事だった。
     ウルフウッドとしては体は怠いし腰は痛いし、声も掠れてるしで体調は悪かったが、戦えないほどではない。家に居ろというヴァッシュに問題ないとだけ返して現場に来た。パニッシャーなら後方支援ができるし、早く事態を収拾して家に帰ればいいと思ったからだ。しかしこの数時間後、ウルフウッドはやっぱり家で寝ていた方がよかったと後悔する事になる。


    「あーもう! 何人おんねん!!」

     現場に到着して暴徒と戦い始めてから既に10時間近く経過している。人界と異界が交わる魔境の地であるHLの住人の多くは異界人で、頭にナイフが突き刺さっても死なないタフな肉体を持っている。ポリスや他のライブラメンバーも応戦しているが、途中で更に別の裏勢力が参戦してきて戦闘が終わらない。特にSS先輩ことザップがいる地点は多い。この騒動に紛れて日頃から彼に恨みを持つ者達が押し寄せているらしい。酷い怒号が聞こえてくる。

    「ザップ! てめぇ俺の金返せ!!」
    「死にさらせやぁあああああ!!」
    「人の女を取りやがって!」
    「かかってこいやゴミカス共!!」

     ザップの日頃の行いがよく解る人の多さだった。彼の周辺だけ人口密集度が違う。
     ウルフウッドの前に居る暴徒は目視できるだけでも50人以上。その全員が銃を持ち、ウルフウッドを狙っている。
     パニッシャーを地面に突き刺してその裏側に隠れ、敵の銃弾を防ぐ。この町の住民はNLの賞金首も真っ青な速さで銃を撃ってくる。欠伸をかみ殺してガバメントで住民が持つ銃だけを撃ち抜いていく。弾切れと同時にパニッシャーの裏から飛び出して、周囲の壊れた建物でできた瓦礫の裏へ。残りの数はと確認したところで、奥のパワードスーツを着た巨大な人型の異界人が右手に取り付けられた砲身でウルフウッドを狙っているのが見えた。
     撃たれる前に瓦礫から身を乗り出して、パニッシャーに搭載されているロケットランチャーを一発喰らわせてやる。吹っ飛んで倒れこんだ巨体に周囲に居た暴徒が蜘蛛の子を散らすように逃げるが、何人かは逃げ遅れて下敷きになった。間髪入れずにパニッシャーを操って逃げる暴徒の足元を狙って引き金を引く。数人が足に銃弾を喰らい道路の真ん中に倒れこんだ。残りが車や瓦礫の裏に逃げ込む間にガバメントのリロードを済ませる。これが最後のマガジンだった。長時間かつ連続戦闘でもう予備がない。パニッシャーは、と確認しようとして遠くから聞こえてきた声に顔を上げた。

    「お~~い! ウルフウッド~~~!!」

     少し離れた場所で戦っていたはずのヴァッシュが手を振りながら笑顔でこちらに走ってきていた。背後に大量のパワードスーツを引き連れながら。

    「ちょ、おまっ……こっち来んなや!!」

     後ろのどうにかしてー!と叫びながら真っ直ぐウルフウッドの元へ走ってくるヴァッシュ。そのヴァッシュを追ってくるパワードスーツはさっきウルフウッドが倒したスーツとは見た目が違い、右手の装備もガトリングの銃身に変わっている。
     あのパワードスーツは俊敏性を捨てて破壊力と耐久力に特化させた旧式のもので、ヴァッシュのピースフリンガーでは倒すのが難しい。ああいうタイプの相手はウルフウッドのパニッシャーの方が適任だろう。
     だからってパワードスーツ全員を引き連れてこっちに来るのはないだろうと、ウルフウッドの隣に滑り込んできたヴァッシュの頭をスパーンと叩いた。

    「このド阿呆! 大量に引き連れてきよって!」
    「あれ僕の銃じゃどうにもできなんだよ! お前のロケランでドーンと一発やっちゃってよ!」

     息も荒々しく、叩かれた箇所を手で押さえながらヴァッシュがパワードスーツの軍団を指さして叫ぶ。情けない声に舌打ちを一つして、ロケットランチャーを撃とうとパニッシャーを構えたところで、あっ……と気付いた。

    「どうした?」

     突然動きを止めたウルフウッドに隣のヴァッシュが首を傾げる。

    「……あらへん」
    「え?」
    「ロケランの弾があらへん。さっき最後の一発つこぉてしもた」

     隣でヴァッシュがえ、と呟いたのと同時に、強まった眠気は頭を左右に振って振り払う。ガバメントの弾は装填されているものだけ。パニッシャーは機関銃に関してはまだあるが、ロケット弾はない。

    「お前のロケラン頼りに来たのに! どうすんだよあれぇ!!」
    「しゃあないやろ! ないもんはない!」

     ウルフウッドの両肩を掴んで揺さぶるヴァッシュ。頑張ってここまで引っ張って来たのにと涙目の彼に知らんわ!と、その頭をもう一度叩いた。スパンという心地よい音が辺りに響く。
     続けて罵ろうと口を開いたところで、パワードスーツの右腕に装着されているガトリング砲が火を噴いた。

    「「!!」」

     瞬く間に削れていく瓦礫に慌てて二手に分かれて別の障害物の裏に逃げ込んだ。そして体勢を整えてすぐに反撃にかかる。ガトリング砲がついている右肩付近を集中して撃って装甲を破壊し、できた隙間ヴァッシュが撃ち抜く。他のガトリング砲に狙われる前に場所を移動しながら、ウルフウッドはパワードスーツの敵だけを撃ち、ヴァッシュは暴徒の銃を壊しつつパワードスーツの破壊された箇所を撃つ。相談や目配せもなくただ阿吽の呼吸で行われる二人の攻撃に、寄せ集めの集団である暴徒は対応できず、次第に仲間割れをし、お互いを撃ち始めた。

     そうして二人で戦っていく事数分、他のメンバーの尽力も相まって暴徒の数は住人以下まで減り、10時間近い戦闘に終わりが見え始めた。あちこちから聞こえていた怒号も聞こえない。あとは往生際の悪い異界人だけだった。
     これで漸く家に帰って寝れると、肩の力を抜いた。その時だった。

    「ウルフウッド!!」

     焦った様子のヴァッシュの声が聞こえて、ハッと遠くにいっていた意識が戻ってくる。背後に気配を感じて振り返ると、倒れていたパワードスーツの異界人が立ちあがって大きな拳が振り上げ、あとはもうウルフウッドの脳天に向かって落とされるだけという状態だった。
     反射的にパニッシャーを頭上に掲げるようにして、防御態勢をとる。衝撃を受け止めようと両足に力を入れて構えるが、衝撃がくる前にウルフウッドの視界の隅が白い何かで埋まった。

    「は、?」

     白いふわふわとした羽のようなそれに目を見開く。何度か見た事のあるそれは、ヴァッシュの羽だった。命の危険がなければ人前では出さないはずのそれが、なぜかウルフウッドを覆い隠すように広げられている。
     突然の事に思考が止まるウルフウッド。ぽかん、と口を開けていると羽の向こう側から静かな、そして重厚感のある声が聞こえてきた。

    「ブレングリード流血闘術・111式!」

     それは敵としてなら恐ろしく、味方としてなら頼もしい限りの我らがリーダー、クラウスの声だった。

    「十字型殲滅槍!!」

     バキッという固い物が潰れる音がした後、重たい何かが地面に突き刺さる衝撃を感じた。それから少ししてするするとウルフウッドを覆っていた羽が動き始め、後ろにいるだろうヴァッシュの元へ戻っていく。
     羽とパニッシャーだらけだった視界が広がった時、ウルフウッドの前にあったのは大きな赤い二本の十字架と、その隣に立つ血塗れの大男だった。その奥には十字架に両腕を潰された異界人が倒れている。小さく呻いているので生きてはいるようだ。
     大男、ライブラのリーダーであるクラウスはその大きな体躯と牙、鋭い眼光で誤解されがちだが、非常に紳士的な男だ。女子供にやさしく、見知らぬ相手でも困っていれば手を差し伸べる。NLからこの町に召喚されたばかりのヴァッシュとウルフウッドの二人に家を用意し、更に仕事まで与えてくれたのが彼だった。

    「ニコラス、怪我はないかね?」
    「おん。助かったわ、旦那さん。おおきに」

     そのまま残りの暴徒について話をしていると、遠く離れた場所で巨大な氷柱が現れた。どうやら残りの暴徒をスティーブンが纏めて凍らせたらしい。これで暴徒はいなくなった。この後何も起きなければこのまま解散となる。
     他のメンバーと合流しようと話をしていた二人の元に、未だ羽を生やしたままのヴァッシュがやってきた。

    「ウルフウッド! 大丈夫? 怪我はない?」
    「ないで」

     隣まで来たヴァッシュの羽が腰や両足に幾重にも絡みつき、上半身は触れるか触れないかくらいの距離感で漂っている。振りほどけないほど強い拘束ではないが、触れている箇所から流れ込んでくる心配の感情で振りほどく気にはなれない。それどころか。

    (あかん。もう眠い)

     やっと終わったという気持ちと、信頼できる相棒の気配にさっきの命の危機で消えかけていた眠気が戻って来た。何度も瞬きをして、かくんと落ちそうになる頭をなんとか持ち上げる。しかし肉体的にはもう限界だったようで、次にがくんと頭が落ちた瞬間、ウルフウッドの意識は暗闇に落ちた。



    「ウルフウッド!?」
    「ニコラス!」

     突然意識を失い倒れこんだウルフウッドを、隣に居た慌ててヴァッシュが両腕と羽を使って受け止める。どこか怪我をしたのかと確認するがどこも怪我は確認できず、すぅすぅという穏やかな寝息が聞こえてくるだけだった。

    「寝てる、だけ……」
    「そのようだ」

     呆然と呟いたヴァッシュの言葉に、クラウスが同意する。
     そういえば、30時間近く寝ていない。プラントであるヴァッシュは1日程度なら寝なくても問題ないが、人間であるウルフウッドには限界だったようだ。ヴァッシュの羽の中で静かに眠っている。

     ウルフウッドは警戒心が強く、眠りが浅い。戦闘訓練と肉体改造による感覚の鋭敏化によって、些細な物音で起きてしまう。出会った当初はヴァッシュが同じ部屋にいると寝れず、晴れて恋人同士になった今、漸く一緒のベッドで眠れるようになった。。
     そんな彼が、周囲に人がいる状況にも関わらずヴァッシュの羽の中で穏やかに眠っている。普段の彼を知っていればあり得ないような状況にヴァッシュは瞠目した。と同時に、言いようのない感情が込み上げてきた。


    「ごっ、ごめん、みんな! 僕達先に帰るね!」

     眠るウルフウッドの背中と両膝の下に腕を通し、一気に持ち上げる。そしてクラウスに背中を向けて、家に向かって猛ダッシュで走り出した。





     その後、家のベッドで思う存分眠ったウルフウッドは空腹を満たした後、大量の羽を出したヴァッシュに襲われ、暫くの間ベッドから出る事はできなかった。
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    numasoko_tri

    DONE1日くらいなら眠らなくても平気な台風×眠い牧師 in HL。
     ウルフウッドは眠かった。もう30時間以上は起きている。許されるのなら、任された仕事を全て放り出して今すぐ家に帰りたいくらい眠い。
     常人よりも頑丈な肉体と体力を持っているウルフウッドだが、恋人であるヴァッシュとの情事は肉体的な負担も体力の消耗も大きく、終わった後は暫くベッドから出られなくなる。
     だから翌日は二人でゆっくりするのがいつもの事だったのだが、今回は違った。ピロートーク中にかかってきた一本の電話によって、二人の時間は終わりを告げた。
     電話をしてきたのは二人の上司であるスティーブンだった。なんでも繁華街の住民と裏社会の住民が大暴れしているのだとか。
     曰く、最近流行り始めたという違法薬物が保管されていた倉庫の近くで原因不明の爆発が発生し、倉庫内に保管されていた大量の薬が宙を舞ったのが原因だという。最悪な事に、空高く舞った大量の薬は風の流れに乗り、夜でも賑やかな繁華街を楽しんでいた住民達の頭上に降り注いだ。その結果、繁華街に居た住人の殆どが薬物中毒になり、副作用で暴れ出す住人が現れた。更にこの騒動にのって常日頃から不満を抱いていた裏社会の住人達も暴れ始め、ポリスだけでは収めきれないとライブラが出動する事になり、ライブラの構成員であるヴァッシュとウルフウッドの二人も呼ばれたという事だった。
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