はじまりのはじまり爆撃を受けあちこちボロボロな滑走路に両翼端が青く塗られたF-15がおぼつきなく降りてくる。しばらくしてハートになぞらえたカラスのエンブレムを冠したF-16も降りてきた。
1年という単位の最終日、全てが終わった。その言葉は正しくないかもしれない。事後にやらなければならないことなど数え切れないほどある。しなければならないこと、考えなければならないこと、それこそ思いつかないほど。
けれど今はそれでいいとサイファーは思っている。もう自分の出る幕は無い。どす黒く染まった赤い緞帳は既に降りきった。次があってももう出る気は無い。あとは地上の人間が片付けることだ。
サイファーはちら、と横を見る。多少の疲れは見えるものの問題はなさそうな顔。一時は荒れに荒れたがそれは上手く消化できたのだろうか。気にはしていたが何もしてやれることは無かった。それを少し、悔やんでいる。
「PJ」
「なんすか?」
「大丈夫か?」
「……気にしないでください」
いつものようなへらっ、とすこしだらしない微笑み。それを見てPJは結果的に本質的には何も変わらないでいたのだな、とサイファーは少し、安心した。
「この後はどうするんだ?」
「この後、ですか」
「家に帰るのか?」
PJには帰るところがある。それなら帰るのが妥当だろう。サイファーはそれを見届ける義務がある、と思っている。それで満足だ。本当に?と問いかける別の自分の声は無視した。
「まぁ、一度は帰るでしょうけど」
「けど?」
「……この国を一周、見て回る旅をしようかな、と」
そういった顔に少し暗い影が落ちた。
全てが終わったとは言えないこの現実、周りを見渡せばどこもかしこもボロボロだった。それを直で目にしたPJには思うところがあるのだろう、PJらしいとサイファーは笑う。
「サイファーは?どうするんです?」
「俺か……俺は、特に」
「……だったら」
PJはサイファーに向き直った。その顔はもう暗い顔ではなかった。むしろ、何かを期待するような、
「俺と一緒に、来ませんか?」
サイファーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。PJはサイファーの性格をある程度知っている。他人の話に乗ることはそうそうない。だからなにかの誘いをかけたことはほとんどなかった。
「サイファーはこの後独りになろうとするんでしょう。俺はそんなの嫌です」
「何を」
「俺も独りだと寂しいですしね、そうしましょう」
それ以外は認めない、とばかりのPJの顔にサイファーは参った、と額に手をやる。まだまだ雛鳥の、考えも浅い若者だと思っていたがいつの間にか存外しっかりした成鳥になっていたようだ。
そんな彼の話に乗るかそるか。サイファーはしばし悩む。PJはじっと目を見つめてくる。その話は、悪くない。PJと居られる日々も伸びる。
そこまで来てサイファーはふと思う。自分はPJを求めているのか、と。しかしそれにすんなりと是と答えられるくらいには、情が湧いていたようだ。答えはひとつしか持たなかった。
「そうだな」
「じゃあ、家にもよってきましょう。皆に紹介させてください!」
「お前なぁ」
にわかにPJははしゃぎだした。サイファーは本当の目的はなんだと問いただしてやろうかと思ったが、辛い思いをそう何度も思い起こさせるのも酷か、とそのまま口をつむぐ。
普通に生きるのもままならないこの世界は、これから一体どうなるだろうか。それをPJと見届けることができるならそれは本望なことだろうとサイファーは思った。