ふる〜てぃ〜ず“くり”「ねね、くりっ!聞いてってば!」
「まろんって呼びなさいよっ!それで呼ばれるの好きじゃないの!」
栗色のサラリとしたショートヘアを揺らしながら振り返った彼女は、呼ばれた方をじとっと見つめる。悪びれもなくそのカーネリアンを輝かせている。
「んにゃ?それでそんなに興奮して、まろんに何を言いたいのよ。」
「あのねぇ、新入生にね〜、あたしの幼なじみがいるんだよ。」
「あら、幼なじみなんていたのね。」
「まろんよりは友達多い自信あるんだけど。」
「殴るわよ。」
「事実で…あいたぁっ!?」
コンっとデコピンをお見舞いしたまろんと呼ばれる少女……茶雀くり。ヒリヒリと痛むおでこを撫でているのは橙木みかん。灰色のセーラーに黄色の三角タイ、2人ともポームムの中等部2年生だ。
「なんだよぉ、初等部からのお友達のみかんちゃんだぞ、もうちょい優しくしてくれたっていいじゃんかよ。」
「あんたのそういうとこウザイのよ。」
「ウザイって言った!今ウザイって言ったね!?」
「ほんっとウザイわね。」
「泣いちゃうぞ!」
「泣け。」
「にゃぁん…まろんちゃんがぶったぁ……。」
「口癖真似しないでくれる…?もう1回ぶつわよ?チョキで。」
「チョキはぶつって言わないよ?!刺すんだよ!?」
和気あいあいと駄弁っていたその時だった。みかんがふっと立ちあがる。
「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと用事、思い出した。」
ふいっと目を逸らしながら廊下へかけていく。
ーー怪しい。あんなに見つめてくるみかんと目が合わなかった。
くりはみかんを追うことにした。さすがダンス部のエースは足も早いらしい。あっという間に見失ってしまった。
「りんごー!」
開けっ放しの窓の外からみかんの声が聞こえる。
「外……?なんで?」
だって、だって……。
くりは窓の外を見る。下にはみかんの姿。
「ここ、3階なんだけど。」
みかんって飛行魔法でもできたのかしら?あれはかなりの魔力の高さがないとできないはず。そんなに魔力があった?
それも確かめるためにくりは急いで階段を降りた。
どんっ。
「あやっ…!」
「んにゃぁっ!」
曲がり角でぶつかってしまった。
「ご、ごめんにゃさいっ!…あ。」
こんな時に焦ると噛む癖が。
「にゃ……?ふふふ、ジブン、めっさ可愛いね。…そのタイ、2年生ね?そないに急いでどこに行くん?」
くりが見上げると、強めの方言とは裏腹に、柔らかそうな雰囲気で、青い兎のぬいぐるみを持った少女……タイはピンクだから……中等部3年生が佇んでいた。
「ちょっと、友達を追いかけていて……あ、先輩、お怪我はありませんか?まろん、かなりの勢いでぶつかってしまって……ほんとにごめんなさい。」
「あらあら、ジブン、まろんちゃんって言うの?名前もかわいいんやね。」
「えっと、まろんは、まろんだけど……えっと。」
「そないに焦らなくて大丈夫。ウチは梅桃さくら。見ての通り、中等部3年生。それにしても人探しとは奇遇やね。ウチも探しとんねんで。」
「は、はぁ……。」
マイペースな人だな、とくりは思った。
「ウチ、この子に惹かれるんやけど……チョコ、どうなん?」
「そ、それよりもみかんのこと追いかけなくちゃ。すみません、失礼します!」
「みかんちゃん?」
「え。」
「みかんちゃんを追いかけとるん?」
「ど、どこ行ったかわかりますか!?」
「チョコもこの子にビビッときたんよ!」
「んにゃ?」
「ほんま?ウチもこの子やったら大歓迎やで。めっさ可愛いし……ウチのタイプやねんな。」
「んにゃ?にゃぁ?」
兎のぬいぐるみと……会話してる?喋ってる?
「にゃ!?」
突如、青い兎が取り出した星型のクリスタルが光り出す。
「やっぱりやんよ。やっぱりさくらは運が良いやんねぇ。」
「ウチ、可愛いからね。勝利の女神様が微笑んでくれるのよ。」
さくらはくりの手を取った。
「びっくりさせてすんまへん。まろんちゃんもウチらに力を貸してほしいの。一緒に着いてきてくれへん?……あ、みかんちゃんもいんで。」
「え、え?」
「これでじぇら〜と、最後の1人なの!」
「にゃ!?」
じぇら〜と!?それって、ふる〜てぃ〜ずじゃない!
「みかんちゃんの秘密、教えたる!」
「にゃ、にゃぁあーーーー!?!?」