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    じろ~

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    じろ~

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    幼い頃の兄さまが弟やその先について考えるだけのふわっとした内容の兄弟愛なSSです!色々捏造しているのでご注意ください!

    #エイムズ兄弟
    ##エイムズ兄弟

    離した先にあるものは いつかこの手を離す日が来ると、レイン・エイムズには分かっていた。
     
     彼は幼い頃から誰よりも優秀だった。生まれつきの二本線によく回る頭脳、固有魔法も戦闘向きとくれば、周りは間違いなく神覚者になれるだろうと褒めそやしたものだ。困ったことがあれば言いなさい、などと近所の人々はよく言ってくれたものだったし、両親も期待をかけてレインを可愛がってくれていた。
     しかしその両親が亡くなると、周りは手のひらを返した。保護者がいない子どもというものは、周囲からすると視界にも入れたくないものらしい。あれだけ親切だった人々は、急にレインが透明人間にでもなったかのように振る舞った。
     その時にレインは悟った。みな口では良いことを言うが、それは本当にただ言ってみただけだったのだと。行動で示してくれた者なぞ遂に現れなかった。
     そんな中で唯一態度が変わらなかったのは、弟のフィンだけだ。
     
     フィンは両親が生きていた時からよく泣く子どもだった。転んだと言っては泣き、お気に入りのおもちゃを失くしたと言っては泣いた。優しい母の膝に縋って、大粒の涙をこぼす弟の姿を見ない日は無いくらいだった。
     両親が揃って出掛けた日、庭からフィンが転がるように走ってきたことがあった。
    「にいさま! こっち来て!」
     悲痛な声でそう訴える弟に手を引かれ、レインは庭先に急いだ。そこには傷だらけの兎が一羽、自分の体を守るように身を縮めて横たわっていた。
    「うさぎさんがね、さっきから動かないんだ。にいさま、どうしよう」
     オロオロとするフィンは、まるで自分が怪我したかのようにしゃくり上げて泣いている。
     フィンを宥めるために頭を撫でてやりながら、レインは兎の傷の具合を確かめた。どれも擦り傷で、特に深い物は無さそうだった。
     そのことに安堵しつつ、レインは懐からある物を取り出す。父から教わったばかりの魔法で作った、傷が癒えるハンカチだ。それを兎の体を包むように優しく掛けてやるとポゥッと淡い光が舞い、次の瞬間には元気になった兎がハンカチの下から顔を覗かせた。
    「うさぎさん、もう痛くない?」
     まだ不安そうな声を出すフィンを振り返り、大丈夫だと言って兎をそっと撫でる。気持ちよさそうに目を細める兎を見て、フィンはパッと顔を明るくした。
    「良かった……! にいさま、ありがとう!」
     そう言ってフィンもニコニコしながら兎を撫でる。
     無邪気に兎の無事を喜ぶその姿に、レインは胸が温かくなるのを感じた。
     フィンはいつも痛みに敏感だった。自分の痛みにも、他人の痛みにも。
     寄り添おうとする優しさを持つ弟は、レインにとって何よりも守るべきものだった。
     
     家が無くなり、親戚中をたらい回しにされるようになってからも、弟はまるで泣かない兄の代わりをしているかのようによく泣いた。
     その脆すぎるほど優しく繊細な心のまま、フィンは変わらず兄のレインに縋った。「この先、碌な教育も受けられずその才能を伸ばせないまま死ぬだろう」と見切りをつけられた神童に、全幅の信頼を寄せるものはフィンだけだ。
     
     まるで虫やゴミでも見るような視線から弟を隠すために、レインはいつでも弟のそばにいた。しかし、弟を本当に笑顔にさせてやるためにはこのままではダメなのだと、とうに分かっていた。
     レインは必ず、神覚者になり世界を変える。これは夢でも理想でもなく、彼にとっては既に決定事項だった。そしてそのために弟を一旦泣かせる羽目になることも、もう決まっていた。
     繋いでいる手を見下ろす。相変わらず小さな手で、弟は必死にレインの手を握って歩いている。
     いつかこの手を離す日が来るのだろう、とレインは思った。
     鋭い胸の痛みを誤魔化すように、レインは歩みを早める。つられて走るフィンが戸惑った顔をしながらも、やがて風を切る感触に顔を綻ばせて笑う。些細な幸せを噛み締めるごとに、寂しさが顔を覗かせるのが鬱陶しい。
     しかし、この痛みの先に小さな弟が笑って暮らせる幸福な世界があるのであれば、必ずそうしなければならないとレインには分かっていた。

     
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