変わる記憶 夏は、死の気配がするから嫌いだった。
フィンは道端に転がる蝉を見る。それはもう力尽きたのかそれともこれから尽きるのか分からないけれど、まるで天を睨むように仰向けになっている。
ジリジリと焦げ付くような日差しを避けるように、フィンはローブを被った。足元が何だかユラユラと歪んで見える。
両親が死んだのも、とても暑い日だった。湿気でジメジメと蒸し暑く、生き物の全てがその生気を吸い取られるような日。あれが両親から命を奪って行った。
当時の状況は、今もよく思い出せない。小さいフィンには両親が死んだことを理解できなかったし、兄はそんな弟に現実を見せないよう庇ってくれた。やけに真っ青な空の下で兄と手を繋ぎ、徐々に土に隠されていく棺をぼんやり見つめていたことだけ覚えている。
フィンは、脳内を塗りつぶそうとする記憶を遠ざけようと首を振った。強い光で目が眩み、思わずたたらを踏む。
蜃気楼のように揺らめく視界の中で、鮮やかな黄色の花が咲き誇っている。それが何だか妙に鼻について、フィンは視線を逸らした。
それから年月が経ち、フィンは海風に吹かれて立っている。無事にテストを終えて、再び友人達と一緒に遊びに行くことになったのだ。
ドットとマッシュはいつかのようにスイカ割りではしゃいでいるし、ランスとレモンは今回初めてついてきたアンナと砂のお城を作っている。そしてフィン自身はというと、休みを取って来てくれた兄のレインと日陰で飲み物を飲んでいた。
「兄さまとも一緒に来れて嬉しいよ」
フィンがポツリとそう言うと、レインは「そうか」と穏やかに頷く。
「僕ね、兄さま」
「なんだ」
「……夏って、あんまり好きじゃなかったんだ」
その言葉に、レインは黙ってフィンを見た。その視線に促されるように、フィンは笑って続ける。
「でも、今は結構好きかも」
兄は少しの間黙って、そして微笑んでこう言った。
「オレもだ」