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    じろ~

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    じろ~

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    オチョアからメリアドールさんへのSSです!めちゃくちゃ捏造してます!

    最恐の師匠へ 師匠という人は、これまで見た人間の中でも一番怖い人であった。
     彼女の魔法は傷も疲れもたちどころに癒し、身体強化までできるという優れものである。しかし実態は体に新しく傷を作り、そこから魔力を注入することで細胞に直に働きかけるという荒技だ。彼女はチェーンソーやアイアンメイデンなどの色んな意味で強烈な道具を魔法の補助に使っており、それに脅かされた数はもう思い出せないほどである。
     強化された彼女は戦闘面でも優秀で、筋肉隆々の男でも一撃で仕留める拳を持つ。か弱い自分では師匠に太刀打ちできないのは当然のことで、何度も折檻されては彼女の容赦の無さに泣いた。
     まあ、原因は全て己にあるのだが。
     昨日は金欲しさのあまり、彼女の財布を盗もうとしたところをチェーンソーで刻まれた。そしてボロボロのまま台所まで引きずられて、師匠の好物であるカヌレを彼女の納得のいくまで作らされた。しばらくあの甘い匂いは嗅ぎたくない。
     なぜ毎回折檻されると分かっていて裏切るのか。「人間のクズ、ゴミ中のゴミ」と罵りながらも師匠が弟子である自分のことでそう頭を悩ませていることを、知らない訳ではなかった。自分とて、盗みや嘘が良くないことは分かっている。
     しかし、世の中命と金だ。自分が一番大事で、金が無くては生きていけない。逆に言えば、金さえあれば大抵のことは思いのままなのだ。背に腹はかえられぬ。
     
     そう考えながら、街中をテクテクと歩いていく。今日は師匠に買い出しに行くように命じられ、僅かばかりの金とメモを渡されていた。先日盗みを働いたばかりなのにこうして買い物に行かせる彼女は寛容なのかそれとも若干抜けているのか、はたまた「何かやらかせば殺す」と考えているのか……おそらく三つ目だろう。血も涙もない彼女のことだから。
     自分の想像にヒィッと情けない悲鳴を上げる。浮かんだ涙を拭いながら何気なく上を見ると、何やら街が騒がしかった。賑やかに飾り付けられた店のディスプレイを眺めると、そこには「お世話になっているあの人に!」と綺麗に包装された色とりどりのお菓子や小物などが山積みになっている。
     それらを見て、やっと思い出した。どうやら今日は、親しい人にプレゼントを贈る祝日だったらしい。自分には縁遠いイベントすぎて、すっかり頭から抜け落ちていた。
     街中を、プレゼントを抱えた人々が行き交っている。みんな楽しそうで幸せそうで、思わずケッと声が出る。
     目を逸らし、メモのとおりに買い物をしてさっさと帰ろうと小走りになる。これ以上こんな甘ったるい空気の中に居たくなかった。
     しかし、足はとある店の前ではたと止まってしまった。小さなウィンドウに飾られたものに、意識を奪われたからだ。
     それは小さな手芸店だった。キラキラと輝くビーズや石の中に、一つ可愛らしい大ぶりな花のパーツがあった。ちょうど師匠のお気に入りのワンピースと似た色合いで、モチーフも彼女の顔のアザの形と似通っている。
     まじまじと見てから、足を止めたことに自分で戸惑い首を傾げた。こんなものを買って帰ったところで、一文の徳にもならない。むしろ、無駄遣いしたことで師匠に手酷く叱られるだろう。そう思い、踵を返そうとする。
     でも、何だか心に引っかかってまた店にクルリと振り向いた。そのまま花をじっと見つめる。
     思えば、自分がどれだけ裏切っても変わらず傍に置いているのは師匠だけであった。
     過去にも何度か、人から施しを受けたことがある。道に蹲る自分に、食事を与えてくれた見ず知らずの人々。みんな、油断した隙に懐から金品を抜き取ると揃って顔色を変えた。恩を仇で返しやがって、そう怒鳴られた回数は両手の指では足りない。
     わざわざ他人に慈悲を与える者ほど、騙しやすい者はいなかった。彼らは善良であるからこそ、自分が被害者になった時でも自らが犯罪者になりかねないことをやり返したりはしないからだ。
     優しさをくすねて、逃げて、そうやってどれだけ生きてきたか。
     所詮は師匠も、そうやって奪われる側だと思っていた。寄生して搾り取れるところだけ美味しく頂いて、とんずらしようと思って弟子になった。
     でも実際は、何度自分がズルいことをやっても彼女はその都度律儀に怒った。罵りながらも態度を変えず、彼女は何度でも自分をこき使った。殺されかけたことは数えきれないほどあるけれど、追い出されたことは一度もない。
     その根本の善良さが、自分を捨てられない理由なのだろう。あんなに恐ろしい人なのに、肝心なところが甘いと思う。
     
     躊躇しつつ、思い切って店に入る。花を手に取って、考えを改める。これは決して日頃のお礼などではなく、未来への投資だ。ここらで一つ媚を売っておけば、師匠からの扱いが良くなるかもしれないから。
     本当に、それだけだ。
     ブツブツ考えながら、ピアスの金具を見つけてそれも一緒にレジに持っていく。師匠の厳しいカヌレ作り講義のおかげで、今では製菓に関してはなかなかのものになっている。医院に来た患者相手にカヌレを売り捌こうとし、師匠にボコボコにされたこともあった。
     それらの経験から、手先の器用さにはだいぶ自信がある。おそらくこれも、さほど時間をかけず出来るだろう。
     店員から花と金具を受け取って、帰りの道を急いだ。出来上がったピアスを受け取った時、師匠は一体どんな顔をするだろうか。
     それを想像して、クククと笑った。
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