人形は歌わない 炎のゴブレット X 部屋で喜んで衣装を着せられ、化粧も施されて、肩まで伸びた髪も巻かれて結ばれて、付属の髪飾りで仕上げ。内心泣きながら、私よりもかわいい女子たちと一緒に会場へと向かう。周りの視線が痛い、泣いた。
『あなたの綺麗さに見惚れてるのよ』
『三人と比べられてるんだって』
『そんなことないってば』
『あ、ドラコ!』
『見てよ今日の咲夜!』
なんていらんことをするんだ君らは。いつもの三人で話し込んでいたドラコが、こちらを向いた。返ってきたのは一瞬の驚きと、その後の渾身のドヤ顔。
『どうもありがとうございます、ドラコ。ブラック家にわざわざ手紙送ったんでしょ』
『ああ、でもマホウトコロとの連絡は校長とシリウスだ。似合ってる。で、肝心のパートナーは?』
『あ、そうよ、それは聞いてなかった』
決まっているわけが無かろう昨日の今日で。そんな思いを込めて皆を見る。それを感じ取ったのか、もうわかっていたのか、皆がため息をついた。そんな中、ハリーとロンがこっちに来て、こう言った。
『『ハーマイオニー知らない?!』』
『え?見てないわ』
『いつも一緒にいる子よね、そういえば、見てないわね』
『……今見えてる』
『え、嘘』
『あっちよ、ほら』
パンジーが指を差した方向を見る。口をあんぐりと開ける、私含めた御一行。えぐ可愛いんだが、え、パートナーなってもらえないかな、いや駄目か、もういるんだっけ……いや一回踊ってもらいたいんだが。
『咲夜、心の声駄々洩れだ』
『日本語だからわからないけど、どうせ一緒に踊りたいとか考えてるのよ』
『その通り……ねえ、もしかしてそろそろ始まったりする?』
『ああ、そうね』
『ドラコ、頼む、一生に一度のお願いだ、今だけ、一瞬だけパートナーなって!』
一生に一度は何度も繰り返される。もう既にドラコには何度か言ったことのある台詞である。ドラコはわざとっぽくため息をついて、首を横に振る。
『頼むよー!!』
『その必要はないだろ、ほら』
ドラコが顎で私の背後を示した。私の背後や横にいたルームメイトは、いつの間にかそんな彼の方へ移動している……すごい嫌な予感がするんだよね。
『咲夜』
聞きなれた声に、徐に振り返った。きちんとした服、少し整えられて耳にかけられた黒髪、そんな彼を見つめる女子生徒たち。やめろこっち見んな全体的に。
『お手をどうぞ』
『……マジで言ってる?私、変な呪文かけたかな、自分に』
『冗談言わないの、ほら時間よ、行ってきなさいって』
『王子様と一緒にね!』
『パンジー、変なこと言わない!っわ』
パンジーか誰かに背中を押されて、前へ二三歩進んだ。その勢いのままシリウスが私の手を取って、会場の中央へ。途中合流したハリーには何故かウィンクされた。あいつ、何か知ってたな。文句を言ってやろうかと思ったが、音楽が流れ始めてしまった。
『ど、どうしよう、シリウス、私__』
『大丈夫、右手はそのまま、左手は私の腕をつかんで』
本当に、ダンスの授業はさぼってはいないが、真面目には受けていない。日本で一時期練習していたダンスとも、全く系統が違う、音楽ももちろんジャンルが違うし。青い顔のままシリウスの言葉の通りに手を置いて、ステップを踏む。
『足元は見るな、上を向いて』
『え、でも』
『私がリードする、心配するな』
足を踏んでしまうかもしれない。昨日初めて履いた靴だし、ダンスのステップもよくわかっていない。パートナーの言葉を信じて恐る恐る、顔を上げた。少し見上げるような姿勢で、シリウスと目が合った。嬉しそうな、楽しそうな顔。私を見つめる目は、まるで__
『ほらっ』
少し勢いをつけて、その場でジャンプ。シリウスがそれを支えて、一瞬だけ浮いた。少しだけ高くなった視線に、目を見開いた。それを見て、シリウスがさらに顔を綻ばせる。
それ以降は喋ることなく、踊り切った。拍手の後に、皆が一緒に踊り始める。私たちもそれに続いて、また踊る。最初よりは慣れて、ぎこちなさも無くなった、気がする。