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    asamo

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    asamo

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    ワンドロライに参加させて頂いたものです。
    2023.11.11

    「じゃあまたー」
    「みんな体に気ぃ付けてなー」

     飲み会も終わり仲間たちがバラバラに帰路につく中、お目当ての背中を探す。右、左。首を大きく左右に振り、そして見つけた。寒そうにストールへ顔を埋め、けれど姿勢良くピシッと伸ばされた背中。

    「ふかっ」

     声を上げ走り出そうとしたその時、勢いよくパーカーのフードを掴まれた。ぐえっと変な声が出る。

    「おい沢北」
    「か、河田さん。何すか」
    「深津んとこ行くのか」
    「その、つもりですけど……」
    「酒、どれぐらい飲んだ」

     じとりと睨まれ、思わず肩を窄めてしまいそうになる。けどここで引くわけにはいかない。今日こそは。そう心に決めて来たのだから。

    「そこまで酔ってないっすよ。理性無くして無理やり襲ったりなんかしません」
    「お前なあ……はぁ、まあいいわ。気ぃつけろや」

     負けじと睨み返せば、河田さんはため息を吐いてオレの背中を押してくれた。
     先ほどの方角へ目を遣る。見失ってしまったかと思ったけれど、深津さんは立ち止まり空を見上げていた。良かった、今日が星の見えるよく晴れた日で。

    「ふーかーつーさん! どこ行くんですか?」
    「……家に帰るピョン」
    「はーい。じゃあオレも付いて行きます。そういうルールなんで」
    「酔ってるピョン?」
    「酔ってないっす。どこ行くんですかゲーム、知りません?」
    「知らんピョン」
    「やっぱりダメですか?」
    「まあ、ルールなら仕方ないピョン」
    「やった。深津さんのそういうノリ良いところ好きっす」

     タクシーの後部座席に二人で乗り込み、深津さんが運転手に目的地を告げる。身体はどこも触れ合ってはいないのに、狭いタクシーの中では嫌でも隣の人の体温を感じてしまう。決して嫌ではないけれど。寧ろ触れたいのだけれど。でも、そんな下心を気付かれてはいけないし、警戒心を持たれてはいけないのだ。部屋に入るまでは。

    「で、結局そのゲームのゴールはどこピョン?」
    「ゴールは深津さんちです。だから一発クリアです」

     ピースサインをしてみせれば、深津さんは「よく分からんゲームだピョン」と言って首を傾げた。
     正直言って、オレもゲームの詳しいルールは知らない。以前番組で一緒になったお笑い芸人の人に聞いただけだ。何でもバラエティ番組のゲストに呼ばれこのゲームをして、秋田まで行く羽目になったんだとか。

    「じゃあゲームをクリアしたお前はオレの家で何するピョン」
    「久々に会えたんだしもっと話しましょうよ〜飲み会じゃ隣になれなかったしオレ全然話し足りないっすよ」
    「クリア特典がささやかすぎるピョン」

     深津さんは笑うけど、これは本音だ。前回会った時は聞き慣れないものだった語尾が今またピョンに戻っていることや、現在所属しているチームのこと、恋人の有無、オレの気持ちと、深津さんの気持ち。話したいことがたくさんある。
     実際はもっと過激なことも思い描いているけれど、それは長い間燃え続けているこの想いが届いてからの話だ。それまでは可愛い後輩の顔でいるのだ。そのために酒の量だってセーブした。衝動で突き進んでしまわないように。酒は加減を覚えて一人前だと、ベロベロに酔ったテツが言ってたし。
     そんなことを話しているうちに、深津さんの住むマンションに着いた。オレを先に中に入れてくれたので、遠慮なく靴を脱ぐ。そしてその靴を揃えるため振り返ろうとした瞬間、ドンと腰に衝撃を受けた。顔を下に向ければ、自分の腰に深津さんの腕が巻き付いている。

    「わ、大丈夫ですか? 結構酔ってます?」
    「ん……酔ってるピョン……」

     知っている。飲み会でも結構飲んでいたし、表情もずっとぽやんとしているし、纏う空気もいつもよりふわふわしている。可愛くて何度も抱きしめてしまいそうになったけれど、それを必死に耐え、触れそうで触れない距離を保ってここまで来たのだ。
     しかしこんな風に深津さんの方から距離を詰めてこられると、理性が揺らぎそうになる。可愛い後輩の顔はもう終わりだ。今からは、この人のことを好きな『男』の顔になる。

    「もー、誰にでもこういうことしてんすか? ってかダメっすよ、そんな酔った状態で簡単に人を家に入れたら」
    「……お前こそ、誰の家にもこうやって上がり込んでるピョン?」
    「そんなわけないでしょ。深津さんだけですよ」

     腰に巻き付いた腕をそっと撫でる。気持ちに気付いてもらえるように、愛しさを含ませながら。
     すると深津さんはとんでもないことを言い出した。

    「お前、ずっとオレのことそういう目で見てたピョン。気付いてないとでも思ってたピョン? だから、お膳立てしてやったピョン」
    「え?」
    「酔ったフリをして、河田に捕まったお前を待ってやって、お前のゲームに乗ってやる。で、こうやって部屋に誘い込む。ゲームクリアだピョン」
    「え? え?」

     上半身ごと振り返って見れば、ぽやんとした顔も、ふわふわとした空気も全く無い、にやりと笑う深津さんがいた。

    「ぜ、全部演技だったってこと!?」

     ずっとこの人を手に入れたくて、今日がチャンスだと意気込んでやって来た。けどどうやら違ったらしい。ここは蜘蛛の巣で、蟻地獄で、オレは誘い込まれていたのだ。もしかしてあの時河田さんが心配していたのは深津さんじゃなく、オレの方だったのだろうか。

    「……あのー、もう一回聞きますけど、誰にでもこういうことしてます?」
    「お前にしかしないピョン」
    「良かった。じゃあいいです」

     だって、あなたのためなら喜んでこの身を差し出せる。餌にだってなれる。どうかここが一生抜け出せない罠であるようにと願いながら、あたたかい背中にそっと腕を回した。
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    Orr_Ebi

    DONE俳優パロ沢深。憑依型の深津を書きたかっただけ。バスケもしなければ特に恋愛もしない。時代考証その他雑です許してください。本当に好き勝手やってるので許せる方のみ読んでください。すみませんでした。
     男は生粋の軍人だった。父は軍部総督、母は医務局で働く看護軍人。いつも国とはなにか、戦うとはなにかを聞かされ、育ってきた。
    15の時、士官学校に入った。幼い時から父自ら手解きを受けていたので、学校の平凡な訓練は退屈でしょうがなかった。17になった夏、士官学校の同級生と街に出かけた。士官学校は全寮制で、関東の田舎から出てきていた男にとって、東京という街で遊ぶのは刺激的だった。同級生は、東京出身だったから危ない遊びや男1人だけでは入れない場所まで精通していて、男を連れ出した。
    ある時、言われた。「女を抱いたことはあるか?」ない。まだ純粋で、生粋の童貞だ。口付けを交わしたことすら無かった。女子の手を握るなどもってのほか。男にとって、女とは未知の生物だった。「それなら、練習しておいた方がいい」練習?「お前は士官学校でも1番の成績だ。おそらく首席で卒業するだろう。出世の道に、女と酒はつきものだから、今から練習しておけ」まさかこれから、遊郭にでも行くのか。女を抱きに?「そんなわけない、まだ士官学生のうちから女を抱いて、軍人になってからその女に子供が出来たなんて言われたらどうする。後の祭りだ。抱くのは女じゃない」じゃあなんだ。「男だよ男」
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