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    flor_feny

    @flor_feny

    ☿ジェターク兄弟(グエラウ)の話を上げていく予定です

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    グエラウ 今ある愛だけじゃたりない#3 24話から半年後の未練たらたら兄さんと弟の話 前回の続き、途中まで
    ※ラくんの地球での生活をわりと好意的に解釈して書いています

    #グエラウ
    guelau

    今ある愛だけじゃたりない#3 甘味だけで満たそうと酷使された腹を抱えて、二人でモール内のベンチに背中を預けていた。なんとなく頭がぼーっとする。大量の糖分を立て続けに摂取したためか、体の中で処理が追いついていない。
    「大丈夫? 兄さん」
    「……大丈夫だが、初っ端からゴルゴンゾーラと蜂蜜のピザを食うことになるとは」
    「ごめん。どうしても今日は甘い物が食べたくて」
    「いや、構わん。好きな物を食べろと言ったのは俺だ」
     昼食前の宣言通り、ラウダと一緒にピザとワッフル、特大のパフェを平らげた。そしてダメ押しのフルーツジュースのメガサイズで遅い昼食を締めた。胃の容量的には、まだまだ問題なく入る。だが学生の時よりも明らかに消費カロリーが少ない生活をしている今、追加で何かを胃に入れることは大いに躊躇われた。
     パフェにいたっては五人前もある特大サイズだ。学生時代にカミル達と一度食べていたはずなのに、ジョッキ並みの大きな器にきらびやかに盛られたパフェがいざ目の前に運ばれてくると、さあ攻略してみろと言わんばかりの迫力に圧倒されてしまった。いつの間にかリニューアルされて若干ボリュームアップしていたらしい。
    「なあラウダ。さすがに果物だけ選んで食べるのは良識を疑われるからやめておけよ」
    「他所じゃしないよ、あんなこと。兄さんの前だけだよ」
    「俺相手ならいいってのか」
     ラウダが満更でもなさそうにふにゃりと顔を崩したので、肘で軽く小突く。
     ここで残してしまっては男が廃ると俺も一緒にパフェをつついたが、徹底的に果物を狙って食べ進めていくラウダのいじらしさとがめつさは、まるで好き嫌いをする子供のようだった。アイスや生クリーム、チョコレートやコーンフレークを半分以上も俺に押しつけて、ひたすら自分は果物を口に運んでいく。一緒に過ごしていた時にも、ここまで露骨な食べ方をする弟は見たことがなかった。
     地球にいた半年間にも、きっと誰にも見せたことがないであろう幼さの発露。俺の前で隠すことなく露わにした、普段は抑えているわがままな甘え。
     ラウダのこんな姿を知っているのは自分だけだという事実に、どこか歪んでいると思いつつ、俺は見苦しさではなく優越感を覚えていた。俺だけが知っていればいい――そんな独占欲に似た気持ちが湧いてくる。
    「でも、本当に無茶に付き合わせてしまってごめん。検査前だから控えた方が良いのは言うまでもないんだけど、向こうでこんなチートデイみたいな極端な物を食べたら絶対に止められるから、できなくって」
     困ったように眉を下げながら笑い、ラウダはぽんぽんと自分の腹を叩いた。
     弟の認識にはまったくその通りだと頷くしかない。ペトラの前でこんな甘いものばかり食べでもしたら、栄養バランスについて小言が飛んでくるに決まっている。先輩からも注意してやってください、なんて成人になった弟の食生活への口出しを依頼されたくはない。
    「まあ、健康じゃなかったら好きな物もそのうち食べられなくなる。普段はしっかり節制しているんだろ?」
    「勿論。気をつけてるよ」
    「完食できるだけの胃腸があることに感謝だな」
    「そうだね」
     ラウダを地球に送り出す直前と、前回三ヶ月前のモニタリング検査では、肝機能や糖代謝、消化に関わる臓器などの各種数値は基準値の範囲内だった。
     業務中に倒れてデータストーム障害による後遺症が発覚した当初、顕著な異常を示していた血球に関する検査値も、根気強く治療を続けてきたことでほぼ正常値に近いところまで回復している。今回の検査でもより良好な結果が出ることを期待している。

    「それにしても、地球にいた方が季節ごとに旬があるから、もっとうまい果物が食えるんじゃないのか」
    「どうだろう。正直、物によるかな……流通や収穫後の設備が安定している物は、フロント産よりも味がハッキリしていておいしいんだけど、全部が全部そういうわけじゃないから。僕の所も簡単に手に入らない果物が結構多いし、一ヶ月前まで安価に買えていた物がいきなり品薄、倍近くに跳ね上がることもあったし」
    「そうか……」
    「こないだも言ったかもしれないけど、北米大陸の二年連続の大規模干ばつのせいで一部食糧品はずっと値上がりしているし、紛争で港湾ルートを塞がれて出荷制限、テロで変電所が狙われて大型保管施設が停電して青果がダメになったりとか……安定しているフロントと違って、向こうはトラブルが尽きないから」
     何の気なしに振ってみた話題だったが、ラウダの口から語られる地球の実情は生々しい。そのあたりの詳細な肌感覚は、実際に現地に腰を落ち着けて暮らし、継続的に情報収集している人間にしか分からないことだろう。
     スペーシアンとしてフロントで生活を送る俺は、年中安定供給され、通年価格がほぼ変動することのない食糧品をごく当たり前のものとして享受している。大多数のスペーシアンにとってはそれが生まれた時からの普通であり、その生活がある日急に破綻することを想像すらできない人も多いだろう。
     だからこそラウダには、宇宙から簡単には動けない俺に代わって、ラウダ自身の目と耳を通して仕入れた地球の状況を報告してもらっている。
     ペトラのテスターとしての生活に付き添いつつ、地球で仕事をしながら日々得られた見聞を会社に還元したい。ラウダからその申し出を受けた際、弟の視野がジェターク社そのものだけでなく、会社を取り巻く社会にまで広がっていたことが、素直に嬉しく、誇らしかった。
     手元からラウダがいなくなることへの寂しさは当然あった。だが、会社の今後のビジョンを共有する弟が、自ら地球の実情を知りたいと欲したことが、自分達のこれからに間違いなくプラスになると判断した。だから、許可して地球へ送り出した。

    「お前の報告はいつも詳細だな。助かる」
    「いいって、それが僕の仕事なんだから。兄さんのためになってるのなら幸いだよ」
     謙遜しておだやかな表情を浮かべるラウダに、確かな成長を感じる。同時に、自分の手から離れてしまったのだと強く意識してしまう。
     三年半前のあの時――ミオリネとケナンジ隊長と一緒にクイーン・ハーバーへ赴いた時、俺はほんのわずかな時間だけしか市井を見ることができなかった。
     今、地球で俺とは別の暮らしを送るラウダがもたらす生きた情報を、俺は信頼して活用している。今更戻ってきてほしいとは言い難くなってしまったことが、ひたすらに惜しい。
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