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    rokuro_yugo

    ちまちま悠五を書いてます。

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    rokuro_yugo

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    硝子さんが書きたいなぁと思ったやつ😌

    珍しく入れ込んでいるな、と思っていた。
    飄々とした態度で誰彼構わず軽いノリで接するが、常にどこか、一線を置いている。踏み込み過ぎず、踏み込ませ過ぎず。胡散臭いニヤケ面で上手く隠しながら、ギリギリのラインを渡り歩いている。そんな男が、彼が死んだ時に見せた怒り。あの爆発的な感情は、場に居合わせた人間に多少の恐れを抱かせるほどの激情だった。「お気に入り」。だなんて言葉では、到底、括れないほどに。
    これはもしや。と、密かに様子を伺い、最近ではもはや確信に変わっていた矢先のこと。当の本人から現在進行形でこんな話を聞かされている。
    「悠仁がさ〜デートするんだって!いいよね〜まさに青春。存分に謳歌してもらいたいよね」
    出してやった茶に砂糖をぼちゃぼちゃ入れながら嬉々として語る様子に少なからず驚いて、思わず聞いてしまった。
    「君…いいのか?」
    すると五条は首を傾げ、
    「え?何が?」
    逆に尋ねてきた。まじか、こいつ…いや、それより質問に質問で返すな。
    話を要約すると、先日の任務中に知り合った女性と虎杖が意気投合。そのまま連絡先を交換。今日のデートに至る。そういうことらしい。
    「あ。悠仁が宿儺の器だってこと?まぁ、まだそんなに本数飲んでないし、大丈夫でしょ」
    「そうじゃない。君自身が、いいのかと聞いている」
    「何それ。全然いいんじゃない?悠仁だってお年頃の男の子よ?そういう経験だって、出来るに越したことないでしょ」
    からから笑いながらカップに手を伸ばした五条は直後、ぶーっ!と茶を噴き出した。
    「きたなっ…ちゃんと拭けよ」
    「ちょ、硝子!これ、コーヒーじゃないじゃん!梅こんぶ茶じゃん!」
    「先に言っただろう、コーヒーは切らしていると。聞いていなかった方が悪い」
    「だからって、砂糖入れてたら止めない⁈ふつう」
    「君が普通を求めるか。大の甘党は梅こんぶ茶にも砂糖を入れるのかと感心してたところだ」
    「せめて緑茶でしょ…おえ、口ん中きもちわる〜」
    べーっと舌を出し、勝手に冷蔵庫を開けて中を物色し始めた。チッ、と舌打ちが聞こえた気がしたが、敢えてスルーしておこう。生憎、ジュースの類はあまり好まない。
    「そんなことにも気付かないなんて、よほど心ここに在らずだったようだな?」
    無い物を求めても仕方がないと諦めたらしい。ボトルの飲料水に口をつける五条にそう言うと、
    「………え?いや、たまたまさ。最強だってうっかりすることくらいあるでしょ」
    たっぷり8割方飲み干してから、返事が返ってきた。
    「そんなに気になるなら様子でも見てきたらいい。気配を消すのは得意だろう」
    ボトルが空になった。
    「…悠仁がさ、デートするんだって」
    「あぁ。そうらしいな」
    空になったボトルを、いらないレシートを丸めるようにクシャクシャに潰し、五条が振り返る。
    「じょぉご〜〜〜!どうじよ〜〜〜!」
    「きたなっ…」
    めちゃくちゃ泣いていた。鼻水も盛大に垂らしながら。ご自慢の顔面が台無し。
    「僕より上玉な女なんてこの世にいるわけないのにさ、なんで悠仁はどこの馬の骨とも知れない女とデートなんかするの?僕との方が絶対楽しいのにさ。悠仁は優しいから、きっと流されてるんだ。それでうっかり絆されて、本格的に付き合いだしちゃうんだよ。そしたら僕と遊んでくれなくなるじゃん。そんなの死んでもヤダ。悠仁との時間が無くなるなんて耐えられない。ムリ。死んでしまう」
    「…」
    どの口が、青春を謳歌してもらいたいよね!などとほざいていたのか。少し突けばこの通り、見栄も意地も取っ払った本音が濁流の如く凄まじい勢いで流れ出してきた。それにしても見事なまでの開き直りっぷりだ。いっそ清々しい。
    「いま言った通りのことを虎杖に伝えてみれば?ほら、録音してあるから」
    「硝子って僕のこと嫌いなんじゃないかなって本気で思うよね。たまに」
    「それは歌姫先輩だから」
    「え。あいつ、僕のこと嫌いなの?」
    新しくタバコを一本取り出し、窓際に立つ。
    「私が口を挟むことでもないけど」
    火をつけて煙を吐き出すと、細い糸のような紫煙が空に昇っていく。
    「君のクソみたいな本音を聞いたところで引くようなタマには見えないな、彼は。私は引いたが」
    「クソって言った?」
    「その上で選択するのは虎杖自身。ウジウジしてるヒマがあるなら、さっさとケリつけてきたらどうだ」
    他人の色恋沙汰に口を挟むなんて本当に不本意だが、この男がウジウジしていると任務に支障をきたして伊地知の胃に穴が空きそうだから、これは後輩助けの一環ということにしておこうか。
    「それとも、選ばれる自信がないのか?最強ともあろう男が」
    五条が動いた。
    「…硝子って僕のこと結構、好きだよね」
    「やかましい。行くならさっさと行け」
    「うん。…さんきゅ」
    らしくない五条は気持ち悪い。見たくもないのでシッシと手を振って追いやると、じゃあね、と笑って一瞬のうちに姿を消した。
    …相変わらず手のかかるやつだ。
    昔からそうだった。たった一人の親友と共にバカばかりして、クズ共、と思いながらもなんだかんだ、二人を見ているのは嫌いじゃなかった。
    なぁ、五条。気付いているか。
    飄々とした態度と胡散臭いニヤケ面で誰もと一線を置いている君が、虎杖と一緒に居る時だけは、あの頃のように自然体で笑っていること。
    感傷に浸るタチではないが、そんな様子を見ていたら、ちょっとくらい背中を押してやってもいいかなという気になったのだ。
    青春は一度きりだなんて誰が決めた?
    今からでも、何度でも、咲かせればいいじゃないか。
    「ま、実るかどうかは別だけどな」
    もし当たって砕けて、また泣きながら戻ってきたら、話くらいは聞いてやろう。酒代はもちろん、あいつの奢りで。



    行き先を聞いてなかった…。
    あまりにも間抜け過ぎる現状に、さすがの僕でも些かショックを受ける。いざ悠仁を掻っ攫ってこようと意気込んだは良いものの、正門を出たところで身動きが取れなくなってしまった。
    上京して数ヶ月が経ったとはいえ、悠仁はまだ土地勘はほぼ無いに等しいだろう。任務の時は基本、車で送迎だし、休日は公共機関を使うこともあるだろうけど大抵、恵や野薔薇も一緒のはず。デートまで同級生と同行はしないだろうから、実質、いま悠仁は一人。相手は誰だか知らないが、そう遠くへは行くまい。しかしバスか電車かも分からないし、だったら空中から探した方が早いかもしれない。東京の雑踏の中からでも、悠仁のことなら見つけられる自信がある。地下鉄乗ってたらアウトだけど。
    …そうか。僕は、悠仁のことが好きだったんだな。
    悠仁がデートに行くという話を聞いたのは野薔薇からだった。野薔薇は「クソ生意気な!」とやさぐれていたけれど(うちの女性陣、クソクソ言い過ぎじゃない?)、その時の僕はと言えば嘘偽りなく、喜ばしく思ったはずだった。死と隣り合わせの呪われた世界に身を置いているからこそ、可愛い生徒たちには可能な限り、楽しく生きて欲しいと願っている。けれど任務が終わって一人になった途端、なんだかお腹がシクシクと痛む気がした。変なものでも食べたかな?今日はもう寝ちゃおう!とベッドに横たわっても、なかなか寝付けなかった。ぼんやりと、デートの相手ってどんな子なのかなとか、悠仁はどんな風にエスコートするのかなそもそも出来るのか?なんて考えていたら余計に眠れなくなった。そういえば翌日、クマ出来てるけど大丈夫?って、悠仁に心配されたっけ。
    …改めて思い返すと、めちゃくちゃ気にしてるな、僕。
    悠仁とデート出来る子のことが羨ましかった。僕だって悠仁とデートしたい。手も繋ぎたいし、キスだってしたい。触りたいし、触って欲しい。悠仁に触っていいのは僕だけだし、悠仁にもそう思って欲しい。いったん自覚してしまえば、後から後から欲ばかりが溢れてくる。
    「あれ。先生?そんなところでどしたん」
    「…!ゆうじっ」
    いま一番聞きたかった声がした。坂道を歩いてくる悠仁が見える。咄嗟に抱き着こうとしたけれど、なんとか踏みとどまった自分を褒めてやりたい。気持ちのままに話し始めれば、さっきドバーッと垂れ流したみたいに、また止まらなくなるだろう。
    コホン、と咳払いをひとつして、呼吸を整える。
    「ず、ずいぶん早いお帰りだね。良かったの?」
    「へ?何が?」
    「だって…デートだったんでしょ、悠仁…」
    「あー…釘崎に聞いた?」
    気まずげに頬を搔く悠仁。ほ、ほんとにデートだったんだ…野薔薇にからかわれた説も候補にあったけど、これはガチだ…。
    「…生意気だ!って怒ってたよ」
    改めて話を聞くに。知り合った女性は同郷で、故郷の話で盛り上がった。彼女は所用で数日間だけ東京に来ており、今日が最終日。帰郷前に観光をしたいが知り合いもおらず、案内をしてくれないかと頼まれた、とのことだった。
    「俺も詳しくないからさ。時間も無かったし、スカイツリーしか案内できんかった」
    それでも女性は写真をたくさん撮って、満足して帰って行ったそうだ。
    「え…それだけ?デートっていうか、観光案内?」
    「あー、いや…また会える?みたいなこと聞かれたけど」
    「下心ありまくりじゃん!で、何て言ったの、また会うの?付き合うの?」
    僕の悠仁なのに!
    自分も自覚したばかりだというのに、すでに独占欲が大変なことになっている。気になり過ぎて質問責めにしてしまう。すると悠仁は、
    「好きな人がいるからそういう意味なら会えない、って断ったよ」
    と言った。
    「そ、そうなんだ…」
    いまの台詞を反芻する。もう会わないらしい。どうしよう…めちゃくちゃホッとしてる。しかし次の瞬間、もっとどデカい爆弾がしれっと投下されたことに気がついた。
    「す…すきなヒト⁈ いるの、ゆうじ」
    動揺してカタコトになってしまう。
    「うん。さっき歩いててもさ、これ似合いそうだなーとか、好きそうだなーって、その人のことばっかり考えちゃった」
    「だ、だいすきじゃん…」
    「うん。めちゃくちゃ大好き」
    照れ臭そうに、誰かを想って悠仁が笑う。目を細めてしまいそうになるほど、僕には眩しく映る。
    …あ、やばい。泣きそう。
    僕は悠仁が好きなんだ!って自覚して、楽しくなった。悠仁に会って、話が出来て、嬉しくなった。それなのに今は悲しくて寂しくて、メンタルがぐちゃぐちゃだ。本気で人を好きになると、こんなにも自分が自分でなくなるのか。初めて知った。
    「…悠仁が、デートするって聞いて」
    「うん?」
    「おめでとう!どこまでやった⁈…って、盛大にクラッカー鳴らして、くす玉割ろうと思ってたんだけど」
    「いや、いらんよ⁈ 何そのサプライズ」
    「出来なかった。っていうかすごくイヤだった。僕も、おまえのことが好きなんだよ」
    もう何言ってんだか自分でも分からない。恋愛初心者かよ。…いや、そうだな。初心者だ。硝子に背中を押されなかったらきっと、見て見ぬふりをしていた恋心。良い歳した大人だけどさ、これって多分、初恋なんだ。だから柄にもなく、ものすごく混乱してるし、緊張してる。
    「…悠仁が好きだよ。僕のことも好きになってほしい」
    フラれたらどうしよう。しばらく立ち直れないと思う。そんな可能性、ほんとは1ミリだって想像したくないけれど、考えずに玉砕する方がダメージでかいからほんのちょっとは心の準備をしておかなければならない。まぁ、一回や百回フラれたくらいで諦めるつもりは毛頭ないんだけど。
    「…」
    なかなか返事が返ってこない。恐る恐る悠仁を見ると真っ赤な顔をして固まっていて、僕までビックリしてしまった。
    「ゆうじ」
    「ちょ、え、ちょっと待って…せんせいが、おれを、すき?」
    口元を手で覆い、ふらふらと視線が泳ぐ。やっぱり顔は真っ赤なままで。あれ?なんだろ、この反応。
    「大丈夫?バグってるよ」
    …もしかして、期待しても、いいんだろうか。
    「だいじょばないです…」
    心臓破裂して死にそう、と言う悠仁。おまえの場合は笑えないからな、それ。
    目を閉じて、悠仁が深呼吸をする。再び目を開けた時、定まらなかった視線は真っ直ぐ僕に、僕だけに向かっていた。
    決して良いとは言えない目付きの、僕の大好きな、太陽の光のような瞳。
    「…俺、虎杖悠仁は。五条先生のことが、大好きです。あんまり長くは一緒にいれないかもしれんけど…先生のこと、めちゃくちゃ大切にします。ので、えーっと…よ、よろしくおなしゃーす!」
    バッと身体を直角に曲げて、お辞儀のような姿勢をとる悠仁。真っ赤に染まった首筋に汗が流れるのが見えて、心臓がギュンってなった。愛おしくてたまらない。
    「バカだね、悠仁」
    「え?」
    顔を上げた瞬間を狙って思い切り飛びついた。僕がこんなことしたら骨が何本か逝っちゃうかもだけど、さすが悠仁、不意打ちでもしっかり受け止めてくれた。ゆっくり、背中をヨスヨスと撫でてくれる。悠仁の体温、僕の身体にしっくり馴染む。最高に気持ちいい。
    「ありがとう。すっごく嬉しい」
    頭がふわふわして、心がぽかぽかする。これがきっと、幸せ、ってやつなんだろう。術式なんか使わなくても、今ならほんとに空も飛べそう。
    楽しくて嬉しくて悲しくて寂しくて、どうしようもなく、幸せ。好きが溢れて、思わず頬擦りをする。悠仁はまた固まってしまった。浮かれてる僕はそれが面白くて、今度は鼻先にキスをする。
    僕の方こそ、全身全霊をかけて君を生かすと約束しよう。悠仁がいない人生なんて、味気なくてつまらない。何年、何十年経って、なんだかんだずーっと一緒にいたねって、笑い合おうよ。
    「だーいすきだよ、悠仁!」
    どこまで許してくれるかな、って一瞬迷ったけど、まぁどうせするんだしいっか。と思って、唇にキスをした。迷ってる時間がもったいない。触れ合うだけのキスを、悠仁がそっと押し返してくれる。それがあまりに嬉しくて、僕はとうとう、堪えきれずに泣いてしまった。
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