冒頭没たちの供養 ◆ ◆ ◆
『冒頭没』
人にはどうしても耐え難いものの1つや2つあるだろう。吸血鬼だってそうだ。ドラルクは耐え難きを耐え、忍びきれずブチキレた。
「ロナルド君!君はお風呂に入っているのかね!?」
初手から喧嘩腰だった。
「ウルセー!入っとるわ!」
右ストレートに砂が舞う。
砂から復活しながら、ドラルクはロナルドから距離を取った。殴られ続けては話が進まないし、やはり耐え難い。
「ちゃんと洗ってる?」
「当たり前だろ!」
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という、突然の「お前、臭い」という暴言の嵐。お風呂に突っ込もうと思って書き始めた物の、20代前半のガラスハートにこれはきつい。可哀相。よって没。
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『冒頭没2』
冬の初めの真夜中に、季節外れの強い通り雨が訪れた。ほとんどの人間たちはベッドの中で、翌朝濡れた道路に雨の存在を知る程度のものだったが、外出していた者たちにとっては死活問題だった。特に吸血鬼にとっては。
「おい、ドラ公!もっと本気出して走れ!」
「本気だとも!」
バシャバシャと泥水を跳ね上げ、その長い二本の足をせっせこ走らせる二人。ドラルクの抱いていた愛しい丸は、少しでもドラルクの速度を上げるため今はロナルドが抱えている。
「ウエーン!河原に雨宿りの場所が無いよー!」
「混ざると面倒だから砂にして包むか!?」
「ナイスアイディア!」
事務所方面へ向かいながら雨宿りをと思ったが、虚弱なドラルクに走り続ける体力は無く、このままでは体力切れか転ぶか何らかの事情かで砂となり泥濘に混ざってしまうだろう。泥濘とドラルクの砂を抱えて走るより、ドラルクの砂だけ抱える方がまだマシだとロナルドは判断し、ドラルクも賛同した。つまり同意の上の行為だ。
濡れているが土の無い草の上に黒いマントを広げ、その上に立つドラルクに脳天チョップをすれば、一抱えの砂場の出来上がり。それを取りこぼしのないようマントでぐるぐると包む。アルマジロ色の丸を右脇に、黒く歪な丸を左脇に、吸血鬼退治人のロナルドは雨夜の新横浜をひた走った。
ようやく事務所に帰り、ドラルクが下ろされた場所はいつもの部屋の脱衣場だった。砂から復活する隣では、ロナルドが肌に張り付くインナーを脱ごうと暴れていた。
「ちょっとゴリラ!暴れすぎ!」
「テメェ抱えて走ってやったんだよ!」
「そりゃ、どーも!」
とにかく二人と一匹は冷えていた。濡れて丸まっていたジョンとドラルクも、濡れて走ったロナルドも、まずは体を温めなくてはならない。
「俺がシャワー先だからな」
「どうぞ。私とジョンはお風呂があるから」
「え?沸いてんの?」
「また一段と冷え込んだからね。帰ったらすぐに入れるよう沸かして出たんだよ」
すいすいと手を動かし、慣れた衣服を脱ぎ去ると、五歳児の「俺も風呂!」という音を聞きながらドラルクはジョンを抱えて風呂場へ移動した。洗面器にお湯を移してジョンを浸けると、掛け湯して湯船に浸かる。芯まで冷えた体がゆっくりと解れていった。
「俺も湯船が良い~」
全裸の乱入ゴリラに、先に
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砂にして運んでやるなんて、ロナ造優しすぎ……?と没った二件目。二色の丸いのを抱えて走るロナ君は可愛いので、いつかどこかでまた書けますように(合掌)