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    らいち。

    @ramuneeeedo

    静かに暮らしたいおたく。

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    らいち。

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    本にするオベぐだの導入。
    とりあえずこんな感じだよ〜っていう。
    現パロ?です。

    バンビと王様。1プロローグ


    あるところに人間嫌いの若い男がいました。
    男は人里を離れ、深い森の中で動物と虫に囲まれて静かに暮らしています。
    ですが、この男は人を欺く事が得意で…更には自分さえ偽る事も得意で。時折、生活に足りない物を街まで調達しに行く時は街の人からは大人気の…人の良い男に変わります。

    オベロン!また面白い話を聞かせてくれよ!
    オベロンもずっとここに居たらいいのに。

    彼らは偽りのオベロンの話す面白い話を欲するだけ。
    オベロン個人には何の興味もありません。

    街に来るたびオベロンは笑顔の裏で悪態をつきます。
    「ああ、これだから人間は」

    消費するだけ消費して。
    飽きたら捨てるだけ。
    オベロンはその日もとびっきりの笑顔を皆に向けるも、心の内は酷く淀んでいました。

    これは、そんな暮らしを続けていたある日の話……。






    森の中は静かで落ち着く。
    求めるだけの卑しい人間の声はしないし、聞こえるのは鳥の鳴き声と風で木々の揺れる心地良い音だけ。

    こんなに良い天気なら木漏れ日の中、うたた寝をするのにちょうど良さそうだ。

    オベロンはその日、絶好の昼寝スポットを探しに森の中を散策していた。
    丘の辺りは最近ネモフィラの花が咲き始めた頃だし、色とりどりの綺麗な花に囲まれてゆっくり眠るのもいい。そんな事を考えて森の中を歩いていると耳障りな甲高い悲鳴が聞こえた。

    何だ?
    獣の悲鳴の、ような…。

    オベロンは眉を潜めると音のした方へ足を進めた。
    森の中には時々密猟者が動物を狩りにくる。また不埒な人間が、動物を追い回し傷付けているのではないか…。

    少し行くとオベロンは橙色のそれを森の中に見つけた。
    甲高い声で鳴き、ジタバタと身を捩っていたのは子鹿で。どこかの猟師の仕掛けたトラバサミにかかってしまったようだ。
    子鹿はオベロンに気付くと怯えだし、逃げ出そうとしたのだがトラバサミのせいで動く事ができず…
    暴れたせいか挟まれた子鹿の足からは真っ赤な血が流れていた。オベロンは直ぐにそこへ駆け寄るとトラバサミを外し、自分の服の裾を破って包帯がわりに傷口に巻いてやり、子鹿の背を優しく撫でてやる。

    「嗚呼、可哀想に…歩けるかい?」

    子鹿はオベロンの言う事がわかるのかポロポロと涙を零しながらもふるふると首を横に振る。
    巻いてやった布は直ぐに真っ赤になり、傷薬を塗る必要もありそうだ。

    「…このままジビエにされてしまうのは目覚めが悪いからね。仕方ない、行こうか手負いのバンビちゃん?」

    オベロンは自分の真っ白な服が獣の血で汚れるのも構わず、子鹿の身体を抱き上げると自分の棲家へと帰っていった。




    オベロンは木で作られた我が家の中に入ると、ふかふかのカーペットの上に子鹿を下ろして「良い子にしているんだ」と告げると傷薬を取りに向かった。
    子鹿も最初は此方を警戒していたのだが、オベロンの腕に抱かれて移動しているうちに、すっかり彼に心を許してしまったようだ。

    血の滲んだ痛む足を見つめ…すりすりと鼻先で擦ろうとしていると、丁度そこへオベロンが帰ってきて「ああこら、触るんじゃない!」とそれを制止した。

    「下手に触ると傷口が酷くなってしまう。今から薬を塗ってやるから…」

    オベロンは手際良く子鹿の足から布を取ると傷薬を塗り、清潔な包帯を丁寧に巻いていく。
    魔法をかけられているみたいだ、と子鹿の瞳はキラキラと輝きその様をじっと見つめている。

    「よし…こんな所だろう。二、三日経てば傷は塞がると思うが……」

    子鹿は痛む足で思うように動けないも、オベロンのそばに顔を寄せると自分の手当てをしてくれた掌に顔を擦り寄せた。
    言葉の話せぬ子鹿なりの、精一杯の感謝の気持ちの現れなのだろう。オベロンは子鹿の頭を撫でてやると。

    「どういたしまして。僕はこういう事をする人間が大嫌いだからね。
    ああ、だけど世話をしてやるのは怪我が治るまでだからな?傷が塞がったら君は森へ帰るんだ、わかったね?」

    そう告げ、子鹿はくてんと小首を傾げていたのだった。



    オベロンが朝晩と包帯を取り替え、新鮮な木の芽や若葉、どんぐりなんかも与えてやったおかげか子鹿の傷は二、三日も経つとみるみるうちに回復した。

    「痛みはもうないかい?歩ける?」

    優しく背中を撫でてやると、子鹿は足をぷるぷるさせながらその場に立ち、少しだけ歩く事が出来た。

    「この様子だと、明日には森に帰れそうだな…」

    ふわりと優しく微笑んだ水色の瞳。
    子鹿はオベロンの嬉しそうな表情に、なんだかこちらも嬉しくなってしまってオベロンに身体を擦り寄せた。

    「ああ、すっかり懐かれてしまったな…」

    だが、オベロンにはこの子鹿と共に暮らすつもりはなかった。
    それに人間と鹿では住む世界も違う。いずれこの子鹿も大人になり、どこかで牡鹿と出会って子孫を残していくのだろう。

    自分は…誰かと添い遂げるつもりなど、毛頭ないが。

    「もうおやすみ、バンビちゃん?眠った方が体も回復するだろうよ」

    オベロンは鹿の顎を優しく撫でてやるとその場を後にした。



    翌日の朝。
    オベロンが身支度を整えて子鹿の様子を見ると昨日とは打って変わり元気そうに此方に駆け寄ってきた。
    もう、大丈夫そうだ。
    オベロンは包帯を外してやり鹿の頭を撫でてやると「さあおいで」と森の中へ連れて行った。



    「ここでお別れだ」

    そこは先日トラバサミを見つけた…子鹿が罠にかかっていた場所だった。
    この子鹿の家族がいるとするなら、行方のわからなくなったこの辺りで探しているかもしれない。

    「もう罠にかからないように気をつけるんだ。
    今回は運が良かったんだ。次は俺も助けられないかもしれない。わかったかい?バンビちゃん?」

    子鹿は首を傾げオベロンの後を着いてこようとしたが、オベロンは掌を差し出し「だめだ」とそれを止めた。

    「ここで、お別れ、だ。
    そういう約束だろ?」

    言葉の話せぬ鹿相手に約束も何もないが。
    子鹿はオベロンが拒否の姿勢を見せるとがっくりと肩を落としたが、森の中へと消えて行ってしまった。
    ちらちらと…名残惜しそうにオベロンの方を振り向きながら。


    「まぁ。森の中で暮らしていればいずれ再会出来るだろうさ」

    オベロンは赤茶色の小さな鹿の背を見ながら、どちらに語りかけているのかわからぬ口ぶりでそう溢していた。
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    p_manxjugg

    MOURNING本当はこれも本にしたかった作品でした…。ただ書き続けるのが困難になってしまったのでこちらにて供養したいと思います。
    moratoriummoratorium

    (ブリテン共々落としてやろうと思ったのにな。)

    奈落に落ちゆく中でオベロン=ヴォーティガーンは思った。旅をしていく中で感じた違和感が確信に変わった時(そんな茶番終わらせてしまいたい)と思うほどに苦々しい思いをしたからだ。カルデアのマスター藤丸立香はごく普通の人間だ。特に秀でたところはなく、最初こそ注意深く見ていたが見れば見るほどに彼女が平凡な女性ということしか感想を持てなかった。だからこそだ、冒頭のようなことをオベロンは強く思ったのだ。彼女はもう自分一人の意思では止まれないところまで来てしまった。「ここで引くわけにはいかない」という『諦めることを諦めてしまった』、その事実に憤りを感じざるを得なかったのだ。自分はまだいい。「そうあれ」と望まれて生まれたのだから。だが、彼女はそうではない。あの時奈落で対峙した時の彼女の意思の強い目を思い出す。あれは決して正義としての意思の強さではなく、もう後がないことへの決意だったのだ。ならば最後に…夢に訪れた彼女はなんだったのか。虫たちと戯れていたあの姿は。オベロン自身が招いたつもりはなかった。ならば…。そこで思考を停止した。考えても仕方がない。今更考えたところでもう終わったのだ。彼らは見事奈落から脱出し遥か彼方へと旅立っていった。
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