魔除け――うわ、なにこれ。
入ってきた男のただならぬ雰囲気にリョータはぎょっとした。なんかこわ……、ってか、めちゃくちゃお疲れか。
新宿歌舞伎町、午後4時。夜の世界がそろそろ動き出そうかというところ。いきなり気温が上がった雨上がりの午後は、天気予報で発表されている湿度以上に蒸し暑く感じられる。少し前倒ししてモヒートをメニューに加えないと、とバー「7」のバーテンダーリョータは頭の中のメモに書き加え、店のエアコンは低い唸り声をあげながら勢いよく冷たい息を吐き出したところだった。
「どうも」
入ってきた男の、見たこともないようなくたびれた姿を眺めながら、それでも何食わぬふりでリョータは客を出迎えた。一か月か二か月に一度顔を合わせるこのお客とはお互いに本心は悟らせない、というスタンスを貫いている。。目の前の男はリョータの人にあえて晒さずにいるところについてもすでに知っているのかもしれないが、リョータはそれでも何食わぬふりを突き通すつもりでいる。
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