A Measure of a Friendship【某月某日、琉球アリーナでの沖縄レッドキングス勝利インタビュー】
――今日7得点の宮城リョータ選手です。
「どうもありがとうございます。(右手を上げて、観客に挨拶。拍手と歓声)久しぶりのホームだったので、気持ちよく勝ててよかったです。皆さんの応援ありがとうございます」
――今日は去年も首位を争った、ロケッツとの試合でしたが。
「そうですね。まあ簡単な試合ってどこにもないですけど、ロケッツは特にフィジカル強いチームなんで、タフな試合でしたね。なかなか点も入りにくかったですけど、結果的にうまくボールを回すことができたかなと思います。個人的にはもうちょっと点とりたかったかな」
――今年からロケッツには沢北選手が加入しましたけど、チームの印象は変わりました?
「どうかな。さらにパワフルになったのかな? でもバスケは一人でするもんじゃないので」
――その沢北選手が満員の観客の前で披露した華麗なダンクの直後、スティールから宮城選手一人で運んでのレイアップ、お見事でした。まさに電光石火のドライブ、速くて誰も追いつけなかった。(ひときわ大きな拍手)
「ありがとうございます。沢北選手のはみんなが喜ぶ華麗なプレーでしたよね。でもまあ、あんなん、目の前で決められたらこっちとしてはムカつきますよねえ。それもうちのホームで。お前の天下じゃねえぞって気分になりまして」(さざ波のように広がる笑い声)
――いかにも仲がいい二人って感じですね。二人のマッチアップが見られてファンも大喜びだったと思います。
「いい試合をしてみなさんに喜んでもらえるのが仕事ですが、やるなら勝ちたいので」
――沢北選手が決めた直後になにかお話されていたようですが。
「ああ、負けたほうがラーメン奢れって話を……」
――じゃ、今晩は早速ラーメン?
「いや、俺ら、そんな仲良くないんで」(えー?と会場から声が上がる)
「えー?ってなんですか(笑)。ただバスケだけの関係です」
【ロケッツの公式SNS。沖縄からホームに戻っての練習風景】
――沖縄からお帰りなさい。
「ただいまです。国内、あんまり知ってるところがないんで、今年は遠征の移動ごと楽しんでますけど、帰ってくるとホームってうれしいなあ」
――沖縄での思い出ひとつお願いします。
「タコライスうまかった~。リョータが教えてくれたんですよ。だけどソーキそば食べる時間がなくて、それは次回のお楽しみかな」
――そういえば、その宮城選手に「バスケだけの関係」って言われてましたね。
「ええ? なんですか。それ」
(スタッフからの説明を聞きながら、半笑い半泣きの沢北選手)
「確かシーズン始まる前、一番仲がいい選手はって聞かれて宮城選手って答えてたと記憶してますが」
「いや、もうここまできたらしょうがないから言うけどさ、ツンデレダーリンって感じなんですよ、あいつは。いろいろね、あるんですよ。多くは語りませんけども……」
【二日後、夜】
「沢北、宮リョに振られてる」「苦しまぎれの弁解がかわいそかわいい」「いつもの二人って感じがする」「ほんとどこまで仲いいの?」「いつもながら俺の宮リョにしちゃう沢北強い」「デレデレの宮リョも見てみたい」……デレデレの宮リョってなんだよ、そんなの出てくるわけねーだろーが。
SNSにあがっているコメントをわざわざ読みあげながら、リョータは思ったとおり毒づいた。
「そう言うなら読まなきゃいいのに。映画に集中してくださーい」
エージは澄まして言った。とはいえ、カーアクションが見ものの映画はちょうど主人公のロマンス回想シーンで、画面に引きつけられることもない。二人でウォッチパーティをしながら通話を繋ぎ、あーでもない、こーでもないと話すのは、すっかり休日のお楽しみになった。住んでいる場所は離れているけど、時差はない。だからウォッチパーティーもできるし、だらだら長話もできる。アメリカと日本でそれぞれバスケをしていたころには考えられなかった休日の過ごし方だ。
「うっせーわ。お前が余計なこと言うから」
「始めたのはそっちだからね。なに『バスケだけの関係』って」
「文字通りだよ」
くふふ、とモバイルから含み笑いが聞こえてくる。リョータの機嫌のよいときに出てくる笑いだ。チームは波に乗っているし、リョータの調子もいい。そりゃ機嫌もよくなるわけだ。
先週の沖縄での試合でも、どんどんよくなるリョータのプレーが楽しいやら悔しいやら。負けていられないとこっちもどんどんテンションが上がって、戦術とはいえ、コートの外に出るのが嫌なくらいだった。よくよく考えてみたら、ワンオンは数えきれないほどやってたが、練習試合で当たったのはアメリカにいたころも数えるほど。二人で代表に選ばれたときは味方同士で、公式戦で敵味方になって戦うのは高校時代のインターハイ以来。そりゃお互い気合も入るわけで。バチバチの真剣勝負は蓋を開けてみれば、ホームのレッドキングスが二連勝。リョータの気分はさらに上々といったところだろう。
「バスケだけなんて、そんな簡単にしないでもらえる? もっと複雑じゃん?」
「複雑?」
「一緒にご飯食べてるし、こうやって話したりしてるし」
「バスケの話をするためにな」
「次はラーメン奢ることになっちゃったし」
「試合に負けたお前が悪いな」
「けどあの試合、あげた得点はお互い同じ7点だったから、勝ったも負けたもないけど。いや、もちろん謹んでごちそうさせていただきますけども」
「ほらな、バスケだけの関係だよ」
「一緒に寝たこともあるのに?」
「うわあ、匂わせるね。それ、だれかに言う勇気あんの?」
機嫌のいいリョータの声はどこかふわふわと浮いているような感じがする。整髪剤をつけていないときのリョータの髪の毛の感触となんとなく似ている。そしてこういうときのリョータはちょっとした謎かけみたいな会話を好むのをエージは知っている。
「えー、言ってほしいの? それなら喜んで」
「どこから始めっか。戦略的にいかないと」
「リョータのベタ惚れって感じで戦略練りたいね。これから少しずつばらしてくの。おまえが、どんなに俺のこと好きかって話をさ」
ふふ……まるで耳元で笑ったみたいに声が近い。
「好きだよー、エージくん」
棒読みの言葉が笑いに乗って耳元で響く。息がかかってくすぐったい気さえして、エージは思わず右耳を擦る。
「だけどツンデレで世間に通っちゃったからな~それは無理かもな」
ありもしないデートの話や、ありもしない記念日の話、ありもしないベッドの上の話……気づけば二人で「ありもしない話」をでっち上げて楽しんでいる。心地の良い笑いがふと途切れ、リョータが言う。――これ、ありもしない話じゃなくなったらどうしよう。エージは返す。俺も今思った。
しばし落ちた沈黙の後、どちらからともなく尋ねた。
――ねえ、どうしたい?