Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    86mayuri

    @86mayuri

    修帝。小説とたまに絵を。
    今のところ特にいかがわしいものはないけど、フォロワー限定な物は短文のお遊びとかメモ感覚で使ったり原作から離れるただのネタなのであんまり幅広く曝したくもないというだけの代物です。
    小説もここには一部の短文しか載せないので全文はpixivにまとめています。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    86mayuri

    ☆quiet follow

    全文はpixivに上げています。【墜天の王 蔭 11 蜜月】長編修帝小説の一部。追憶。原作軸。翼の団時代の回想シーン。
    阿修羅×帝釈天

    #修帝
    Asura x Taishakuten
    #BL
    #小説
    novel
    #腐向け
    Rot

    墜天の王 11 その馴れ初めは焦がれて苦く ③.





     明け方の白み始めた空は薄ぼやけ、広がる朝霧に遠くの山々は雲海に沈む。
     内窓を開け放てば風のない空気は冷涼で、静かに自分の肌を刺そうとしたが、この程度では罰にもならない。

     自分でも自覚のない疲労があったのか、行為の後にすぐ眠ってしまったようだ。知らないうちに身なりを整えたのか気が付くと隣で夜着を身に纏う帝釈天が静かに眠っていた。
     彼の寝顔を見守る資格すら己にはない。蟠りだけが胸の内を苛むようなそんな後悔を日を跨いでも持越し、横たわる彼の傍にいることが出来なかった。
     衣服だけ整え寝台から下りて昨晩と同じ出窓の前に戻ってきてしまった阿修羅は、窓を開けたままでまた同じように茵に胡坐を組んで座る。


    「阿修羅」

     もう少し眠っていると思っていたが。隣で動き出す自分に気付き起きてしまったのだろう。彼が目覚めるまでここで待つつもりでいたが。

     言葉を交わす前に薄着の相手を冷やしてはいけないと、立上がり窓を先に閉めようとした阿修羅に、私は平気だ。そのままで構わない。と、そう言って帝釈天が静止し、目の前の座具に腰を下ろした。

    「昨日は、ああ言ったが」

     自分が語りかける前に、目を少し伏せたまますぐ話し始める帝釈天に、阿修羅は真っ直ぐ視線を返す。

    「よく考えてくれ阿修羅。貴方には実りある未来が待っていて、自由に選び取る権利があるんだ」

     自分を抱かせたその上で、別の選択肢を探せと放り出すのか。価値を捨て己を簡単に差し出す軽率さも、相手に選ばせようとする他人任せな言葉も。自身を蔑ろにし過ぎている。

    「お前との約束を何も果たさずに選ぶべき未来など俺にはない」
    「視野を広く持つべきだ。私は、鬼族との戦が終結して世が平和を迎えた先の話を言って……」

     叱りつけるように声量を少し大きくし、顔を上げた帝釈天と目が合った。その瞬間、酷く揺らいで、何か迷いのようなものを湛える瞳はまた逸らされた。
     だが少しの間を置き、やっと意を決したように彼が口を開く。

    「……。謝らなければならない。私は、貴方に嘘をついた」
    「?……」
    「持て成したいと商人の家に招待を受けていたのは私もだった。だが、貴方が呼ばれたのは、見合いのためだったんだ」

     帝釈天の言葉を聞いても、言葉の意味と商人の家での状況が繫らず黙って顔を顰める阿修羅はその後の言葉を待つ。

    「商人のご主人から縁談の申し出があった。だが、その流れを仕立てたのは私なんだ」
    「…………」
    「店主は実直な人だ。彼は家の使用人に度の越えた接待をさせるような道徳心の欠けた男ではない」


     彼から詳しい話を聞くところによれば、早くに奥方を亡くした店主には跡取りがいなかった。侍女として預かっている若い娘が一人いるが本当の娘のように大事にしており、自分が死んだ後で女手に店の切り盛りは大変だからと将来を見越し嫁に出してやりたいと考えていたが。見合い先を探そうとしても本人が嫁に出る気はないと頑なに家から離れることを拒んだ。それならばと娘を任せられる立派な男を見つけてやろうと思っていた。
     そんな時に護衛を頼んだ男の戦いぶりを見て、すっかり気に入り、婿に貰えないだろうかとそういう話が出たのだと言う。どちらも正式な縁談の場を設けて話が進むような二人ではない。そう考えた時に帝釈天が口にした案を通すことになったのだという。家の存続をかけて高位貴族相手に、自分の娘に入浴の介助をさせ関係を結ばせ縁談に発展させるのは特権階級の家柄では常套手段らしい。それをもとに実行しようとした、と。
     一気に事が運ばなくともきっかけにでもなればというつもりだったようだ。

    「見合いの相手だったその娘さんにも話していないことだ。貴方が合意もなく相手に無体を強いるような人ではないことも説明した上で店主と話をした」
    「…………」

     迫られた時、相手も頭に血が昇り半ば自暴自棄のように見えた。娘に、もっと自分を大事にしろ。何故そこまでする。と、問えば、仕事をやり遂げなければこの家においてもらえなくなってしまう。あの人に拾ってもらった恩に報いるためだからと。そう声を荒げるほどで、本当に頑固だった。一生かけて家に仕える腹積もりだったのかもしれない。娘のように大事にしているという話だったが、性急過ぎる勝手な判断だ。主人は本人の意思を聞いてやれなかったのだろうか。
     心に決めたやつがいるとそう話した時に、驚くほどすんなり引き下がったことだけは不思議だったが。

    「本当は貴方にこれを話すことも店主の旦那から口止めされていた。騙し打ちのような卑怯な方法を考えたのは私なのに。自分が言い出したことで私に非があるわけがないと、そう言って……」

     商人の男については前々から、貴方のように男気溢れる真面目な人なのだと帝釈天から聞いていた。そんな話をされていたから余計に今回の件で失望させられそうなところだったのだが。
     関係が成立しなかった場合、騙してまで見合いをさせようとしたと知られることで得意先である翼の団との関係を悪化させるわけにはいかないと。自分が悪者になることで責任を被るから話の辻褄を合わせてくれと、店主がそう言ったらしい。商人の話をしだした時、妙に淡々と語っていたのは痛む心を誤魔化すためだったのだろう。

     見合いだと言えば自分もそれを絶対に拒むと分かっていた。だから強引なやり方で流れを作ろうとした。
     彼が一緒に来なかったのは、友人を騙す後ろめたさから同席しなかったということなのだろうか。

     貴方の心に寄り添ってくれる人と家庭を持ちさえすれば、きっと天人として民と自然に打ち解けることが出来る。幸せだけを求めればもう迷うこともなくなるだろう。と、なんの気無しに他愛のない会話の流れからそんな言葉が口をついて出たように、そう彼が言ったことがあった。
     頑固で思い込みが強いところがあると知っていたが、それがまさかここまでさせる程の意志の固さを秘めていたとは。何故それほどまでに事を押し進めたかったのか。
     友人の将来を心から案じている愛憐のようでもあり、まるで自分には直接関係のない他人事のようだと思った。だからそんなことは望んでいない。と、あの時は一言だけ静かに返したが。
     それを今になって阿修羅は後悔する。もっと他に伝えておくべき言葉があったのかもしれない。……と。

    「すまない。私は、貴方の誠実さを試すような失礼なことを……」

     結果を追い求めてしまうばかりにその過程を見失っていたことを反省しているのか、言葉尻が小さくなり帝釈天は申し訳なさそうに俯いた。

     失礼なんて言葉で片付けてしまえるような、そんな軽いものではない。己の中に重く伸し掛かるものは。
     そうまでして自分を遠ざけたかったのか。振り返ってくれればいつでも私は貴方の傍にいると、そう言ったあの言葉は何のために口にしたというのか。

     先ほどまで風はなかったように思えたが、今になって窓の外から冷たい空気が流れ、肌を浚う。
     最後の風情で魅せる力も残ってはいなかったのか、朝露に濡れた重みで静かに散り落ちる花弁は、昨日のように部屋の中へ舞い込んでは来なかった。

    「帝釈天」

     友人を騙し謀った自分は、伸ばされた手で平手打ちくらいはされるはずだと、そういう覚悟でいたのかもしれない。
     近付く手に少し狼狽えたように瞼を閉じて唇を固く結び、咄嗟に衝撃に備えてしまう彼は膝の上で拳を握った。

     そんな強張る肩を阿修羅は傍に引き寄せ、抱き締める。

    「……代わりを務めろなんて酷いことを言って、悪かった」

     息が止まったように硬直した帝釈天は未だ状況が飲み込めていないようだったが。より強く密着するようにして抱き締めた。苛立ちを覚えるほど体温を失いかけている。
     だが怒鳴って張り飛ばすつもりなど、始めからない。

     ……何が平気だ。こんなに冷やして。

     自分と同じように敢えて冷気に晒されることで身を引き締めたかったのかもしれないが。すっかり熱を失い芯まで冷たくさせてしまったのか、その体躯は余計に頼りなく心配になるくらい、か細く感じられた。

     その細き骨身に更なる重荷を背負わせてしまうことになるが、それでも。

    「俺は、お前以外なんて考えられない」

     誠実だなんて、そんな風に言ってもらえる資格など、どこにもない。騙されたことなんかよりも相手の本心を確認もせず夜伽を強いた自分の方が余程卑劣だ。そうまでしても彼を手に入れたかった。
     最初から代わりであるはずがない。自分が求めていたのは他でもない彼そのままなのだから。

    「…………」

     言葉は返ってこない。ただ黙って腕の中に収まり身を委ねる帝釈天は、何を思ったのだろう。

     春暁に冴え返る冷え切った空気をどうにか遮って相手を守りたかっただけの行動は、彼に何かを伝えられたのかもわからないが。その時の無力な自分はそれくらいしか出来なかった。

     目に見えずとも時は有限だ。霞に濡れ、冷気に晒され散るのを待つだけの朝露桜は何故か泣いているように見えて、不意に胸を突く儚さが無性にもの悲しく思わせた。





    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works