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    Hokkai_sudako

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    Hokkai_sudako

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    恭颯と茉莉もう何度目か分からないループ。
    移動直後のこの感覚は何度やっても慣れない。
    あぁ、コントロール出来たと思えばコレだ。
    深呼吸して目を開く。まずは現況確認。私の能力は無意識だから何が起こるか、誰を巻き込むか分からない。

    「………最悪。」

    筑紫本家の廊下を早足で歩く。
    向かうのは奥の部屋。筑紫薊と筑紫紫苑という双子がいるという部屋に向かって、私は苛立ちを隠しもせず進む。

    「失礼するわよ。」

    部屋主の許可も待たず、ドアを開け放つ。
    中にいたのは双子の姉妹。片方はビクッと肩を震わせ隅に隠れ、もう片方は紫の髪を揺らしながら笑った。

    「遅かったッスねぇ。茉莉さん」

    「恭颯…。なんであんた女になってんのよ。そもそも……」

    「いやぁ!こっちが聞きたいッスよ。目が覚めたら女で、しかも筑紫ッスよ?急に人生ハードモードッス。」

    「……ハァ、まぁ今までもループのバグはあったし………待って。待ちなさい。恭颯。貴方、能力持ちね?」

    「いやいや、なんのこ…ゔッ!」

    つかつかと恭颯に歩み寄り、胸ぐらを掴んで壁に押し付ける。
    恭颯の目の色が変わるのを、私は見逃さなかった。

    「言いなさい。何を、知ったの。」

    「だ、から。何の事…」

    「恭颯」

    「……わーったッスよ。過去視。当主様みたいな干渉は出来ないッスけど、追体験は出来るッス。」

    「追、体験…。……見たのね。私の事。」

    「あー…まぁ。当主様と葵さんも見たッスけど…。」

    知られてしまった。最悪だ。全部、私がした事全部バレて……"全部"?

    「……待って。見たのよね?なら、じゃあ、なんでその目……」

    南森の目、至近距離で見ているから分かる。桃色と青色が混じりあった色。その中に、赤色は見えない。

    「……茉莉さん、目、青も似合うッスね。」

    「…ッ!………良いわ。葵とは?」

    「まだ関わりないっスねぇ。」

    「呼ばれたら言いなさい。全力で邪魔するわ。…その前に戻れる様に善処はするけど。……じゃあね。」

    「りょーかいッス〜。………なぁ、俺、今どんな目の色してる?」

    「………青色強めのピンク。……あのさ、もう…」

    「分かってるよ。……あんな顔、させたかった訳じゃ無いんだけどなぁ。」

    ―――――――――

    戻るのは案外早かった。
    お互い、以前の様に振舞ってはいるつもりだが、不自然な距離がある。それは向こうだって感じている筈だ。

    「……もう、無理ね。」

    暗い部屋で、膝を抱えて蹲る。
    あの日から。全てを知って、それでもなお、あの男は私の事が好きだと知ったあの日からずっと考えてはいた。
    恭颯は本心を見せない。
    けれど、私はその事を気にした事は無い。むしろ、安心していた。
    だって分からなければ、知らなければ、無かったも同然だから。
    きっと恨まれている。きっと私を好きじゃない。分からないのをいい事に、そう決めつけてずっと逃げていた。
    それでも恭颯が私のそばに居てくれるなら何だって良いと、彼の気持ちからは目を逸らした。
    恭颯が何を考えているのか、私はいつも分からない。
    それはあのループの時も、それ以前も変わらない。
    いっそ分かりやすく恨んでくれた方が良かった。
    ずっと、自分は間違っていないと思い続けた。
    ずっと、自分は愛されていないと思い続けた。
    ずっと、自分は可哀想だと思い続けた。
    そう思わないと生きていられなかった。
    ループの話を知った時、チャンスかもしれないと思った。
    少しでも素直になれたら。汚れていない綺麗な私なら。筑紫じゃない私なら。もしかしたら……って、そう思った。
    ………まぁ、結果は散々だったけれど。
    やっぱり私達は、一緒に居たらいけない。
    これ以上あの人を縛りつけられない。限界なんだ。
    私は、全て終わらせる為に立ち上がった。


    ―――――――

    「……恭颯、話があるの。」

    「嫌ッスよ。俺、その話聞きたく無いッス。」

    2階から降りてきた茉莉さんを見向きもせず答える。
    何の話かなんて、分かりきってる。

    「そう。じゃあ命令よ。聞きなさい恭颯。」

    「ッ!!嫌ッスよ!!そんな自分勝手な我儘聞けるわけ…!!」

    「分かってるわよ!!!……自分勝手なのは自分が1番分かってる」

    「…ッ。……なんスか。話って」

    「……今日限りで世話係はクビよ。この家は貴方の好きにしなさい。」

    「……茉莉さんはどうするんスか。」

    「本家に帰る。馬鹿が放り出した当主代理の仕事でもするわよ。……明日の朝、出るわ。じゃあ、おやすみなさい。」

    「…………茉莉さん。……好きッスよ。」

    「………私も、恭颯さんの事、好きでしたよ。」

    2階に戻ろうとしていた茉莉さんが立ち止まり、振り返る。
    鮮やかな桃色の瞳いっぱいに涙を溜めて、笑う顔があまりに綺麗で何も言えなくなる。
    茉莉さんが2階に戻った後も、俺は暫く動けなかった。今まで、あんなにハッキリ目の色を変えた事なんか無かったのに。

    「ほんっと、狡い人ッスよねぇ……」

    あの日、茉莉さんのループに巻き込まれた俺は、目が覚めたら筑紫薊という女になっていた。
    ループに巻き込まれた事はすぐに分かった。
    けど、筑紫の女に生まれるなんてきっと二度と無い。今なら何があったのか確かめられる。
    そう思って、軽率に能力を使った事を俺はすぐに後悔した。
    知ってるつもりでいた。分かってるつもりでいた。
    でも俺は何も知らなかった。ループ中の茉莉がどんな状況にいたか、能力の負荷がどれ程なのか。もう、茉莉は殆ど目が見えていない。
    動く度に身体が軋んで、悲鳴をあげてる。それでも茉莉は立ち上がる。なんでもないという顔をして。
    いくらやり直しが効いて、元に戻るとはいえその痛みは想像を絶するものだった。
    過去視から戻った俺は情けなくもその場で無様に嘔吐した。とてもじゃないが、耐えられなかった。
    正直言えば、茉莉の事を恨んでもいた。我儘で、横暴で、両親の仇で。理由としては十分過ぎる。けれど、結局今の俺に残ったのは、あの苦痛の中何度でも立ち上がる茉莉への恐怖と愛しさだけだった。


    茉莉が本家に帰ってからも、俺はあの家にいた。茉莉が居ないだけで、何も変わらない毎日。飯作って、掃除して、洗濯して。近所は相変わらず騒がしいし……。
    わーわー言いながら舞桜さんの攻撃を避ける子墨をぼんやり見つめる。

    「……あ。」

    気付いた時には、俺は舞桜さん家で土下座していた。
    やられっぱなしは性にあわない。


    ――――――――――――

    本家に戻って数ヶ月。
    相変わらず最悪な家ではあるけれど、この立場にも慣れてきた頃、恭颯から連絡がきた。

    「会いたいって………アイツ、何考えてるのかしら…。」

    簡単に言えば呼び出しだ。
    しかもよりにもよって指定場所は皇家。
    元々何を考えてるのか分からない男だったけれど、今回ばかりは本気で理解が出来ない。

    「………復讐でもするつもりかしら。」

    それはそれで良い。
    どうせ私は、死んでいるも同然なのだから。
    私は、恭颯の呼び出しに応じる事にした。


    ――――――
    「お!待ってたっスよ!!元気そうッスねぇ、茉莉さん。」

    「……一体何なの?動きやすい服装で皇の離れに来いとか……。仲良く鬼ごっこでもするつもり?」

    「あー…まぁ、似たようなもんスね。歯、食いしばった方が良いスよ。」

    「は、…………ッ!?」

    突然頬に衝撃が走る。油断した。構えるのが1歩遅かった私の身体は簡単に吹っ飛ばされて、無様に床に転がる。

    「…あーあ。口の端、切れてるッスよ。だから言ったじゃないスか。歯ァ食いしばれって。」

    「……あんた、今本気で私の顔狙ったでしょう。」

    「当たり前じゃないスか。これ、本気じゃないと意味ねーもん。………かかってこいよ。"すだこちゃん"。」

    「……ッこの!!!」

    立ち上がり、地面を蹴りあげる。
    重心を低くして一気に間合いを詰める。
    入った。そう思った。いや、以前の恭颯なら確実に入ってた。

    「よい…ッしょ!!」

    「…ッ!!」

    避けられた。避けられた上にカウンターを食らった。咄嗟に受け身を取り、距離をとる。

    ムカつく。ムカつくムカつくムカつく。

    「……あんた、それ、"誰"に教わったの?」

    「……誰だと思います?俺に近接戦闘教えてくれる人なんて限られてるけど。」

    見なくても分かる。自分がどうなってるか。
    あぁもう、何嬉しそうな顔してんのよ。本当にムカつく。
    きっと、今の私、どっかの馬鹿みたいに鮮やかな黄色の目をしてるんでしょうね。

    「…ッ忌々しいわね!!!」

    距離を詰めて右腕を大きく振りかぶる。

    「うわっ!」

    「甘い!!」

    恭颯が左に避けるのと同時に左足に全体重を乗せて脇腹を蹴りあげる。
    吹っ飛ぶ恭颯。……少しスッキリした。

    「……痛ってぇ!!!!茉莉、今本気だったでしょ…。マジで痛てぇ…。」

    「当たり前でしょ。ムカつくもの。」

    「……茉莉さぁ、なんで立ちあがんの?なんで泣かねぇの?痛いんでしょ。苦しいんでしょ。」

    「ッ、泣ける訳ないでしょう!?筑紫で!あの家で!!弱みを見せれる訳…!!」

    「だからさ、俺には頼ってくんねぇの?弱み、見せてくれねぇの?」

    「は…、な、なんなのよさっきから!!信じられる訳無いでしょ!?大体あんた、いつも何考えてるのか分からないのよ!!ヘラヘラニコニコして本心なんか見せない癖に!!!」

    「あ〜…はは……。それに関しては返す言葉も無いッスけどね。……でもまぁ、アンタの事は信頼してんスよ、これでもさ。」

    「…………ッ、私のコレも、アンタのソレも、恋愛感情なんかじゃないわ。」

    「そッスね。でもこれが俺達、だろ?」

    「………私、アンタの事嫌いよ。何考えてるか分からないし、馬鹿だし、すぐフラフラするし。」

    「……俺も茉莉嫌いだよ。我儘だし、すぐヘラるし、暴力的だし。…でも俺、それでもやっぱ茉莉が好きだよ。…茉莉は?」

    「…………そうね。私も恭颯が好きよ。…………あぁ。私達、きっと一生救われないわ。」

    「ハハッ、…でしょうね。良いじゃないスか。茉莉と2人なら地獄もきっと楽しいよ。」
     
    「本当にどうしようも無い馬鹿ですね、貴方。……ごめんなさい」
     
    「毒を食らわば皿まで、ッスよ。………で、この後どうします?」

    「……帰るわよ。私達の家に。」

    「ッス!!…ッ痛て…。なんか、最後の蹴りで肋、折れてる気がするんスけど。殺す気で蹴ったりしました?」

    「人聞きが悪いわね。肋、2、3本持ってく気で蹴っただけよ。」

    「十分ッスけどねぇ!!」

    「最初に顔面狙った男がよく言うわね。後で洋にキレられれば良いのに。」

    「…………勘弁して欲しいッス。」

     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
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