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    seionyuu_d

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    列車組と穹の話し合い小説書くシリーズヴェルト版

    レールをなぞる旅路レールをなぞる旅路
     ぱらぱらと頁を捲りながら穹はうーん、と首を捻る。
     開拓、冒険、旅、旅行、他にも色々。意味が同じようで異なるような、でも意図することは同じなような。言葉の羅列の前でそろそろお手上げ状態である。
    「どうしたんだ、穹?こんなところで辞書を広げて」
    「あ、ヴェルトさん」
     よっこいしょ、なんて小声で呟きながら隣に腰を下ろしたヴェルトは今日も姫子となにやら難しい話をしていた筈だが、仕事は終わったのだろうか。まだ右も左もわからない穹は彼が平時何をしているかも良くわかっていない。
     けれど穏やかで博識な人である事は既によく知っている。折角なので今頭を悩ませている疑問を彼に解決して貰おう、と穹は眺めていた辞書のページをヴェルトにも見えるよう寄せてみせた。
    「開拓って、結局なんなんだろうと思って調べたら色々出てきてわかんなくなった」
    「これは類語か?ふむ……開拓に関する質問はこの間姫子にしていた気がするが」
    「うん、聞いた。けど難しいところもあるから、言葉の意味をちゃんと調べてみようと思って……そうしたら余計こんがらがった」
     "開拓"――――新しい分野・領域・進路などを切り開くこと。関連語に"開発"も含まれる。が、これを行っているのは列車組では姫子だけなので割愛して良いだろう。
    「これってつまり冒険するってことになるのか?でも、前人未到の地を切り開いてるわけでもないし冒険とはちょっと違うよな。それなら旅?でも旅ってもっと宛の無いものな気がする、じゃあ旅行は?でもそれよりは大きなトラブルが多いし、というか行がつくだけで一気に気楽な感じになるのが不思議だ。というか、問題を解決する事はたくさんあったけど新しくなにかを切り開くのと問題を解決するのは違うように思う、じゃあ俺が開拓でやれる事って一体なんだ?」
     むむ、と眉間に皺を寄せながら穹は自分の考えをなんとかヴェルトに伝えようとする。
     穹はどうやら地頭が良いらしい、というのは彼が列車に乗って早々ヴェルトの認識内であった。物事の趣旨を把握し進路を選択する能力に長けており、パズルや状況の整理が得意。何よりあの天才達のテストに対応出来ている、丹恒とは別ベクトルの賢さを持った若者だ。
     だが記憶喪失の影響か知識に欠けており、小さな小石に躓いた後の様に混乱を起こすことが多々ある。有り体に言えば良く回る頭に知識が付いて来れないのだ。明確な答えが存在しない倫理や哲学といった、調べてスッキリ出来ない問題なら尚更。そして今回はどうやらちょっとした疑問が哲学問題へと発展してしまったらしい。
    「そう難しく考える必要はないんじゃないか?宇宙にとっては未知の星でも、その星で産まれた人にとっては慣れ親しんだ故郷だ。宇宙全体で見た"新しさ"ではなく、自分にとって"新しい"かが重要だ」
    「そういうものなのか?」
     どこか納得いかない様子の穹にヴェルトはふむ、と首を捻る。これは彼の認識の問題だ、人から答えを与えられる物ではないだろう。だが、その手助けなら恐らく出来る。
    「例えば、旅行では旅先に何があるのか前もって把握している。自分が旅先で何をするのかもおおよそ予定を立ているだろうし、それによって何が得れるかもわかるだろう。事前に調べれば体験レポートが山のように出てくる筈だ。けど、旅行は無くならないしその意義は失われない。それは何故だと思う?」
    「えっと……行った方が楽しいから?」
    「そうだ。このように、実際に体験しないと得られない物がある。そして得た経験を人に共有する事で、そうだな……その旅行が楽しいものであれば、その人と似た人が興味を持つ機会も増える。より広くその場所が人に知られるようになる」
    「うーん?」
    「冒険もおおよそは同じだろう、ただ旅行ほど歩く道が塗装されておらず、危険も多い。旅行は敷かれたレールを列車に乗って移動できるが、冒険はレールの無い道を歩くこともある」
    「今列車が辿ってるのは開拓の神の軌跡なんだよな?それって、レールが敷かれてる上を移動してないか?」
    「そうであれば良かったんだが、一度それが壊されてしまってな。今は過去敷かれていたレールを修繕しながらレール乗上を歩いているようなものだ……次に着くヤリーロⅥが正にそれだな。過去、あの星には整備されたレールがあったが、今は覆い隠されてしまっている。だがまぁ……レールの無い宇宙を走っていたアキヴィリの時代の方が、"開拓"の名には相応しいだろうな。今の俺達はそれの模倣だが、それでも"開拓"の信念は失われないだろう」
     銀河にレールを敷き、新しい世界と航路を切り開いていた開拓の神。文面かされた"開拓"という言葉に最も則したのはやはりその神の行動だ。穹ははっと気付いた様子で手元の端末でアーカイブのデータに接続し、その神の簡潔な説明を呼んで納得したように頷いた。
    「そっか、それはそうだよな。アキヴィリの"開拓"なら解る。今は難しいけど、最終的に目指すべき"開拓"はそれなのか。なら、俺は――――」
    「だが穹。実のところレールをなぞる、なぞらないにそこまで意味はないんだ。未知とは誰かではなく君にとって新鮮で興味を得られるものの事だ。そうして君なりの経験を伝え、知らせていけば良い。そうすれば、まだ知らない誰かが君の見たものに興味を持つだろう。そうした興味の積み重ねが世界にレールを作っていくんだ」
     最初から感じていた違和感のある言葉が穹から発せられる前に、ヴェルトは芯の通った声で穹の名を呼んだ。言葉を遮られるのは初めての事で、驚いた顔を見せる少年にヴェルトは優しい声色で言葉を続けた。すると穹はまた首を傾げて、右手を広げながら尋ねる。
    「……重要なのは多様な視点?」
    「少なくとも、俺はそう思っている」 
    「俺は、俺の視点で……それ自体が俺にしか出来ないことになるのか?それだけで?」
    「あぁ、とても重要な事だ。特に君は先入観に囚われず物事に向き合える」
     無感情とも取れる金色の眼が、じっと辞書を見つめる。
     ――――俺が、"開拓"においてできる事は何なのだろう?
     根底の疑問の解消はされていない気がするが、開拓に対する理解は深まった。これといった役割を見付けられていない段階でも"開拓"への貢献が出来るというのは喜ばしい。乗るのも降りるのも自由な列車において、それはとても大切な事に思えたからだ。それが出来れば、きっと見捨てられる事はない。――――星核を放っておくべきではないという大前提抜きに。
    「ありがとうヴェルトさん、参考になった」
    「いや、構わない。何か気になることがあったら遠慮なく聞いてくれ、他の乗客もきっとそれぞれの考えを応えてくれるだろう」
     幾つかの辞書を手に取り穹はラウンジの席から立ち上がる。
     アーカイブにこの本を戻さなければならない。そういえば、アーカイブといえば丹恒があそこに居座っているが、彼ならどんな事を言うのだろう?そこまで考えて痛むこめかみを自覚して、ある程度キリが良くなったのだからこれ以上脳を混乱させるのは止めておこうと考えた。
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