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    seionyuu_d

    @seionyuu_d

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    seionyuu_d

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    オンパロス来たばっかくらいのタイミング
    列車組と穹の話し合い小説書くシリーズ丹恒版

    レールそのものに意味はないレールそのものに意味はない
     オンパロスでの騒動が落ち着いてからというものの、穹と丹恒は比較的穏やかな日々を過ごしていた。
     と、いうかやることがない。今までは余暇を列車に戻って過ごすことも出来たが、今回ばかりはそういうわけにもいかない。外部との通信は閉ざされ、近状を連絡する事も出来ずゲームのログインボーナスだって途切れた。もう少しオフラインで動作するゲームアプリを入れておけば良かったと嘆いても後の祭り、先んじて幾つか入れておいたものをやり込む手も何時しか止まり、穹は市場で依頼を受けるかルトロでだらけるかの二択の生活を過ごしていた。
     丹恒もおおよそ似たようなもので、撮った写真の整理やこの星固有の生物の観察日誌ならびに調査論文の草案を書く以外にやることはなく生物の観察に割いている時間以外は庭の手伝いかルトロに籠りがちである。
     なんだかんだ言ってこの蒼龍ちゃんは水辺に安息を見出だすらしく、今もプライベートのピュエロスを足湯にしつつ本を読んでいる。彼の立ち位置の方位を調べたら東に偏っていたりしないだろうか、蒼龍の生体限定の生物学者になるのも吝かではないな。
     そんなどうでも良い事を考えて、穹は歳月のタイタンと相対した時から胸に燻る暗雲を誤魔化そうとする。如何せん暇なもので、依頼かネクタールに溺れなければすぐ思考が良くないモノを運んでくる。走り回ってキメラと遊んで、収集した書物を読み漁ったって無駄だった。
     沈むことを知らない日の光に焼かれつつふと、もう、良いかなと思った。
     ここには丹恒と自分しかいない。
     アグライアには聴かれているだろうが彼女が真意を理解する事は叶わないだろう。丹恒になら、弱さと過去を共有してくれた彼になら良いかもしれない。
     じゃぷ、と音を立てて足湯に浸る彼の隣に座って、その肩に頭を乗せた。
    「おい、穹」
    「ごめん」
    「謝るくらいならやるな、読みにくい」
    「それにじゃなくて」
     読書の邪魔をしたことは悪いと思うが、謝る程の事じゃない。灰色の髪を押し付けるように首を横に振る。
    「きっと、この先俺は謝らないといけなくなるから。先に、と思って」
    「…………どういうことだ」
    「考えてみたんだけどさ」
     あまり言いたくはないことだ。真意を説明するか一瞬悩んで、やっぱ言おう、と唇を噛んだ。このままぐるぐると頭を悩ますより、そっちの方がマシに思えたからだ。
    「星核ハンターって、その名の通り星核をハントするんだよな。それでいろんな星が被害にあって、懸賞金まで掛けられてる。なのに、ヘルタの星核はここにある。それも意図的に」
     とん、と自らの胸を叩く。一見普通に見えるこの中には、星核が埋まっている。
    「羅舟の時も思ったけど、星核ハンターが星核をハントしてないのっておかしいと思わないか?特に俺みたいなのを星核を封印する手段のある列車に置いてってるところ」
    「何が言いたい」
    「俺が最終的にこの星核を持ち帰る手筈になっているなら、星核ハンターは正しく星核をハントしてる事になるよな」
     聡明な丹恒はその一言で言わんとする事を全て察したらしい。うん、良いな。やっぱり楽だ。丹恒なら自分よりも、自分の伝えたい真意を的確に言葉にしてくれる。
    「――――俺は、きっと列車を裏切る」
     だから端的に、それだけを言って蹲った。ゆらゆらと黄金のベルトが湯に揺れる。
    「カフカの事を、姫子みたいって思った。いや、逆なのかな?そんで刃と丹恒も、俺には同じに見えた、重ねて見えたんだ、俺……あ、ごめん、これは流石に聞くのも嫌だよな」
    「いや、良い。アイツと俺には共通点も多い、無意識下でそういった認識があっても不思議じゃない」
     本を乾いたタオルの上に置いて丹恒の手が俺の髪に触れる。普段は体温の低いその指先は、足湯の効果か思いの外暖かかった。
    「つまり、過去のお前は星核ハンターに俺達へ抱いているものと似た情を抱いている事を思い出し……自分は運命の奴隷の脚本に従って列車にいて、時が来たら星核ハンターとしてその役割を果たすと思っている訳だな」
    「うん、そう」
    「最後まで列車に残る事は無い、だから列車を裏切ると」
    「うん」
     はぁ、と深い溜息が落とされる。その次に一体どんな言葉が落とされるのかと身構えていると、強い衝撃をこめかみに受けた。
    「――――っ!」
    「お前は幾つか思い違いをしている」
     どうやらデコピンをされたらしい。体幹の優れた武人である丹恒から繰り出されるそれは、普通に、途轍もなく、痛いのだが。
    「第一に、何処で列車を降りるかは自由だ。お前や……皆と最後まで共に旅するのは俺の夢であり理想だが、それが叶わないことは裏切りではない。例えば俺があのまま羅舟で降りていたとして、お前は俺に裏切られたと感じるのか?」
    「そんなことない!いや、寂しいけど……あと正直めっちゃ嫌だけど、でも、それが丹恒の選択なら見送った。裏切られたなんて、思わない」
    「それと同じだ。第二に、列車と星核ハンターは友好的な関係ではないものの、別段敵対している訳でもない」
    「は、」
     予想外の台詞に面喰らう。確かに明確に敵対はしていないが、星々を巡り照らす"開拓"の列車と終演へ向かいながら混乱を振り撒く星核ハンターは対極に位置するもの、少なくとも友好的な関係は築けない立場にあると思っていた。
    「いや、でも、刃と丹恒は」
    「それは俺と奴個人の問題であって、列車と星核ハンターの問題ではない。勿論奴等は甚大な被害を宇宙にもたらした犯罪者だが、それは開拓と必ずしも敵対するものではない。実を言うと俺も追放と逃亡の過程で幾つかの犯罪行為には手を染めている。殺人も数回」
    「それ相手全部刃ちゃんだろ」
    「……それでも、何も解らなかった時は殺してしまったと思ったし、それを承知の上で殺った。だからお前が過去に手を汚していたとしても、これから汚す可能性があったとしても列車には関係がない。少なくとも俺は気にしない」
     ていねいに後ろ向きの道を防がれて吃驚する。でも、もだって、も発させてくれない。それもそうか、俺の考える事くらい丹恒にはお見通しだろうから。
    「第三に、たとえお前が脚本によって敷かれたレールの上を歩いているのだとしても……それだけだ。その過程で何を見聞きし、感じ取り、考えるかは全てお前の自由だ」
     きっと姫子の受け売りだろうその言葉は聞き覚えがあって暖かく胸に染み入る。そして、大舞台の演者であった一人の少女の言葉を彷彿とさせた。
    「"注釈は自由"……」
    「星核ハンターの言葉か?それに関しては俺も同意見だな」
     ホタルの信念には感じるところがあるのでそれを丹恒に肯定されるのは素直に喜ばしい。丹恒は俺の額を叩いた指先をすっと動かしながら言葉を続ける。
    「レールにも脚本にも、それ自体に指針以外の意味はない。なにより、お前はいつも言っているだろう?自分の意志で結末に辿り着く、と。脚本通りの終幕を演じる事になるのだとしても、演じ手の意思が介入しない演劇などあり得ない。お前は、そこに自分の意図を自由に含めて良いんだ」
     そうしてトン、と丹恒の力強い指先が胸元に辿り着く。それはここにある星核よりもその奥を叩くようで少しくすぐったい。
    「お前自身に俺達を……列車を裏切ろうという意思が無い限り、俺達はお前に裏切られたりはしない」
    「なんで、そんなに自信満々に言えるの」
    「自信があるからだ。記憶を取り戻したからと言って裏切るような奴が、自分は裏切るかもと言って泣いたりはしない」
    「ここまで全部脚本で、手のひらの上かも」
    「こんな事まで文章化されていたら宇宙にどれだけ製紙用の樹木があったとしても足りないだろうな。きっとお前の脚本だけで星一つが埋まってしまう」
     遂には真面目な危惧を冗談ひとつで受け流されてしまった。続く言葉が思い浮かばず、ぐっと唇を噛む。
    「丹恒先生はすごい、もう何も怖くないかも」
    「そうか。また怖くなることがあったらいつでも頼ると良い」
     選択肢が尽きたと同時に心のモヤモヤはすっかり晴れて、嬉しさのあまり目の前の親友に抱き付く。すると丹恒は戸惑うでもなく受け入れてぽんぽんと俺の背を叩いた。
     人前で抱き付く事は咎められてしまったが二人きり、というか列車の家族間でのスキンシップを彼は拒まないし嫌ってもいないのだ。大事な場にも関わらずふざける俺に呆れが先にくるだけ。
    「安心しろ、列車はお前の家族で、お前は俺の唯一の親友だ。お前の事を自身の一部だと思っている事に変わりはない。どんな道を歩もうと家族は家族に変わり無いし、自分の一部を見捨てるような馬鹿な真似をするつもりもない」
    「うう、なんでそんなに欲しい言葉をくれるんだ、エスパーなのか?」
    「当たり前だろう、親友なのだから」
    「ずるい、俺も丹恒のことそのくらいわかるようになりたい。なのや姫子やヴェルトさんのことも、俺だけわからないすぎる」
     ぐでぐでになった俺をあやすように抱き締めて丹恒は笑う。微笑みであり失笑であるそれは、それでも確かに暖かい。
    「……こんな不穏な俺の事、みんな、それでも置いてったりしない?」
    「当たり前だ。そもそも不穏なだけで追い出すならサンデーを乗せていない」
    「的確な反論」
     不安とモヤモヤが解消された瞬間、らしくない事を考えていた脳が悲鳴を上げ始めた。唐突にぶわりと眠気が押し寄せてくる。
    「いっぱい考えてたら眠くなっちゃった、このまま寝ていい?」
    「ダメだ、ちゃんと脚を拭いて寝床で寝ろ」
     信じられないくらい俺に甘い癖に、真面目な丹恒先生はぱっと腕を放しながらずぼらな質問へ冷静に叱責する。はぁい、と間の抜けた返事を返してタオルを手繰り寄せる。
     今日はきっと嫌な夢を見ないだろう。
     
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