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    seionyuu_d

    @seionyuu_d

    節操のないオタク
    今はジェタ寮が全体的に好きなラウグエバカ
    兄弟どっちにも夢見てる節がある

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    seionyuu_d

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    某機動警察の主人公みたいに推し兄弟にMS磨いて欲しい気持ちと本編でシュバとダリルが並ばなかったので並んで欲しいという気持ちをコトコト煮詰めた結果できた文

    ジェタ兄弟がダリルとシュバを双子MSとして生まれ変わらせる話静まり返った空間。
    濡れたタオルを持ち、冷えきった鉄の上で一人目を閉じ佇んでいると、突如カン、と革靴の音が遠く響く。ここは普段使用されないジェターク社の地下倉庫だ、入室許可が与えられている者は限られている。その中でも、硬い革靴でこの空間に訪れるような人間は自分を除いてたった一人。

    「ラウダ」

    グエルは振り向かず、ただゆっくりと目を開きその名を呼ぶ。
    呆れたようなため息が遠くから聞こえたがそれ以上の応答はなく、足音だけが近付いてくる。その中でバサッと小さく聞こえた音は、恐らく手摺に乱雑に引っ掻けた自分の上着を彼が手に取った音だろう。そうしてグエルの元へとやって来た男は確かにグエルの弟、ラウダだった。

    「ここにいたんだね、兄さん」
    「悪い、探させたな」

    ジェターク社の終業時間はとっくに過ぎている。大方、いつまで経っても帰らない自分を心配して探しに来てくれたのだろう。親切な弟に一つ礼を言って、それでも俺はここから動けない。そのまま、目の前の機体にそっと手を添える。

    「ダリルバルデ……」
    「なかなか男前だろう?」

    かつて深紅の輝きを放っていた高潔の機体は、今や焼け爛れて見る影もない。
    兄を最期まで守り抜き気高く散ったのは僕も見ていたがこれ程とは、とラウダはその有り様に目を見張る。

    「回収したものを出来る限り組み立て直して貰ったんだが、これが限界でな」

    警告を促すテープがまるで包帯の様で痛々しい。MSは元より壊れる物だが、ここまで悲惨な壊れ方をしている機体を見るのはラウダも初めての事だった。学園レギュレーションを外した火器の威力を改めて思い知らされる。

    「ディランザの修復は出来たが、ダリルバルデはこれ一機だけだからな。利用できる部品も無くて結局このままだ。次世代コンセプトモデルは今の需要を満たさない、量産の予定もない機体をコストをかけてまで修復する必要はない……頭では理解しいるんだけどな」

    そう言ってグエルは歴戦の戦士を労るように剥き出しになった管を撫でる、その様子はまるで誇り高き忠臣と王のよう。溶け落ちても未だ輝きを失わぬメインカメラが一瞬光を灯した様に見え、ラウダは思わずその眩しさに目を細める。

    「……羨ましいな」

    ぽつりと漏れ出たその言葉は名機に恵まれた兄へのものか、それとも一生を兄へと捧げる事の出来た機体へ向けてのものか。

    「なんだ、妬いたか?」
    「どうだろう、言っておいてなんだけど僕自身良くわからないや。けど……こうして、終わった機体を労えるのは確かに少し羨ましいかな」

    自嘲気味に笑いながら「アイツはあの女が持っていっちゃったから」なんて言う弟にグエルはむっと眉をひそめる。それに気付いたラウダは心許無げに前髪を梳いて見せる。

    「僕はまだガンダムの事は嫌いだ。あれは呪いだと今でも思っているし、シュバルゼッテだってロクな物じゃなかったよ。ああして跡形もなく消えてくれて清々してるし、ああやってアイツを使ってくれたスレッタ・マーキュリーには感謝してる。作った父さんも、止めずに完成させた兄さんも、あれに乗った僕もみんなバカだ。けど──アイツが強かったから、僕は兄さんに並び立てると思えたんだ」

    色合いに反して兄の髪と良く似た手触りを与えてくれる自身の髪を撫でながら、ラウダは思う。
    頭も、技術も、体格も。なにもかも僕より優れた兄さん。僕より大人で、正しくて、高潔で王道を行く兄さん。そんな兄さんにこの紅く輝く正義の武人は良く似合っていた────そして、自分にあの骸の騎士も同じくらい良く似合っていただろう。あれは見た目通り死を運ぶ呪いの骸であったが、同時に一番でなくても、正しくなくとも己の正義を貫く暗黒騎士であった。何一つ兄に勝てず正しさを持たない自分が、それでも兄と対峙できたのは間違いなくあの騎士が自分に力を与えてくれたからだ。

    「アイツが居なかったら、きっと僕は兄さんに並ぼうとしなかった。正面から言葉をぶつける事だってしなかった。兄さんの事を……本当の意味で支える事は一生をかけても出来なかった。だから、一度くらいは、感謝してやりたかった」
    「…………」

    相棒だなんて言葉は自分の為に調整された愛機であるディランザの方が余程良く似合っているが、それでも一度は命を預けた機体だ、愛着が無いわけではない。一度くらいはこうして、今の兄のように自ら布で磨き上げるくらいの労いはしたやりたかった。パーメットの分解によって粒子となり宇宙(ソラ)に消えた機体を思って小さく息を吐くと、「ラウダ」と何処か得意気な兄の声が頭上から聞こえる。
    どうしたものかと見上げた瞬間、兄はたっと武人の背から弟の下へと身を投げた。

    「ちょ、ちょっと!危ないよ、兄さん!」
    「大丈夫だって。それよりラウダ、見て欲しい資料があるんだ。ちょっと共有させてくれないか」

    低重力とはいえ、高所からの飛び降りは怪我のリスクが高い。それにも関わらず勢い良く降り立った兄を咎める為にラウダが駆け寄るが、そんな事はお構い無しにグエルは片手に持った電子端末を操作する。瞬間、自身の端末が振動しラウダは仕方なしといった様子で兄から送られてきた資料に目を通す。
    瞬間、眼を見開いた。

    「これ、正気……!?ダリルバルデとシュバルゼッテの再開発プロジェクトなんて!」

    昨今、MSにはもっぱら産業用の技術が求められている。ベネリットグループの資産売却による中小企業の活性化によって地球や水星を初めとした土地の再開発の気運が高まったからだ。テロ行為や暴動が以前と比べて減少し、MSを使った戦闘の需要も低くなった。マッチポンプのようなアーシアン搾取構造は緩やかにではあるが改善の方向へと向かっている。本当に緩やかに、だが。
    そしてその結果、戦闘用のMSの需要はあからさまに落ち込んだ。

    「仮にあれを作ったとしても、今の時代じゃ売り物にならないよ!需要が違いすぎる、製造コストだってバカにならない……どう考えても赤字前提の企画だ!」
    「あぁ、お前の言う通りだ。だからこれは、商品にはしない」

    兄から返ってきたのは予想外の言葉だ。ラウダは資料を読み進めながら尋ねる。

    「どういう事?」
    「コイツらには、ジェターク・ヘビー・マーシナリーの広告塔になってもらう。ジェターク社……いや、父さんは現場目線のMS造りで乗り手から高い信頼を得ていた。今のジェターク社にその目線はあるのか?それを支える技術力は?父さんのジェターク社を支持していたからこそこういったユーザーの疑問は尽きない」

    グエルの言う事も最もである。そのくらい、ヴィム・ジェタークという人間は偉大だった。社など関係の無い世界で生きる整備士すら父の事を尊敬し、それ故に社に強い信頼を置いていた事をグエルは知っている。

    「だから、俺達が作るんだ。今のジェターク社にも最新の機体を建造できる技術があると証明する。ダリルバルデでは技術の保持をアピールし安心感を与え、シュバルゼッテではGUNDフォーマットを使用せずにガンダムの能力を再現する事で更なる発展の可能性とGUNDを兵器に使用しないジェターク社の立場を示すんだ。そして──」

    カツ、と音を立てながらグエルはラウダの空いている手を握る。真剣な眼差しは目を逸らす事を許さない。そうして一世一代の告白のようにグエルは言った。

    「開発が上手くいった暁には、改めてお前にシュバルゼッテのパイロットになって貰いたい。俺とお前、ダリルバルデとシュバルゼッテで各地の復興事業に参加したいんだ」

    いつになく真剣な兄の様子に、ラウダは一瞬の困惑を見せた後ぎゅっと手を握り返す。あの二機に兄弟で乗って、ジェターク社の象徴となる。兄さんとダリルバルデだけ、ではなく。

    「…………いつくか、条件があるんだけど」

    固く繋がった掌を見ながら、ラウダは小さく呟く。 

    「まず、二機とも完全な専用機にするって約束して。他の奴に貸し出すとかは言語道断、兄さんと僕しか乗らないなら細部は拘らなくて良いし再現もする必要がない。火力も落として良いからなるべくコストは抑えて、壊れても修理しやすいようにする、兄さんよくMS壊すんだから。それから──二機の形式は独自のモノにして。二機だけの、特別な。製造日も同じ日が良い」
    「……理由を聞いても?」

    途中までは至って理性的な条件だったが、追加で示された条件の意図が掴めずにグエルはついそう尋ねる。するとラウダは少しばかり眉をしかめた後、恥ずかしそうに口を開いた。

    「僕と兄さんは、違う時間に、違う人から産まれたでしょ」

    大企業の跡継ぎが異母兄弟、しかも年齢が同じともなれば良からぬ勘繰りをする人間は沢山いた。特に跡継ぎではないラウダには可哀想だの、兄を憎んでいるだの好き勝手言いながらすり寄ってくる輩が何時だって声をかけてきた。その立場だからこそ出来た事もあるが、やはり双子の兄弟に憧れた事が無いわけではなかった。双子であればもっと早く、対等な関係を築けたかもしれない、とも。

    「だから、これから“僕”と“兄さん”を象徴する彼らには、同じ時間に、同じ場所から産まれて欲しい」

    憧れていた双子に、お互いにとっての唯一に。
    MSに対して抱くには少し女々しすぎる感情かもしれないが、それを聞いてグエルは思案の後、「良いな、それ。最高だ!」ととても嬉しそうに笑った。



    ーーーーーーーーー


    「いよいよ、皆にお前を紹介できるな」

    そう言ってグエルが語りかけるのは深紅の機体。
    あれから長い年月が過ぎ、今日は遂に二機の製造が完了する日だ。二機の再開発はとても順調とは言えず、周囲の反対を押しきるように開発を進めなんとかここまで来た。完璧に再現された武人の姿を前にして熱くなる目頭を誤魔化すようにブレードアンテナを磨く。

    「僕らの事も忘れないでよ?兄さん。コイツもダリルバルデに見劣りしないくらいカッコいいんだから」

    そう言ったのは隣の格納庫で同じように機体を磨いているラウダだ。
    実を言うとダリルバルデの再現よりも、GUNDに頼らないシュバルゼッテの開発の方が酷く難易度が高かった。必然的に幾つかの機能はクオリティが低下してしまったが、AI制御技術をふんだんに活用しなんとか実用化レベルにまで到達することが出来た。その微細な調整を行ったのはラウダ自身だ、完成への感慨は人一倍だろう。自慢気なその表情に思わずこちらの頬も綻ぶ。

    「それにしても、本当に良かったのか?」
    「コイツを二号機にする事?それとも名前の事?」
    「両方だ」

    ダリルバルデ──最愛の息子と違って、シュバルゼッテの名の意味はお世辞にも良いとは言えない。今回再開発するにあたりコンセプトに見合わない名前は変更するべきではないかという話は何度か話題に上がった。それを悉く取り下げさせたのは紛れもなくパイロットのラウダだ。

    「良いに決まってるじゃないか。どんな形であれ、やっぱり兄さんには“兄さん”で居てほしいし……どんな名前や立場であろうと幸せになれるって事、僕が一番良く知ってるんだから」

    自分の名前が“神を讃える歌”の意味を持つと知った時、名は体を現すという諺は本当だったのかといたく感心した事をラウダは覚えている。けれど、今は違う。ただ讃えるのではなく、同じ立場、同じ視点で隣に立ち互いに支え合う事が出来る。結局、名に囚われるか否かは自分の心持ち次第なのだ。

    「それに、不吉な魔法使いが最愛の息子と共に祝福されて産まれて幸せになるなんて……それはそれでロマンがあると思わない?」
    「ふはっ」

    弟の発想にしては些かロマンチックすぎる言葉にグエルは思わず吹き出す。「そんなに笑わなくて良いだろ」と拗ねた表情で訴える弟の顔はまるで幼い頃のようで微笑ましい。

    「おーいお前ら!完成前から仲睦まじいのは構わんが、そろそろ最後の取り付け作業に入る!危ないからさっさと離れてくれ!」

    機体の上で下らない言い合いを続けていると、痺れを切らしたカミルの声が聞こえた。慌てて二人並んで足場へ降りれば大型のアームが音を立てて動く。以降はコアとなるシェルユニットを組み込み、コックピット周りの微細な調整をすれば完成する。最後の大規模な取り付け作業を二人は並んで固唾を飲み見守る。

    「オーライ、オーライ!よーしそのままだ、くれぐれも傷付けるんじゃねぇぞ!」

    完成日を同じにするだけでもメカニックには大きな負担だろうに、企画を聞いたジェターク社の筆頭技術者は「それなら全く同じタイミングで完成させてやろう」等と言ってのけた。そのお陰で今、二機の取り付け作業は同時進行で行われている。並んでMSに魂が吹き込まれるこの光景の、なんと壮観なことか。

    「ダリルバルデの調整、終わりました!いつでも取り付け完了出来ます!」
    「シュバルゼッテの方も問題ありません!」
    「よし、それじゃあ10秒数える!ゼロになったら取り付けてくれ!」
    「「はい!」」

    カミルが力強くカウントダウンを始める。グエルとラウダはそれを口を閉ざしたまま、祈るように手を繋ぎ見守っていた。勢い良くゼロの掛け声が聴こえる、一際大きな音がして、今ここに新たなMSが二機誕生した。

    「……こういう時、なんていえばいいんだろうな」
    「無理に言葉にしなくてもいいんじゃないかな」

    長きに渡る高難度の作業を終え、その場に居た社員全員が大きな歓声を上げる。正真正銘戻ってきたのだ、ジェターク・ヘビー・マーシナリーが。社員達にとってもこの二機はこれからのジェターク社の繁栄を思わす象徴となっていた。この二機を造る力を取り戻したなら、きっともうこの会社は大丈夫だと。

    「さ、後はアンタらが実際に乗るだけだ。ここまでやっておいて試験は別日なんて、そんな馬鹿な事は言わないよな?」

    カミルに促され、二人は各々コックピットへと向かう。何度もシュバルゼッテの調整をしていたラウダと違ってグエルは久しぶりのMS操作だ、高鳴る胸を抑えきれない。

    「久しぶりの出陣だな!俺の事、ちゃんと覚えてくれてるよな?ダリルバルデ」

    「あれだけ散々テストしたんだ、今の僕とお前なら兄さん達にだって並べるって証明してやろう、シュバルゼッテ」

    生まれ変わった機体にそう声をかけると、まるでそれに応えるかのように二機のメインカメラに光が灯る。起動は問題なく成功、後は試験区域で実際に動かすだけだ。
    大きな音を立てて区域の移動が完了する。決闘に明け暮れていた学生時代を思い出し、グエルの口角は自然とつり上がっていた。試験内容は機体を損傷しない程度の戦闘、決闘の更にライト版だと考えれば良いだろう。


    「MDB-0001ダリルバルデ!パイロットは俺、グエル・ジェターク!」
    「MDB-0002シュバルゼッテ。パイロットはラウダ・ニール!」

    堂々たる名乗りと共に勢い良く機体が射出される。
    相対し互いに武装を展開させる赤と灰の機体は、対極な印象を持ちつつも何処か仲睦まじく見えた。







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