「オマエ、いい加減にしろよ」
苛立った様子で、実際に怒っているのだろう、KKは大きな息を吐いた。
「オレはオマエがお優しい性格なのは重々知ってるし、そういうところに救われてきた。だがな、マレビトに同情するのはやめろ」
何度も言ってるはずだがな、と下がり気味の額を指で弾く。いて、と声があがったが別の場所のほうがよっぽど痛いはずだ。軽い傷でしかないことは最初に確認したが、少し前までただの一般人だった暁人には十分な痛みだろう。
「同情はしてないけど……」
「いーや、してたね。オマエはマレビトの外見に騙されるから倒しきれないんだよ」
さっきだってそうだろうと言えば暁人が首を捻るのでKKは気づいてないのかと呆れたように肩をすくめた。
「ガキのマレビトならオマエの力でも一撃で倒せたはずだ。それが仕留めそこなって防戦一方になった」
暁人が呻く。自覚はあるらしい。己の力量は理解できているようでKKは少しだけ安心した。
「オマエはマレビトを本物のガキだと錯覚しているから、本気の力で撃てない。アレは単なる学生時代の負の記憶や感情の塊だ」
「……わかってるよ。でも楽しそうに自撮りしたり怖がってるみたいに転んだりするから……」
「マレビトは生前の行動をなぞるとも言ったよな」
「うん」
「アレはオマエの同情を誘っているだけだ。オマエのような優しいヤツを引きずり込んで仲間にしようとしてるんだよ」
マレビトはただの化け物でKKたち生者の敵だ。頭では理解できていても実際に対峙すると迷いが出てしまう。新人刑事にもよくある現象だ。かくいうKKもそういう時期がなかったわけではない。
だからこそKKは何度も同じことを繰り返し刷り込んでやるしかない。
今回はKKが助けに入ったので軽傷で済んだが命を失うことだって当然ある。
「ごめん、助けてくれてありがとう」
それでも暁人の素直さには助けられる部分が大いにある。KKはいいってことだと背中を叩き立ち上がらせた。
「アジトへは自力で帰れるな?オレは依頼主に報告してくるから、絵梨佳に手当てしてもらえよ」
「わかった」
暁人はバツの悪い顔をして四肢が自由に動かせるのを確かめる。絵梨佳に叱られる想像をしているのだろう。そしてその予想は間違いなく当たる。
「オレにも説教されたって言っておけ」
それで短縮されるかはわからないが素直な暁人は頷いて、また後で、と手をあげた。
「おう、家でな」
まだまだ手はかかるが、いずれ暁人は自分の相棒として遜色ない祓い屋に育つだろう。
楽しみだな、とKKは痛む腕を動かし煙草を口に咥えた。