8月22日によせて 二人が出会ってから二年目の八月二十二日、つまり、KKと暁人が同棲しはじめた最初の日の夜のことだ。
鼻唄まじりでキッチンに立っていた暁人が、突然、「あっ」と鋭い声をあげた。続いて、包丁をシンクに取り落とす硬い音が響く。
買ったばかりのレザーソファの手入れをしていたKKが何事かとそちらを窺うより速く、暁人が矢のような勢いでダイニングまですっ飛んできた。暁人の顔は見るからに青ざめ、頬も硬く強張っている。「大丈夫か」という至極真っ当なKKの心配の言葉は、暁人の切羽詰まったような叫び声にかき消された。
「KK!」
「お、おう?」
「ひとつ、大事なことを訊き忘れてたんだけど」
恋人ならではの至近距離で真正面から覗きこまれ、KKは思わずのけぞった。ちょうど旬のマイワシを捌こうとしていたらしく、胸の前で組まれた彼の両の拳からは、ツンと鼻を刺す生臭さが漂ってくる。が、こうして見るかぎりでは、特に怪我はしていないようだ。
2031