君とならできる あんたならどうするかな。
そんなことをよく考える。おかしいよね。何かあったときに真っ先に思いうかべるのが、家族でも友人でもない、たった一晩知りあっただけの、名前すら知らない男の人だなんてさ。しかも、あんたはとっくに死んでて、顔も声も、もうおぼろげにしか思い出せないのに。
『大丈夫だ。オレがついてる』
少しずつ褪せてゆくあんたの力強い声が、見たことのないあんたの穏やかな笑みが、感じたことのないあんたの大きな掌が、僕の背中をそっと押す。
そうだ。あんたなら絶対に足を止めない。考えることを止めない。最後の最後まであがく。そして、うまくできない僕を馬鹿にしないし、逃げたがる僕をむやみに否定したり、見捨てたりしない。
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