プラネタリウム「今日はラーメン行こうよ」
「僕がチョコアイス食べていい?」
「新しいシャツこっちどうかな」
「今日見る映画これにしない?」
「あのさ、僕はKKの恋人……だよね?」
「どうした突然」
取り落としそうになった煙草を持ち直して顔を上げると暁人は不安げというよりも困ったような顔をしていた。
お互いにそれぞれ悩み苦しんで話し合い様々な障害を覚悟して共に生きることを決めたのだ。
今だって昼食後の煙草をふかすオレを皿洗いが終わった暁人がコーヒー片手に天気予報を見に来るといういたって穏やかな休日を過ごしている。
「父の日のプレゼントは不要だぞ」
先程見たワイドショーの話題を引っ張り出して茶化すと父親というか、お爺ちゃんというか……ととんでもなく失礼なことを言い出した。
「おい、さすがに孫のいる年じゃねえぞ」
理論上は可能だが、机上の空論が過ぎる。暁人も実際の話じゃなくてとまごつきながら二人分のコーヒーをテーブルに置いた。
「いつも僕がああしたいとかこうしたいとか言ってるけど、KKはそういうのないの?」
そういえば今日も二人揃ってのオフだがどうすると聞いてみればゆっくり過ごしたいと請われ、遅めに起きて体を流しオレがトーストと目玉焼きを焼いてコーヒーを入れた。二人でテレビを見ながら話しながら朝飯を食い、オレが洗濯機を回して暁人が掃除をして、なんやかんやで昼飯を食べて今に至る。
二十代前半の要望にしてはあまりにもささやかなものだ。
溺愛する孫なら家政婦でも雇うモンじゃねえのか。そんな金銭的余裕はないし、狭い家なら尚更二人きりがいいのだが。
オレは煙草を消して暁人に向き直る。オレにはもったいないくらいの男前の頭を撫でて、嗚呼この幸福感が伝わらないのがもどかしい。
「オレの要望はオマエの願いを叶えることだよ」
「……かっこよすぎない?」
オマエにそれだけの価値があるんだと言ってもきっと伝わらないだろう。
だからオレは暁人自身が石コロのように散らばしてしまった望みを一つずつ拾い上げて磨いて宙に還してやる。
「そうだな、いつか満天の星空を見たいな」
「プラネタリウム?」
「オレにとってはそうかもな」
理解できるはずもなく納得のいかない表情を見せる暁人にまずは今度こそゆっくり寝かせてやろうと決めた。