おいしいといいあえるしあわせ。ーもうどれくらい走り続けただろう。
マレビトを倒して、神社を浄化して、
永遠に来ない夜を走っているような気がして、立ち止まる余裕もなくて。
だからほんの少しだけ、いまはー休憩しねえか。
そう言ったオレの言葉に、暁人はうん、と頷いた。
ひとまずオマエは何か食うか、と尋ねるよりさきに、暁人がコンビニ寄るね、と口にする。
・・・まあ、想定範囲内だが。
近場のコンビ二に寄り、コイツがあれもこれもとカゴに放り込むのを横目に見ながら、
レジの奥にずらりと並ぶ煙草の箱に視線を移す。まあ買ってくれといったところで叶うわけもないので、言わねえが。
買ったものを詰め込んだ袋を手に、うきうきとコンビニを出る。
こころなしか顔が緩んでみえる、その横顔を見て、少しだけ胸がすくような気持ちがした。
「・・・・どこで食べようかな」
『せっかく浄化したし、カゲリエの屋上でどうだ?』
「あ、いいね」
そういうと天狗を呼び出し、グラップルであっという間にビルの屋上へ。
ひょいひょいとビルの間をすり抜けて、高く高く、一番上へと。
このまま昇って行ったらどこまで行けるのだろう。例えば天国まで、行けたりなんざ、するわけはねえが。
コイツと一緒なら、どこまでも行けそうだな、なんて、少しだけ思ってみたりしている。
「到着~!」
あっという間に目的の場所にたどり着く。夜のプールは、いつもならきっとカップルたちが寄り添って過ごす場所なのだろうけれど。
今のここは、誰も居ない。散らばった衣服の塊だけが、そこで愛を誓い合ったであろう魂たちが居たことを思い起こさせて、何となくやるせない気分にさせる。
ふと暁人の横顔を見れば、同じような気持ちだったようで。
眉根を寄せて、ふふ、と困ったように、笑った。
「・・・いまはさ、KKの隣に、僕がいるから」
がまんしてね、なんて言うんじゃねえ。こういうのは、年上から言うモンなんだよ。
『オマエの傍にも、オレが居る。・・・それでいいだろ』
がさがさとコンビニ袋を漁る暁人が、そうだね、と笑った。そうだ。それでいい。
オマエは、笑ってろ。オレの傍で。
「にしても、おにぎり美味しいな~。やっぱ鮭だよね!」
もしゃもしゃとおにぎり(鮭)を頬張りながら暁人が言う。
『ほんっとよく食うなァオマエ・・・・それで何個目だよ?』
「え?まだ3つ目だよ。少ないでしょ?」
健康な証だって~、とにこにこ笑いながらつぎは~、とコンビニ袋から今度はどら焼きを取り出してもぐもぐし始めた。
『・・・オレはどら焼きより暁人が食いてえなあ』
ボソっと呟いてやればぶほっと暁人がどら焼きを吹き出す。ああまあコレも、予想通りの展開だわな。
「ちょっとKK!人が食べてるときにそういうの止めてくれる!?」
『わりぃわりぃ、いや本心だからな?』
「嘘言ってるとかそういうんじゃないから!もったいないだろせっかくのおいしいどら焼き!吹き出しちゃったじゃん!」
イヤそっちかよ怒るとこ?
『暁人が食いてえは受け入れてもらえるってことでいいんだよな?』
どら焼きを頬張ったままで固まった暁人の頬を、右手でつついてやる。
「・・・・そういうのは、帰ってからにしてってば・・・!」
なるほどなるほど。帰ってからな。帰ったらOKってことだよな。うん。
結局、暁人はいつだってオレに甘い。
だが、オレだって甘いものどころか吸いたいタバコも我慢してんだから、それくらいは許してくれてもいいだろ?
「・・・今度さ、晴れた日に。どっか公園でも行ってごはん食べたいな」
KKにも味わってもらえるようにさ、見た目かわいいお弁当作って。
そんな幸せな日常を送れるようになりたい。願いはただそれだけなんだ。
こんな夜だって、風は柔らかく吹く。オレとオマエが居れば、いつだってそこは幸せに満ちてると、オレは思うよ。
なあ、オマエはどうだ?
ーごはんが美味しいといえる相手がいるのは、しあわせだね。
暁人のつぶやきが耳をくすぐる。ああ、やっぱり。
オレたちは唯一無二の相棒だよ。同じ時に同じことを考えてられるってな、
何よりもー幸せなこと、なんだよな。