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    yoizakura44

    @yoizakura44

    K暁に落ちた平成元年生まれ。基本的に相手左右固定。のんびり投稿します。

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    yoizakura44

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    K暁デーのお題『花束』。遅刻ですが参加させて頂きました。
    素敵な企画をありがとうございました💐

    #K暁
    #毎月25日はK暁デー

    贈り合うのは想いの束 真っ赤な花の花束といえば、ロマンチックなシチュエーションの王道だろう。いささか古風な感もありはするが、今でも様々な媒体のフィクションで見られるし、花屋や各種商業施設でも並べられる。「最近の若者」と呼ばれる暁人も、一度は目を引かれた事があるし、手に取ってみたいと思った事もある。
     ただし、それはその花束が『玄関を出た瞬間にぼとりと頭上から落ちてきた』物でなければ、の話である。
     
    (うーん、これは……)

     暁人は花束から視線を逸らし、それが落ちてきた事など無かったように玄関を閉め、いつも通りに目的地に向かって出発した。
     あれには反応しない方がいい。暁人の勘がそう告げていて、数奇な経験により培われたそれに従った。勘と同様に得た力で調べてみてもよかったが、それよりも体が速やかに立ち去る方を選んだので、いつもより少し足早に目的地を目指す。幸いにも、今日向かう先はこの手の事柄に対する専門家が集まる所だ。
     その中でも最も行動を共にしている相棒の顔を思い浮かべて、暁人はこの出来事を伝えた時にその表情がどう変わるか想像した。

    ***

    「…お前、またなんか余計な情けかけただろ」

     かくして正解は、眉間に深く皺を寄せ鋭い視線を投げられた。暁人のかなり年上な相棒—KKは、その年期をまざまざと感じさせる相貌をしており、端正ながらも強面の気のある顔による睨みはそれなりの迫力で。けれどその渋面にも慣れてしまった暁人は、多少肩を竦めながらもその視線を受け流した。受け流せるようになるほど、その視線に刺される事態が以前にもあったという事でもあるが。

    「…まあ、心当たりはあるよ。多分、一昨日の……」

     その日の夕飯の買い出しを終えた暁人は、帰り道の途中で、ふと聞こえた啜り泣く声に足を止めた。直感的に、その声がこの世に生きる存在のものではないと悟る。買い物帰りであるし、一旦放置するか迷ったが、余りに哀切な泣き声にどうにも見ぬふりは出来ず、声の響く路地へと足を進めた。
     声の主は、暁人より幾ばくか年かさに見える女性の霊だった。腰辺りまで伸びた長い黒髪が俯いた顔にかかり、その表情は妙に赤い唇しか見えない。しかしその唇はぐうと引き結ばれ、細く白い顎からは止め処無く雫が滴っていて、その女性が滔々と泣き続けている事はありありと判った。
     その今は見えない瞳から流れているだろう涙は、地面に落ちる事はなく、細い腕に酷く大事そうに抱えられた花束へと染みていて。一抱えもある大きなそれは、女性の唇と同じく目の覚めるような赤い色だった。
     霊視してみても害意は感じず、ひたすらに哀しみばかりが伝わってくる。暁人はその哀しみが拭われればこの霊は成仏できるだろうと判断して、何がそんなに哀しいのかと声をかけた。

    『とてもとても大事に育てたこの花を、みんな気持ち悪いと言うの。要らないと言うの。こんなに、こんなに頑張って咲かせたのに。ほんとうに、ほんとうに頑張ったのに』

     止まらない涙と共に、切々と語られる嘆き。確かに、あまりにも真っ赤なその花は毒々しくも見えたが、花びら一枚一枚が艶やかに輝き、何重にも重なる姿は見事だった。花には詳しくない暁人にも、その咲き様が素晴らしいという事はひしひしと伝わるくらいに。
     そんな大切に咲かせた花を、無常に貶されれば辛いだろう。おそらく、何か深い思い入れがあった花に違いない。そんな不憫な花と女性の哀しみを取り去ろうと、暁人は――

    「とても綺麗な花ですね、僕は欲しくなりましたよ、って伝えて。そしたら、今まで泣いてたのがすっと止まって、「ありがとう」って言って消えたから。成仏したんだと、思ったんだけど……」

     そこまで聞いて、KKは「はあ~~~」とそれは大きな溜息を吐き、組んでいた片腕を上げて頭を抱えた。

    「それでばっちり目ぇつけられてんじゃねぇか。だから変に情けかけずさっさと祓え、って再三言っただろうが」

     再び睨まれて、暁人はまた肩を竦ませた。確かに何度も忠告は受けたし、それがKKの確固たる教訓から来ているとは分かっているが、嘆きや哀しみを見過ごすのはどうにも踏切れない。しかし、それで厄介ごとを連れてきてしまったのも事実であるので、強く反論は出来なかった。

    「ごめん。でもほんとに悪い気は感じなかったんだよ」
    「そりゃあ、花を受け取られなかった事を悲しむだけに「悪気」は無い事もあるだろうさ。だが、そういう純度の高い思念こそ下手に慰めたら面倒な事になるってのも知ってるだろ」

     お前の場合、慰めが本心だから余計に執念を移されるんだ。KKは呆れと怒りの混じった声音でごちた。
     暁人の優しさは美徳であるが、それ故に良くないものすらも惹きつける。未練として凝るほどに深い心の闇へ差し伸べられる、柔らかく清廉な手と存在がどれほど渇望をもたらすものか。KKこそが身に染みて知っていた。

    「そうとくりゃ、とっとと祓っちまうぞ。その霊が居た所に連れてけ」
    「わかった。そんなに遠くないよ」

     こうなってしまっては、穏便に事を済ませるのは無理であると、他でもない標的になってしまった暁人も分かる。ならば手厳しくもあるが頼りになる相棒と共に相対そうと、アジトの玄関を開けた瞬間。
     ぼとり。数十分前と寸分違わない音と共に、暁人の目の前を鮮やかな赤色が横切った。
     ぶわ、と暁人の後ろから冷たい気配が噴き上がる。それはKKの冷えた怒気で。再び目前に落とされた花束よりも、背後のKKに暁人は鳥肌を立てた。

    「おい、お前は何も反応するなよ」

     地を這うような低い指示に、暁人は首だけでこくりと返事をする。すかさずKKが足元に落ちているであろう花束に向かって霊視をすると、憤怒の気配が更に膨れ上がった。

    「おい暁人。お前、始めっから誘われたな」

     暁人からは伺えないKKの視線は、霊視した花束を切り裂かんばかりにぎらついていた。

    「「悪気が無い」なんてとんだペテンだ。この花、人の血と涙をたっぷり吸ってやがる」

     KKが告げた真実に、暁人の体は今度こそゾッと怖気に覆われた。


     かくして、件の場所にその霊は居た。
     もう啜り泣きは聞こえてこず、女性は俯いてもいない。その背はすっと真っ直ぐ伸ばされ、上げられた顔は同じく真っ直ぐに暁人へ向いている。黒髪だけが変わらずその顔に被さり、花が綻ぶような微笑を浮かべた唇を際立たせていた。
     その唇も、同じ色をした大輪の花も、もはや欠片も美しいなどと思えない。ひたすらに禍々しく、おぞましい。
     それでも怯まず対峙しようとする暁人だったが、それよりも前にKKがぬっと暁人の前に進み出た。

    「よくも御大層なモンをこいつに送り付けてくれやがったな。のし付けて返しに来たぜ」

     KKの威圧にも女性は意に介さず、暁人をひたすらに見つめている。しかし声を聞いてはいるようで、哀切を完全に取り払った高らかな声で話し出した。

    『私の大事なお花。血と涙を捧げたお花。あの人は綺麗だと言ってくれた。欲しいと言ってくれた。私の花を、私の血と涙を。うれしい。うれしい』

     歌うように女性は歓喜する。瞬く間に花の赤が鮮やかさを増し、辺りに穢れが立ち込め始めた。

    『たくさんあげる。私の花を、私の血と涙を。だから、あなたの――

     ぶわ、と黒髪が舞い上がる。現れた二つの瞳は、ぬらぬらと真っ赤に濡れて光っていた。

    『あなたの血と涙も、あなたも、ちょうだい―――!!!』

     ぐわ、と女性の手が暁人へ伸ばされる。鋭い爪も赤く染まり、花束と一体になって暁人へと向かう。
     しかし、その手も花も、暁人へと届くことは無い。

    「誰がやるかよ。とっとと消えろ」

     決着は一瞬だった。ばきりと何かを砕く音が響き、甲高い悲鳴があがった。毒々しい赤色は全て塵となり、すぐに名残すらなく消え去る。
     もうそこには、嘆く女性も、笑う女性も、赤い花束も跡形も無くなっていた。
     かくして、脅威はすっかりと祓われたのであるが。暁人の前には依然として、むしろ霊よりも遥かな難題が残されていた。
     おそるおそるKKの事を伺うと、振り向かないまま指先をくいと動かして暁人を呼んだ。その仕草に普段なら異を唱えるところだけれども、まんまと霊の思惑に引っ掛かり、KKのよくない琴線を弾いてしまった今の暁人には従う他ない。
     側に寄っても、KKは暁人の方を向かないまま。けれど、声は発せられた。

    「お前、赤い花が好きなのか」

     平坦な声音は、感情が読み切れない。

    「特に好きって訳では…。僕には、花の色より、誰に貰うかが大事だよ」

     もし、KKが贈ってくれるのなら。どんな花だって、暁人は心の底から喜ぶだろう。そう続けようと、口を開きかけた時。
     ぐい、とKKが暁人の首元を掴み引き寄せた。突然の暴挙に、暁人はされるがままKKの元へ倒れ込む。
     向き合った顔が、暁人の首筋へと逸れて。じゅ、という音と共に、首筋に走る鈍い痛み。
     その感覚をもう数え切れないほど味わっている暁人には、鏡を見ずとも、自身の首筋にぽつりと赤い花びらが散らされたのが判った。
     意趣返しにしたってこんな、と文句をつけたいのに。暁人の体を貫いたのは、どうしようもない歓びで。暁人の頬も、つられるように薄赤く染まる。
     その様こそ、どんな花よりも美しく、艶やかで。誰にも、なににも渡してやるものかと、KKは獰猛に笑む。
     想いと欲を滲ませた指先で、今しがた贈った花びらをなぞる。それだけで、ひくり、と肩を揺らすのがまた堪らない。

    「さて、これをもっとたっぷり贈ってやる事も出来るが…どうする?暁人」

     囁くように問う声は、けれど答えをひとつしか許していない。しかし暁人も始めから、告げる答えはひとつしか用意していない。
     KKがくれる花束で、暁人を飾ってほしい。KKの想いに染まった暁人を、KKへの想いごと贈るから。
     暁人が望みを囁き返すと、KKは暁人を強く抱え込み、二人で存分に贈り合えるところへと攫っていった。
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