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    雨合羽を着たら精神だけ子どもになっちゃった暁人のK→暁話(アジトメンバーは復活したけど麻里ちゃんは亡くなっている設定です)(捏造しかない)

    ##K暁

    雨合羽を着たら精神だけ子どもになっちゃった暁人のK→暁話暁人は猫又から冥貨で買ったものを身に付け、更にはいつの間にか手元にあったものも使う。流石にあの晩以外はその辺のものを拾って食べたりはしないが。
    「だから出所のわかんねえモンをホイホイ身に付けるなって言ぐえっ!」
    思わず出た文句は凛子に物理的に封殺された。
    「どんなに正しくても今言ったところで意味がないでしょう」
    「……悪い」
    二人の視線の先にはソファーの上で成人男性らしい体躯をこれでもかと縮こませる暁人。アジトの中なのに黄色い雨合羽を頭まで着こんでビニール傘を抱えてこちらを見上げる表情は今まで見たことのない幼さと怯えを滲ませている。
    『もう一度質問するよ』
    ソファーの傍らにしゃがみこんだエドのボイスレコーダーにこっくりと首を縦に動かす。
    知らない人は怖いが機械は怖くないとはまさにZ世代か。笑えねえとKKはボヤいた。
    『君の名前は?』
    「いづきあきと」
    『何歳?』
    「ろくさい。 いちねんせえになった」
    『君はどうしてここにいるんだい?』
    「わかんない……おうちでねて、おきたらしらないおへやだった」
    エドがKKたちの方を見て両手を上げる。『お手上げ』という意味らしいが笑えない。
    「精神退行ってヤツか?」
    「もしくは入れ替わりか。 どちらにしても戻すしかないけど」
    「どうやって」
    KKも元々の仕事柄、精神的にヤバい人間は何度か見たがこのタイプは初めてだし凛子も同様のようだ。
    「取り憑かれたなら払えばいいが」
    霊視しても暁人の肉体には暁人の魂しか宿っていない。その状態もいつもより弱々しいが悪くはない。
    「十中八九あの雨合羽だろ。 オレのいないところで着るからああなるんだあのバカは」
    「束縛系彼氏とは意外ね」
    「それとこれとは別だろっていうか彼氏じゃねえよ」
    洞察力の高い凛子には気づかれているが自分に対する好意には鈍感な暁人には祓い屋として人生の師として相棒として慕われていてそれ以上もそれ以下もないしKKもそれで満足している。
    未来ある若者がこんな中年に懸想されても何一つ良いことなどないだろう。
    とにかく今のところ大人しくしていることだけが幸いだ。
    「でもさ」
    と何か考え込んでいた絵梨佳が恐る恐る意見を述べる。
    「もし六歳の暁人さんの体に今の暁人さんの精神が入ってたら……過去が変わったりする?」
    東京を一変させたあの一晩に関して、暁人は完全に巻き込まれただけであるが、最後まで立っていたのも暁人だけで、今KKたちが生きているのは暁人の報酬みたいなもので、人生のボーナスステージだ。
    だから過去に戻った暁人が両親と麻里の死や火事を食い止めて渋谷の一件に関わらないことを選んだとしてもKKたちに止める権利はない。
    「だとしてもオレたちにはどうにもできねえだろ」
    目の前の暁人はエドの
    『室内で傘を持ち歩くのは危険だ』
    という説得に応じてビニール傘を預けていた。
    まだ話が通じる年齢で良かったと一同胸を撫で下ろす。
    なにせ初手合羽を剥ぎ取ろうとしたKKが「やだ!」の一言で弾きとばされたので。
    「とりあえずボクたちが誘拐犯ではないことは理解してもらえた」
    珍しく肉声でエドが報告する。素直で助かったなとKKはやんちゃだった昔の自分を思い返した。
    『改めて自己紹介をしよう。 ボクはエド、コンピューターおじさんだ』
    「エドおじしゃん」
    『それからコロッケを買いに行ったのがデイル』
    「デールおじしゃん」
    「はいはーい! 私は絵梨佳、高校生のお姉さんだよ」
    「えいかしゃん」
    「凛子。 悪いようにはしないから安心して」
    「りんこしゃん」
    「……KKだ」
    他に言葉が浮かばず当人に注意される無愛想さで名乗ると暁人はビクリと震えて、しかし
    「けーけ?」
    と首を傾けた。
    「コードネームだよ」
    「カッコいい!」
    絵梨佳の言葉に目を輝かせる辺り子どもらしくてKKは目を細めた。自分の幼少時代に比べて随分大人しいので面食らってしまうがやはりガキだ。
    「お腹空いた? 喉乾いてない?」
    「だいじょぶ。 もうおやつのじかんがおわりにしたから」
    時計を見て暁人が絵梨佳に答える。今は16時。この状態の暁人が見つかって1時間だ。外は朝からの雨のせいで暗い。
    「すごいねー時計わかるの?」
    「ぼくねーちょっとだけわかるよ!」
    さすが絵梨佳、猫だけでなく子どもの扱いも上手い。壁に寄りかかって様子を見ているKKとは真逆だ。
    凛子もソファーの傍らにしゃがみこんであたしもお話ししていい?と最大限優しく尋ねる。
    「いいよ」
    「ありがとう。 今調子が悪いところはない? 頭が痛いとか、気持ちが悪いとか」
    暁人は首を左右に振る。取り憑かれているとはいっても呪われているわけではなさそうだ。
    「じゃあ行きたいところとかしたいことはある?」
    であれば未練を絶つのが手っ取り早いと判断した凛子が尋ねるものの暁人はピンとこない様子で
    「ここでおとおさんとおかあさんをまってる」
    と言う。六歳の暁人なら当然の反応だ。ただ二十二歳の暁人にはもう父親も母親もいない。
    エドが珍しく紙を寄越す。
    『親のいない子どもを取り込む怪異の可能性がある』
    同感だ、とKKは声に出さず唇だけ動かした。
    暁人は適合者で、KKという他者の魂を長い時間受け入れていたせいで怪異の影響を受けやすい。子どもにしてまで暁人を欲しがっている可能性は高い。
    『彼に両親が死去していることを悟られずに時間を稼ぐしかない』
    「どうやって」
    先程と同じ言葉を繰り返すと同時に玄関からただいまと陽気な声が聞こえてきた。
    『おかえりデイル、首尾はどうだい?』
    出迎えたエドにデイルは「グッドニュースとバッドニュース」があると伝える。典型的なアメリカンジョークだがKKは嫌な予感しかしない。
    暁人にスマホ(恐らく動画サイト)を見せていた絵梨佳が
    「良いニュースから!」
    と希望すると「小さなお客さんが来たと言ったらメンチカツをおまけしてくれた」と大したことない話をしたのでKKは思わずそんなにことかよとぼやいた。
    「やったー! 暁人くんはメンチカツ好き?」
    「すきっ」
    気がゆるんでいたKKの心臓に二撃目が入る。いやいやこんなんで喜んでいるなんてオレまでガキになったのかと自省しつつデイルに悪いニュースを促す。
    するとデイルはいかにもといった風に肩をすくめて
    『アジトの周辺しか雨が降り続けていないし、一度入ったら出られなくなっている』
    とメンチカツには釣り合わない事実を告げた。
    時計はまだ16時を指していた。


    エドと念のためKKを残してメンバーは雨の範囲を探りに行った。
    「手を出さないでよ」
    「出すわけねえだろ!」
    いくら見た目はいつもの暁人でも、子どもをどうこうするつもりなど毛頭ない。凛子もわかっているはずで、つまりわざわざ揶揄してくるのだからタチが悪い。
    暁人はスマホは連絡用で貸せないのでかき集めた紙とペンでお絵描きをしている。とりあえず隣に座るくらいは心を許してもらえたらしい。しかし煙草も吸えずKKは天井を見上げた。
    15時頃はデイルは外に出られた。時計も正常に動いていた。
    16時頃の会話が鍵だ。暁人が無意識に力を使ったにせよ何かしらスイッチがあったはずだ。
    (親を待ってるっつったな……)
    迎えにくるのは何時だろうか。暁人はあまり昔の話をしない。彼の状況を考えれば当然なのでKKも聞き出そうとしなかった。
    ちらりと紙を見れば忍者の絵を描いている。そんな衣装があった気がする。
    「忍者は好きか?」
    軽い感じを装って声をかける。暁人は赤い月を描きながら舌足らずに好きだと答えた。
    一瞬KKの動きが止まった。
    別に断じて可愛いとは思っていない。
    平静を保ってKKは言葉を続ける。
    「さっきは悪かったな」
    「みんちかちゅかいたらゆるしてあげてもいいよ」
    「メンチカツな」
    「ぼくはちゃんとめんかちつってゆった!」
    「そーかよ」
    悪化してると指摘しても無駄なのは流石のKKもわかる。それよりもだ。
    「まだ合羽脱がねえのか? オマエ、家でもずっと着てるのか」
    茶色のペンで楕円を描きながらさりげなく誘導すると暁人は着ないよ!と言い返してきた。
    「なら、」
    「でもぼくまだじょーずにパッチンできないんだ」
    「あん?」
    突然出てきた新情報にKKは眉をしかめる。
    「パッチンしゅるのにじかんがおそくなったらおいてかれるかも……」
    「ああ……ボタンか」
    子供用の合羽のボタンは押せば留まるタイプだが一年生になって二ヶ月程度の暁人にはまだ難しいのだろう。小学生の精神の暁人に大学生の手は合っていないので余計に。
    「そんなんオレがやってやるよ」
    若干踏み込みすぎだが相手が暁人なので良いだろう。エドも止めに入らないし。凛子たちとの連絡で忙しいのかもしれないが。
    「でもしょーがくせーはじぶんでできないとだめなんだよ」
    「そうか?」
    「しょう。 まりもいるし」
    暁人が六歳なら麻里は一歳頃、手のかかる時期だ。少なくとも小学一年生よりは。
    暁人は真面目で責任感が強いし、恐らく両親に悪気はないだろう。
    「麻里が小せえからってオマエがガマンする必要はないんだぞ」
    「う?」
    切れ目が幾分丸くなってKKを見上げる。顔は大人の暁人のままのはずなのに表情のせいで幼く見える。
    流石にわからねえか、と嘆息した瞬間KKにはそれが見えた。
    「……ちょいと、エドに、メンチカツの写真を見せてもらってくるな」
    「わかった」
    なんでもない風を装ってエドの傍に行く。
    『もうすぐデータが揃う。 やはりこの建物の周辺にーー』
    「その前に暁人を見てくれ。 一瞬ブレた」
    その言葉だけで理解したらしいエドが腕時計型の測定器を用意する。
    「暁人、エドにも絵を見せていいか?」
    「いいよーみてみてしゅいけん!」
    『いいね、色がユニークだ!』
    そういえば昔忍者についてテープレコーダーで語ってたな。
    しかし今は忍者について議論している場合じゃない。
    「暁人、オマエの両親が麻里ばかり構って寂しいか?」
    「……んーん、まりはあかちゃんだからしょーながいよ」
    「そうか……オマエも頑張ってたんだな、エライな」
    頭を撫でてやりたいがフードを被っているので無理だろう。
    昔のKKなら男なら当たり前だとか言っていただろうが今のKKは少しだけ変わった。
    『褒めてくれてもいいんじゃない?』
    なんて自ら口にする現代の若者によって。
    「ならオレがオマエのことを構っていいか?」
    これは暁人から怪異を引き剥がすための言葉であって、KKの願望ではないはずだ。
    「あしょんでくれるってこと?」
    「おう、オマエの親が迎えに来るまでな」
    親の迎え、という言葉に暁人の手が止まった。
    『KK、あまりよくない』
    インカムからエドの声がする。わかってるとKKは目だけ動かした。
    暁人の魂がブレている。やはり暁人に憑依しているモノがいて、今は絶対共鳴に近い状態のため認知しにくいが暁人の何かを動かすことでブレて見えるのだろう。
    ただしブレさせればさせるだけ危険性も増す。
    かといってKKも尋問したことはあれどカウンセリングまがいをしたことはない。
    暁人は手裏剣の次は黒い丸に黄色い線をたくさん描いている。
    「……なんだそれ」
    「らーめんしらないの?」
    「具を描け具を……食いに行くか?」
    一か八かで誘ってみる。暁人はKKには見向きもせずにグリグリと絵を描き続ける。
    「……ってるんだ」
    「あ?」
    「おとうさんとおかあさんをまってるんだ。 むかえにくるっていったのに。 ぜったいくるっていったのに……!」
    「暁人」
    俯いて肩を震わせる暁人の様子が明らかにおかしい。もしや、とKKは手を伸ばすが数秒遅かった。
    「KK!」
    珍しいエドの肉声よりも早くエーテルのバリアを展開させる。最初に受けたより強い衝撃に身体を硬直させる。辛うじて抉じ開けた目で見たのはいつの間にか取り戻したビニール傘を広げて宙に浮く暁人だった。
    「暁人! ……クソッ!」
    自由になった頃には散らばった紙とペンだけ。
    エドがすぐさまガジェットに齧りつく。
    『みんなと連絡が取れない。 同じ場所をグルグル回っているから無事ではあるけどね』
    「化かされてるってことか」
    16時のままの時計に舌打ちして身支度を整える。
    『彼の位置もわかる。 スマホに転送しておいたよ』
    「ここは頼んだ!」
    案外近くにいる。周囲にマレビトさえいなければ。という願いは叶わなかったが雑魚ばかりのは幸いだった。
    チャージショットで吹き飛ばしながら雨の裏路地を走る。不自然に静かになった一角に黄色い影はいた。
    「……暁人じゃないな」
    ぱしゃん、と長靴は水溜まりを叩く。足元を見てきゃっきゃとおかしそうに笑う姿はマレビトのそれだ。
    『アキトはおやすみしてる。 ボクがいっしょだとつかれちゃうみたい』
    「なら悪いが離れてくれねえか。 暁人はまだ生きてんだ」
    『でもアキトもおとうさんもおかあさんもいなくてひとりぼっちだよ。 ひとりぼっちはさみしいからボクたちいっしょにいるんだ』
    やはり悪意はないらしい。それだけに質が悪いが。
    (腹くくるか……)
    まだ暁人と子どもの魂は近いところにいて安全に引き剥がすのは難しい。
    今の彼らに必要なのはエーテルショットではなく言葉だ。
    「オレじゃ駄目か」
    暁人は光のない目でビニール傘越しにKKを見る。
    「オレがオマエを迎えに行く。 学校でも職場でも出先でも呼べば飛んでいく。 オレには天狗がいるからな」
    『アキトのおうちもうないのに?』
    「オレの家を片付けてオマエも住めるようにする。 家族になるなんて烏滸がましいこたあ言わねえ。 オレはただオマエがその合羽脱いで寄りかかれる場所になりてえんだよ……ダメか?」
    フフ、と暁人は吐息を溢す。傘を後ろに傾けて、引っ掛かったのかフードが外れた。
    「KKのクセにずいぶん自信がなさそうだね」
    「そりゃあ慎重にもなる。 わかるだろ」
    「うん……でももう僕はKKのトコ以外考えられないよ」
    そう微笑むのと同時に雨合羽も傘もエーテルに変換されて暁人の体は屑折れる。
    ギリギリ水溜まりに倒れる前に抱きかかえると体から魂が出てきた。
    『あーあ、またボクだけひとりぼっちだ』
    「安心しろ。 オマエが気づいてないだけであの世でオマエの親が待ってる」
    『そうなの?』
    「送ってやるよ」
    印は既にわかっている。暁人が描いていたラーメンの黄色い線の中にあった。
    バイバイと淡い光が昇っていくとようやく雨が止んだ。
    スマホを確かめると17時の表示と大量の通知。
    「まあまずは風呂だな」
    それから暁人に説教をして、一緒に住む段取りを考えよう。
    手のかかる子どもを抱え直してKKは水溜まりに構わず一歩踏み出した。
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    na2me84

    DOODLE #毎月25日はK暁デー
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    りんご

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    閻魔帳のきれはしには(1)


    待ち合わせは、やっぱり駅前かなあ
    ベタなのは分かってるよ! でも後に来る僕が気になって、その後ろ姿がどこかそわそわしてるの、きっとかわいいなって思うんだろうな


    ◆◆◆◆◆


    『KK

    今日午前11時。渋谷駅北側に集合。』


    凝り固まった肩を回しながら、ネオンが薄まりゆく都会の路地を暁人はゆったりと歩いていた。長期の仕事が終わって漸くまともな寝食にありつけると思えば、心も穏やかになる。
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    自分の名前をした空を背にしながら、暁人は連絡のためにスリープモードにしていたスマホを起動させた。そこに表示される、送り主と簡素な一文。暁人が首をひねるのも無理はない。めったに文字でのやり取りを行わない人物から突然こんなものが来たら、誰だって困惑するだろう。自分がいない間に向こうで何かあったのかもしれない。それにしても……メッセージ? 凪いでいた心情の波が僅かに揺れて―――まあいいか、と持ち直した。暁人が暁人たるゆえんは、この微妙な状況に対しての構えがやたら大きいことである。波乱万丈な生い立ちのせいで大概のことは受け流せるようになった結果だった。
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