用事があって各々別に外食してきたので、何を食べてきたか当てるゲームをする話『用事があって各々別に外食してきたので、何を食べてきたか当てるゲームをする話』けあき
「今日の昼、何食べたの?」
暁人のその一言で始まった推理ゲームは、静かに白熱していた。夕飯の席で食べながらも興が乗る。
「お、当ててみろ」
「えー?そうだなぁ……今日はどこ行ってた?」
「銀座」
「銀座かぁ……和食?洋食?」
「それも聞くのか」
「推理には材料がないと」
「あー、どっちでもない」
「なら中華か……でも銀座でしょ?僕が食べたがる?」
「食べたがるだろうな。というか、今度連れて行こうと思ってる」
「え、やった。どこだろ?僕が食べたがる銀座の……もー!いっぱいあるよ!」
「ははっ!だろうな!」
「銀座はちょっと高いけど美味しいものいっぱいあるもん」
「単価高いよな。評判はいいが美味しくなかったら困るから、一人で下見してきた」
「で?」
「めちゃくちゃ美味かった」
「ほらー!えー?どこだー?」
その後もわちゃわちゃと質問を繰り返し、もはや推理とはなんだったのかの店名ローラー作戦でついに辿り着いた。
「あそこかぁ」
「有名だろ」
「餃子が有名だよね。てか看板が餃子じゃん」
「だな。チャーハンも美味かったぞ」
「えー、もう僕中華の口だよ……」
「卵焼きいらないのか?」
「いる!」
夕飯にちょんと添えられた暁人の作る卵焼きはほんのり甘くてぽわぽわで、箸休めに美味い。ひょいと摘んで口に放り込むと、ジュワッと染み出す出汁にほろっと崩れる卵。舌の上でほんのり感じる上品な甘み。美味い。
「じゃあ今度は僕の番ね。今日は新宿に行ってきた」
「新宿ぅ?」
「ほぼ新宿」
「ほぼ……それは若者の街か?」
「うーん、そうかも」
「分かった。新宿はひっかけで、新大久保だろ」
「えー?なんで分かったの?」
「勘」
「嘘だ」
「嘘といえば嘘かもな。お前、SNSをオレも見てること忘れてるだろ」
「あ」
「なんか鶏肉とチーズの炒めたやつ食ってただろ」
「じゃあその料理名当てて」
「はぁ?知らねぇ」
「スマホ使っていいから、ほら」
「じれったい。オレの負けでいいから、アレなんていうんだ」
「負けでいいのー?」
「いい。こんなことで負けても悔しくない」
「本当に?」
「むしろ勝負だとは思ってなかった」
「それは僕もそう」
「じゃあなんでもいいじゃねぇか。ほら、アレなんていうんだよ」
「チーズダッカルビっていう、韓国の料理だよ。あとね、チヂミと、ヤンニョムチキンと、ほら見て、韓国冷麺」
差し出されたスマホにはテーブルに並んだ料理たちと、幾人かの友人らしき人影。ちゃんと友達いるんだなぁ。よかったなぁ、暁人。
「これさ、ダッカルビがあんまり辛くなかったんで油断したんだけど、ヤンニョムチキンがめちゃくちゃ辛くてね、冷麺追加したの。本当は辛いラーメン追加する予定だったんだけど心折れちゃって」
「そんなに辛かったのか」
「うん。行ったメンバーに辛いの苦手な奴もいたからね。今度はヤンニョムチキン抜きで辛いラーメン試しに行きたいな」
「どこの店だ?」
「ここ、今度一緒に行こうよ、ダッカルビ食べよ」
「オレは少しでいい。冷麺が美味そうだ」
「冷麺は美味しかった。おすすめ」
「あー……麺類食いたい口になっちまった」
「トンカツもういいの?」
「もういい、腹一杯だ」
「じゃあ食べちゃうね」
「おう、いっぱい食べろ」
今日の夕飯はトンカツ、千切りキャベツ、豚汁、卵焼き、香の物に山盛りの白米。正しくはスーパーの割引トンカツ、ピーラーキャベツ、冷蔵庫の残り物豚汁、卵使い切り卵焼き、残ってた漬物だ。二人ともお昼をちょっと贅沢してしまったから、なるべく早く安く自炊した結果だ。
「中華も韓国料理も食べたい……でもトンカツ美味しい……」
「カラシつけたか?さっぱりして美味いぞ」
「ん、つけたい」
目の前でもきゅもきゅと、カツとキャベツを頬張り、ご飯にはふりかけをかけてこれまた大口で平らげていく暁人を見ていたら、また美味しい店に連れていってやりたいと思う。
「暁人、本当に美味そうに食うなぁ」
「ん!美味しいからね!」
「そうか。今度、銀座の餃子も新大久保の冷麺も、ゆっくり食いに行こうな」
「そうだね!」
4合炊いた炊飯器もじきに空になるだろう。オレが飯を美味いと思い直せたのは、目の前でこうしていつも幸せそうに飯を食う暁人がいてくれたからだ。
それを伝えた事はないが、いつかちゃんと、感謝を伝えなければならないな。
「口の端、ソースついてるぞ」
「んぇ?」