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    「trick or treat」 「冬支度」 「鍋」
    ・できてるけあきの日常
    ・単品作品です
    ・あえてお題の言葉を使わないチャレンジです

    ##K暁

    暑さも寒さも彼岸までと言うが、最近は少し暑さがマシになってきたなと思った頃から段々と店頭にオレンジや黒や紫が増え始める。10月に入ればどこもかしこもハロウィン色だ。
    「ハロウィンとバレンタインの浸透は小売業の勝利だな」
    新米を担ぎ帰路を歩きながら、あとは恵方巻きかとぼやくKKに昔はなかったんだよねとスーパーの袋を下げた暁人が反応する。
    二人とも秋物の長袖だが日が暮れてくると寒く感じるようになってきた。必然的にアジトへの足取りが早くなる。重い荷物も夕食に直結するなら幾分軽く感じるものだ。
    「バレンタインはあったぞ。 まあ本命か義理の二択で今ほどの規模じゃねえが」
    それでも口が動くのは一人ではなくかけがいのない相棒であり師弟であり恋人である暁人と歩いているからだ。傍目からはそうは見えないだろうし、見えるようなことをするつもりもないが四十路過ぎても足取りが軽くなるのだから我ながら現金なものだ。
    「へー」
    暁人は想像できているのかいないのか適当な相槌を打つがKKは明確な過去のことを思い返す。
    子どもの頃は自他共に認める悪ガキであったし、大人になるまではなくはなかったが妻もいつからか形だけのチョコレートをくれなくなった。ロクに感謝を告げず甘いものは苦手だと言っていたKKが悪いし今更どうこう言うつもりもない。今度こそ、暁人から貰ったものはきちんと感謝を示すだけだ。
    「アジトも少しずつ飾りつけが増えてるよね」
    「オレじゃない、絵梨佳と麻里だぞ」
    なんやかんやと理由をつけてドアから窓からあちらこちらにカボチャやらドクロやらゴーストやらを付けたり置いたりしている。KKの生活の邪魔にはならないよう配慮されているので文句は言わないが、おじさん臭いと言われようと正直視界の端がチラチラして落ち着かない。
    「アジトの中だけだけどコスプレもするらしいよ」
    「何の意味があるんだよ」
    アジトは相変わらず結界が張られているので特定の人間しか入れない。もちろん名義上の怪しいオカルト事務所として活動することがゼロではないが今月は今のところはその数字である。
    「身内で楽しみたいだけだよ。 今までそういうのできなかったし」
    「……オマエはしないのか」
    コスプレ喫茶でもやるのかよと思いつつKKは想像する。狼男や吸血鬼がオーソドックスだがKKも男なのでナースやミニスカポリスなども見てみたい。いや見るだけでなく触れたり脱がしたりもしたい。
    「……何かえっちなこと考えてそうだけど僕はしないよ」
    まあ普段から警官や着ぐるみもあるもんなと自分を納得させる。
    「それに衣替えもして冬布団出して夏布団しまわなきゃ」
    スマホを弄り始めるので天気アプリでも見ているのだろう。晩は冷えるから皆も喜んで食べてくれるかななどと呟く姿が頼もしいなと思う半分二十代がそれで良いのかと心配にもなってくる。
    「渋谷とか行かねえのか?」
    「嫌だよ騒いでる人が多すぎるし狙ってたハロウィン限定は大体制覇したし」
    それはKKも手伝わされたので知っている。よくもまあわざわざ調べて買いに行くものだ。暁人が楽しくて嬉しいのならKKはそれで良いのだが。
    「オレが何か着てやろうか?」
    「えっ、いいの!?」
    思いの外食い付きが良くて米袋を落としそうになる。田舎と違ってビニール素材なので滑る。
    「オマエ、そういう趣味があったのか?」
    「趣味はわかんないけどKKのお巡りさん時代とか刑事の格好とかあとバッチリスーツ着てるのとか見たいなあ」
    それはハロウィン関係ないのでは、と思ったが言うのは止めた。
    「現役やそれと間違いやすい警察の制服は違法になるぞ」
    「え……家の中だけならセーフ? ていうか僕の謎衣装も?」
    頷くと慌て始めるのであの夜以外着てないだろと諭してやる。そもそも着ようとしたら止めるつもりだったので安心しろと伝えるとそうかと納得して
    「じゃああれ着てくれる?」
    と重ねてきた。
    「オマエの衣装着れないこたあねえだろうがよ……おっさんの若い頃の姿が見たいか?」
    「うん、だって写真とかないしKKの過去を全部知りたいとかは思わないけど全然気にならないって言ったら嘘になるし……」
    全くこの青年はどこまで愛らしいのだろう。
    嘆息したKKはバランスに気を付けながら青年の頭を撫でた。
    「な、なんだよ……!」
    「着るのはいいが、その後は褒美も悪戯ももらうがわかってるよな?」
    お決まりの文言を言うつもりはなく、答えを相手に託す気持ちもない。
    寒さ以外に頬を染めた暁人は
    「アジトじゃなくてKKの家でね」
    と応えるので元よりアイツらに見せるつもりはないと返すと更に赤くなる。
    「おい、今日は白菜とスープが安かったのに熱いもん食えるのか」
    スーパーで今夜の献立は決まったとシメまで買った暁人を揶揄する。まあ暁人は夏でもマシマシのラーメンを平らげるのだが。
    「食べられるよっ……KKの家に行くならそっちも冬布団出すからね」
    「オマエが動けるならな」
    「もうっ、からかうなよ!」
    早足になる暁人にこの秋から冬に変わる儀式も悪くないものだとKKはこっそり笑った。
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    recommended works

    りんご

    DONEK暁デー、初デート。K←暁のようでK→〈超えられない壁〉←暁です。
    理想のデート像を黙って実行するおじと、訳も分からず振り回されるあっきーの話。
    過去それなりに色んな話を書いてきましたが、ぶっちぎりで砂糖吐きそうな話になったと思います。けけは所々横暴だしあっきーはちょっと暴走気味です。そんな二人の初めてなんて、絶対事件になるに決まってるじゃないですか(笑)
    閻魔帳のきれはしには(1)


    待ち合わせは、やっぱり駅前かなあ
    ベタなのは分かってるよ! でも後に来る僕が気になって、その後ろ姿がどこかそわそわしてるの、きっとかわいいなって思うんだろうな


    ◆◆◆◆◆


    『KK

    今日午前11時。渋谷駅北側に集合。』


    凝り固まった肩を回しながら、ネオンが薄まりゆく都会の路地を暁人はゆったりと歩いていた。長期の仕事が終わって漸くまともな寝食にありつけると思えば、心も穏やかになる。
    こんな職業なので、どうしても一日の行動が普通のそれとは大きくずれ込む時がある。今日はそういった日で、数日掛かりの依頼を何とか終わらせたときには、すっかり空が白み始めていたのだ。

    自分の名前をした空を背にしながら、暁人は連絡のためにスリープモードにしていたスマホを起動させた。そこに表示される、送り主と簡素な一文。暁人が首をひねるのも無理はない。めったに文字でのやり取りを行わない人物から突然こんなものが来たら、誰だって困惑するだろう。自分がいない間に向こうで何かあったのかもしれない。それにしても……メッセージ? 凪いでいた心情の波が僅かに揺れて―――まあいいか、と持ち直した。暁人が暁人たるゆえんは、この微妙な状況に対しての構えがやたら大きいことである。波乱万丈な生い立ちのせいで大概のことは受け流せるようになった結果だった。
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