「天の川だ」
「おや?見たことが無かったですか?」
終業時間もとうに過ぎた時間に隣り合って、彼は寮までの道のり、私は自宅までの道を隣り合って歩く時に、私がどれほど緊張するのかなんて知らない彼が言ったそれが、稚い子供の用で、微笑ましくて、愛おしさだけが積もっていくことを誤魔化すために茶化した。
「実家の方でも見れない事は無かったですけど、でもここまで綺麗には見えなかったです」
「そうですか。まぁ、ここら辺は光源も少ないですしねぇ」
妖怪だらけの町ですから、そりゃあ光源だって少なくなる。
夜中に店をあけていても採算などとれはしないのだから。
だけれどそれ以上に
もう星なんかじゃ心なんか動かされない
こちとら数百年の満点の星空を何度見たか分からないほどは見ている
星が動き、一日が終わり、ひと月が終わり、次の一年が来る中
何度も何度も年だけを重ねた日々
星を見るたびに、『あなた』を亡くした日々が遠くなるから、いっそ見えなくていいと思った事だって、あった。あったんですよ。
だけれど
「光源もですけど、きっと空気も綺麗、だからなのもありますよね。うわあ、綺麗だなぁ」なんて星を振り仰いだままで君が笑うから
だから
「ええ、本当に綺麗ですね」
―その光さえあれば―