「ごめんな」
地面に付した彼がへたり込む私に伸ばした手
私の頬に添えられればべちゃりと生ぬるい感触と
芳しい香り
純度の高い赤
頭の処理が追い付かない
だって
「…君、どうしたの?」
床にも広がっては私の足を濡らしていく感触
頬に触れた手に己の手を重ねれば、私の手と差がない温度のソレ
そして握っていた反対の手がうっすらと動いて、胸をさするしぐさ
ぞっとした
謝罪の言葉よりもずっと怖い言葉
『ありがとう』
何が、と
勝手に終わりを決めないでと伝えたい言葉を伝える事すらできず
動かなくなった彼の胸に額を当てる
一拍も打たないソレ
床を濡らした血液も冷たい液体になり果てた
君が残した最後の言葉
ごめんとありがとう
****************
何時もの日常だった
何も変わらず
君は傲慢と優しさで「今回の依頼にはついてくるなよ」と言ったんだ
「そんなに難しい依頼なのかい?」
本当に心配をしたわけじゃない
世間的には相棒と言われる私だけれど、依頼解決のための人員という役割はとうに手放して久しいんだもの
結局、彼からしてみれば吸血鬼と人間のバディなんて毛色の違う物語を彼が紡ぐための道具の一つでしかないのだよ。今は、まだ。
そのうちずぶずぶに私という沼に落とそうとはしているんだけれどね。
閑話休題
「は!。本気で言ってるのか?」
鼻で笑う彼に溜息一つ
「まさか。君なら大丈夫だとは思ってるけれどね、でもその慢心が君を傷つけないかの心構えをさせてあげただけだよ」
「お優しいこって」
「ウフフ。ぞんぶんに畏怖ればいいよ」
「どこにも畏怖要素がねえだろ」
なんて
そんな言葉を交わしていたのに
―ねぇ、あの時に私がもっと強引についていけば、君はまだいてくれた?―
―もっと私が君の役にたつような生き物だったら、君は私を連れて行ってくれた?―
応えは無い
無いけれど
次を願った
次こそは
君がもっと頼ってくれるような
例えばフィジカルでは君の助けにはなれないかもしれないけれど、その分、頭脳できみを助けられるようになれば
そうすれば
今度は
―君は私を遺さないかなぁ―
からのΔドラロナを考えました