遠回しな贈り物遠回しな贈り物
「試食だ、食べてくれ」
そう宣ってテーブルに置いている形もさまざまなチョコレートを勧めた。
今度商会で出そうと思っている新商品の試作品で、小皿毎に違う味になっている。様々な人に同じ様に試食会を重ねて評判が良いものを商品化に向けていくつもりだ。
甘い芳香に幼馴染達は表情を緩ませ、各々が好きなものに手を伸ばす中、オルテガだけはどれにも手を出さずにじっと吟味していた。別に甘い物は苦手ではなかった筈だが、どうしたんだろうか。
「……俺はこれを貰う」
ややあってからそう言ってオルテガが手に取ったのはシンプルな正方形のチョコレートが乗った小皿だ。それをオルテガが手に取った瞬間に心臓が跳ねる。
同時にちらりとこちらに寄越される夕焼け色の瞳に、オルテガが核心を持ってあのチョコレートを選んだ事を悟った。
ああ、くそ。なんでわかるんだ。
「フィンはなんでそれを選んだの?」
サディアスの問いには応えずに口元に笑みを浮かべてオルテガがチョコレートを一つ口に運ぶ。中に入っているのはウィスキーで作ったシロップで、いわゆるウィスキーボンボンというやつだ。オルテガが好んでいる酒を使っている事も直ぐにバレるだろう。
「……甘いな。だが、酒の味がして美味い」
「ほう? どれ、俺にも一つ寄越せ」
「ダメだ。これは全部俺が貰う」
伸ばしてくるリンゼヒースの手を避けながら、オルテガがもう一つ口に運ぶ。
誰が作った物なのか気が付いたんだろう。サディアスが何か言いたげな生ぬるい視線をこちらに寄越してくるからそれから逃れるように顔を背けてていれば、リンゼヒースもオルテガが独占した理由に気が付いたのかによついた顔をして俺を見てくる。
「存外可愛い事するな、お前」
「う、五月蝿い。試食品だって言っているだろう」
揶揄う様なリンゼヒースに言い返したものの、ただの言い訳にしか聞こえないだろう。
料理人に教わりながら試作を重ねて作ったものだとバレたらもっと揶揄われそうだ。
バレンタインなんて習慣はこちらの世界にはないようだが、商品開発にかこつけてこっそりチョコレートを贈りたいと思ってしまったのが運の尽き。揃いも揃って何でこうも勘がいいのか…。
こうもあっさりバレるとは思っていなかった俺が居心地悪く思っていれば、オルテガの腕がするりと俺の腰に回る。
「ありがとう。俺が好きな酒を使ってくれているんだろう」
甘やかしモードに入ったオルテガに意地を張るのも馬鹿馬鹿しくなって頬を擦り寄せながら甘えてみた。美味しく食べてくれたのなら、それだけで俺の苦労も羞恥も報われるから。
「……口には合ったか?」
「美味い。甘さの加減も丁度いい、俺の好みの味だ」
「そうか。それなら良いんだ」
抱き締めてくれる腕の熱さに身を預けながら喜んでくれたなら良いかとオルテガに抱き付いた。