後輩による先輩情操教育()「やっぱもう今すぐ寝ましょう不戦敗で大丈夫ですはよ」
「いいの、ぷよぷよ」
「いーですいーです、また付き合ってください」
俺はベッドに向かう気満々で立ち上がったが、先輩はまだコントローラー片手にソファに座っている。
「ゲーム……」
先輩は若干不安そうというか、俺がさっきまでゲームしたいと割と本気で駄々をこねてたのに違うことを言い出したからか、どうするか迷ってるみたいにそう呟く。
あ、あ〜、俺得意のぷよぷよで思いっきり負かされたけど、あれだった、このひと今日メンタル終わってるんだった、やばいやばい一緒にゲームすんの楽しくて先輩と一緒に寝れるの嬉しくてテンション間違えた、ごめん先輩。あー、なんて言ったら納得してくれるかな、まあ、いいか、納得とかじゃなくて。
俺は立ったままソファに座る先輩の頭を抱きしめた。そうしてから、先輩の前にしゃがみこんで、先輩の顔を覗き込む。
「いま急に眠くなりました、はよ寝ましょ」
先輩はまだ迷ってるような顔をしていたが、両手を握って立ち上がって引っ張ったら大人しく立ち上がってくれた。
「よし。じゃ〜着替え……」
俺は先輩の服の入ってる引き出しに向かい、勝手に開けて、先輩がよくパジャマにしているジャージとTシャツを漁る。
「先輩半袖でいいですか?」
振り返って尋ねると、棒立ちの先輩の頭がこくんと上下する。俺はいそいそと先輩の元に戻り、「お着替えお着替え〜」と、小さい子にするみたいに冗談ぽくそう言いながらワイシャツのボタンを外していく。
「茅ヶ崎」
「はい」
俺は少しだけ上にある彼の顔を見上げる。
「ごめんな」
先輩に、こういう申し訳なさそうな顔、できるだけさせたくないけど、むずかしい。
「なんにも」
俺はすぐにそう返す。そしたら、おもっきり抱きしめられた。
ぐえ。
先輩、力つよ。さっきまでぼーっとしてたじゃないですか。
ほんとは、謝らないでくださいって言いたいけど、それもまた先輩にとっては辛いかもしれないと思うと、なんにもいえない。でも、俺は謝られるのが辛い。先輩悪くないもん。多分。知らんけど。いつか、謝らないでいいんですよって、間違えずに伝えることができるだろうか。
千景さんに、自分が謝らなくていいと思える日が来るだろうか。来てほしいな。来るといいな。俺はその日くらいまではこの人のそばにいたい。
■
俺は着替え終わった先輩と手を繋いで歯を磨きに洗面所に向かう。俺はもう4時間くらい前に磨いたけど、一緒に向かう。
先輩が鏡に向かって歯ブラシを動かしている間も、彼の左手を握っておいた。
■
「先輩の布団で寝ていいですか」
「うん」
「やった〜」
俺は先に梯子をのぼり、あとから上がってくる先輩を上掛けをめくって待ち構える。
はい、おかえりなさい、ここでゆっくり休んでほしい、休めたらいいな。
先輩はゆっくりはしごをのぼってきて、ゆっくり俺の隣に潜り込んで、ゆっくり俺のくちびるを少しだけ喰むような口づけをした。
「……おまえになんて言えばいいかいつもわからない」
小さな小さな声。
俺はその声を聞き届けてから、先輩に触れるだけのキスを返す。
「先輩だいすき。また明日も一緒に寝ましょうね。おやすみなさい」
先輩は眉毛を少しだけ寄せて、ちょっと困った顔をした。でもちょっと嬉しそう。こういう顔はいっぱいしてほしい。
「……茅ヶ崎、すきだよ、うれしい、ありがとう、……おやすみ」
………………………
………………………は!?
ここまで素直な先輩レアすぎる!めちゃくちゃかわいい!!録音しとけばよかった!!!!!!すきだよ、ってなに!?無理なんだけど!無理すぎるさすがに尊い無理なんだけど!!と叫びたかったが、さすがに我慢した。でもニヤつくのは我慢でき、できるわけがない。
「……顔がうるさい」
冷たく笑った先輩にデコをはたかれて、ああ、いつもの先輩だ。はたかれて、俺はまたニヤつくのだった。
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