甘味の味見 美味しそうに焼き菓子を頬張るヴィエラをアルバートは眺めていた。クリスタリウムの住民の頼まれごとに快く協力し、その中でお礼にどうぞ、と渡されたものだった。
「美味そうに食うな」
丁寧に淹れられた紅茶と共に大切に焼き菓子を味わっていた彼女に声をかけると一度深く頷かれた。慌てたように口内のものを咀嚼し飲み込もうとする彼女にゆっくり食べてくれたらいい、と掌を見せてアルバートは笑いかける。再度頷き返した彼女が紅茶を一口飲んで満足げに溜息を吐いた。
「好きなんだよねぇ」
こういうお菓子。幸せそうに頬を緩めて歌うようにヴィエラは言った。あぁ、と頷いてアルバートは返す。
「女子はそういうの好きだからな」
そうそう、と頷いて彼女は続ける。
「特にこういうのが好きなんだよね」
こういうの。彼女の指につままれた香ばしいバターの風味を纏った焼き菓子に彼は視線を落とした。彼の視線に気付いた彼女がお菓子を彼の方に差し出してくる。苦笑して首を振った彼に彼女が首を傾げた。
「俺はこの世界のものには干渉できないからな」
気にせず食べてくれ、と笑いかけてきた彼と焼き菓子を交互に見ていた彼女が口を開く。
「……私に干渉できるなら、こうしたらいけるんじゃない?」
アルバートの口元に更に焼き菓子を近付けてくる。差し出された焼き菓子は彼の口元を虚しくすり抜けただけだった。ダメかぁ、と肩を落としたヴィエラにいいから気にせず食べればいい、と彼は笑いかける。彼の促しに渋々応じるように指先の焼き菓子を口に運んだ彼女が残念そうに呟く。
「……でも美味しいのって共有したくなるでしょ?」
一緒に食べた方が美味しいとかさ。かつての仲間と酒を酌み交わした時を思い出したのか、彼が感慨深そうに頷いた。その様子を見てでしょ?と顔を上げた彼女に彼が近付く。
「まぁ、味なら確認できないことはないか」
呟くや否や彼女の顎に手を添え、いただきます、とその唇に自身の唇を重ねた。