無粋と香水 部屋に戻ってきたヴィエラが疲れたようにベッドに倒れこんだ。お疲れさん、と姿を現したアルバートに疲れたぁ、と布団に顔を埋めたままくぐもった声で返す。
「罪食い多すぎ……」
「仕方ないだろう」
ぼやいた彼女に彼が短く返すとうー、と何かを訴えるように呻いた。ベッドに歩み寄り、腕を組んで彼女を見下ろす。
「ほら、飯でも食え。腹が減ってはなんとやらだ」
わかってるぅ、と呟いた彼女がのろのろと起き上がる。と、その首元にアルバートが顔を埋めた。形容し難い声を漏らして後ずさった彼女に彼は無邪気に尋ねる。
「香水か?」
花の匂いがする、と首を傾げたアルバートに一瞬の間を置いてヴィエラは頷く。
「花だけじゃないけど……」
指を折りながら彼女が香水に含まれている植物の名を挙げていくが、幾つかピンとこないようで彼は更に首を傾げた。その様子を見てゆっくりと立ち上がった彼女が室内のドレッサーに近付く。しばらくそこを探っていた彼女がこれこれ、と綺麗な小瓶を手に彼の元へ向かって歩み寄った。ゆらゆらと彼女の手の中で揺れる瓶をなるほど、と眺めていた彼の前で、彼女は自身の手首に数回香水を吹き付ける。強く広がった香りに一瞬顔をしかめた彼があぁ、と小さく呟いた。
「この匂いだ」
「でしょ?」
嬉しそうに微笑んだ彼女が吹き付けた香りを和らげるように緩く掌で周囲を扇ぐ。優雅なその所作に広がった香りが調和しており、彼は目を細めた。
「いい匂いだな」
香りって言ってよ、と唇を尖らせたヴィエラは更にアルバートに近付き、彼の手を取る。袖を少したくし上げ露出した彼の手首に自身の手首を擦り付けていった。何をしているのか見当もつかない彼が眉を潜めていると、手元から目を離さないまま彼女がお裾分け、と小さく呟いた。
「手首とか服とかにつけて楽しむものなんだよ」
伏し目がちだと尚更長く感じる彼女の白い睫毛を見つめながら楽しそうだなと思う。できた、と嬉しそうな彼女の手を離れた自身の手首を鼻先に近付けると、彼女と同じ香りが漂った。
「……いいもんだな」
手首に残された彼女の香りと温度を噛み締めるようにアルバートが呟くと、ヴィエラは一層嬉しそうに微笑んだ。