戦士「……始めたのか」
見てみて!と嬉しそうに斧を構えるヴィエラにアルバートは溜息混じりに呟いた。弾むように頷いた彼女のレベルを確認し、結構頑張ってきたな、と感心する。
「慣れてきたか?」
「全然!」
間髪入れず無邪気な笑顔と共に返された彼女の言葉に頭を押さえた。察しが良いとは言い難いアルバートでも、彼女が次に放つ言葉の予想はついた。
「教えるっつってもなぁ……」
広大なノルブラントの一角で斧を振るうヴィエラを見守りながらアルバートが呟いた。
「敵が出たらぐわっと殴って敵視を取って、死なないように味方を守るだけだぞ?」
「簡単に言う……」
敵の向きとか難しいじゃん、と唇を尖らせた彼女によくそこまでレベルを上げられたな、と揶揄うような口調で彼が笑う。
「まぁ、信頼できる回復役が居てこそ為せるものではあるがな」
「それはわかる」
即答した彼女に苦笑する。
「敵に殴られ続けて死にそうになってると不安になってくるもん」
慣れてる友人が回復役の時の安心感ったらないよね、と腕を組んで呟いたヴィエラに深く頷いて同意する。と、先ほどの彼女の発言を受けたアルバートが口を開く。
「詠唱を止めたりしてるんだろうな?」
一度瞬きしてから首を振った彼女に、再度苦笑してそうかと彼が呟く。
「インタージェクトって、使ったことあるか?」
ぶんぶんと激しく首を振って答えた彼女にだろうな、と笑いかけた。
「敵の攻撃を中断できる技なんだが、わりと便利だぞ」
敵の技にもよるが、と添えられた一言に、彼女があからさまに唇を尖らせる。
「そんなのわかんないじゃん」
不満げに呟いたヴィエラに俺も説明が得意な方ではないんだがな、とアルバートが苦笑する。
「その辺の見極めはまぁ……戦っていく内にわかるようになるだろ」
習うより慣れろだ、と拳を握るアルバートに脳筋、と彼女が笑う。
しばらく戦士の立ち回りなどを練習している内に彼女がふと思い出したように、さっきのだけど、と尋ねてくる。
「スタンさせればいいんじゃないの?」
「あー……」
それなぁ、と彼は後頭部を掻いた。聞かれると思った、と言わんばかりの表情を浮かべ腕を組む。
「確かに阻止できるっちゃできるが……スタンは耐性がつくんだよな」
その辺の使い分けが大変なんだよなぁとぼやきながらもアルバートが説明してくれる。が、専門外のヴィエラは腑に落ちないように首を傾げつつ頷くしかできなかった。わかったか?と確認してきた彼に答えようと彼女が口を開く。と、その瞬間彼が唇を重ねてきた。完全に不意打ちだったため困惑しながら押し返そうとする彼女の腕を掴み、アルバートは彼女を木に押し付けるように彼女を堪能する。彼と木に挟まれる形で逃げることも出来ない彼女が酸素を求める瞬間を逃さず、更に深く口付けた。
「……こんな風に相手の動きを予想してそれを阻止する感じだ」
満足したのか離れたアルバートにもたれかかるヴィエラの顔を覗き込み、わかったか?と再度確認を取る。涙目で呻いていた彼女は小さく馬鹿、と返すしかできなかった。