『a piece of glass』「マシロのやつ……一体どこに行ったんだ」
MV撮影のため海外を訪れたルビレは現在無人島でサバイバルの真っ最中だ。どうしてそうなってしまったのかは割愛するが、今は救助を待つしかない状態なので各々開き直ってこの無人島生活を楽しんでいる。アカネさんとハイジは連れ立ってダイビング中、巌原さんは何やらPCと睨めっこしており、マシロは迷子で見当たらない。一体どこにいったのかと海岸沿いを歩いていると、洞窟から随分離れた砂浜で見慣れたふわふわ頭がしゃがみ込んでいるのが目に入った。白い肌が日差しを跳ね返して光っている。このまま晒し続けていればいずれ赤くなってしまうと、無防備な背中目掛けてパーカーを投げつけた。
「肌を露出したままでいると酷い日焼けになるぞ。明日泣くことになっても知らないからな」
「わ、クロノお兄ちゃんやさしー」
「いちいち茶化すな。……で、こんな所で一体何をしていた」
「これ拾ってた」
差し出された手のひらの中で青や緑、白といった大小様々なシーグラスが光っている。ガラス片が幾度も波に揉まれることで角が取れ、磨り硝子のようになると以前に聞いたことがある。普段のマシロを見る限りそういった収集癖があるようには思えなかったが、俺が知らないだけで密かにコレクションしているのだろうか。
「趣味なのか?」
「まさか」
「じゃあどうして」
「この様子じゃショッピングしてる時間もなさそうだし」
「……だから?」
少し逡巡したマシロは"何か形に残る思い出がほしい"と呟いた。
「思い出って……また来ればいいことだろう」
「そーだけど。今回の思い出は今回でしかつくれねーだろ?」
「それはまぁ…確かに」
パーカーを袖に通して再びしゃがみ込んだマシロを目で追う。すでに左手はカラフルな宝石でいっぱいになっており、少しの拍子でバラバラと零れ落ちてしまいそうだ。まるで一生懸命ドングリを拾う子供のようだと口に出せばまた口論のキッカケになりそうなことを考える。
「さっきから赤のシーグラス探してんだけど全然見つかんなくてさぁ」
「赤色が欲しいのか?」
「ルビレのバンドカラーだからね」
無自覚だったのだろう。そこまで言い切って"しまった"という顔をした。
「ッ……笑うことないだろ!」
「いや、すまない…ふふっ」
「だから笑うなって!!」
随分前。Chained to Youの音合わせを二人でした時のことを思い出した。
マシロとしては初めて零したつもりだったのだろうその本音は、俺にとってはとっくにわかりきっていた事実で……今更そんなことを言うのかとその時も思わず笑ってしまった。決して馬鹿にしたわけではない。ルビレのサウンドにハマっていることなど隣で音を聞いていれば簡単にわかることなのに、当人のマシロ自身がそれに気づいていないことが可笑しかったのだ。
俺とてルビレのベーシストに相応しくないと思えば早々に叩き出している。素行について口煩く言うのはメンバーとして、音を預けるギタリストとして、マシロのベースでなければダメだと痛感している証だ。誰にも代えはきかない。
「落としたら大変だ。とりあえずこれに入れておけ」
「お、サンキュー。ガラス瓶なんてよく見つけたね」
「ここに来る途中に落ちていた。拾っておいて正解だったな」
その後も目を皿のようにして探し続け、日が落ちる頃になってようやく一粒の赤いシーグラスを見つけた。それはとても小さかったけれど今まで拾ったどのシーグラスよりも丸みを帯びていて、宝石のように美しかった。
「なにそれ」
「シーグラスです。無人島で拾いました」
「ふーん。マシロと?」
「はい。……あ」
「へぇ?」
「……ニヤニヤしないでください」