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    大上満

    @OogamiMitiru

    主にワンライの短編小説置き場です。
    風化雪月のリンレトリンを中心に置いています。最近エコーズのパイルカにはまりそちらも少し追加しました。幅広く様々なカプを好むのでそれ以外のカプ(百合も含めて)を書く可能性もあります。

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    大上満

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    6月10日リンレトお題『小雨のなかで』で参加させていただきました。
    紅花ルートです。
    学生リンハルトとベレトの話です。

    #リンレト
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    小雨のなかで(先生、今日も出てこないや……)

    ベレトの部屋の前を通りがかったリンハルトは一度立ち止まり、外側から中の様子を窺う。
    あいかわらず天気はぐずついて、灰白の雲がほとほとと竪琴の弦の色をした小雨を落としている。かろうじて目に映るくらいの細かなそれはリンハルトの制服をほんのりと濡らして、音も無く地上に吸い込まれていく。あの日……ジェラルトが亡くなった日も雨であり、濡れた地面の臭いはおのずと墓地の湿った土の記憶を呼び覚ました。

     ほんの数日前の事である。黒鷲(クラスメイト)の女生徒モニカに刺されジェラルトはその命を落としたのだ。最強と呼び声高い傭兵団の団長としてはあっけない最後だった。
     葬儀を済ませた後、ベレトはふさぎ込み部屋にひきこもった。大司教レアもベレトを気遣い彼が落ち着くまでの間、無期限の休暇を与えることとした。

    (やっぱり何か声をかけるべきなのかな?)

     しかし悲しみに打ちひしがれるベレトになんと言葉をかけて良いものかリンハルトにはわからない。人の死を悼むのは苦手であるし、彼の気持ちに上手く寄り添ってあげることができそうにない。下手な慰めを口にするよりはと、自分にできることを探して謎の組織の手がかりや情報を調べていた。
     長い髪の表面が湿り気を帯びて、リンハルトははっとする。思ったより長い時間ベレトの部屋の近くに止(とど)まっていたようだ。傍らに抱えていた本も濡れ始めている。
     そろそろ行かなくてはと重い足を動かしはじめると、きいっと蝶番が軋む音がして扉が開き部屋の主が顔を出した。

    「先生……」

     のそりと出てきたベレトとリンハルトの目が合う。ベレトは憔悴からか、顔色が悪く足取りも少しおぼつかなかった。不謹慎かもしれないが、それでも数日ぶりに先生の姿を見られてリンハルトは少し嬉しかった。
     
    「リンハルト……」

     ベレトは陰に籠もった目でリンハルトをじっと見つめている。あまりよく眠れていないのだろう、ベレトの目の下には隈ができていた。
    リンハルトはさて何を話そうかと考え、迷ったあげく彼にしてはもの凄く平凡かつ無難な言葉を選んだ。

    「今日も雨ですね」
    「うん……」

     それ以上会話が続かない。ベレトはリンハルトを見つめたまま押し黙っている。しかし立ち去らないところをみると、対話を避けているわけではなさそうだった。そのためリンハルトは重ねてこう尋ねた。

    「どこかへお出かけですか?」
    「食堂まで水を取りに。少し喉が乾いたので……」

     そう言って、何歩か進んだ途端に草むらでよろめいたのでリンハルトは慌てて駆け寄る。

    「先生、大丈夫ですか?」

     ベレトを支え、とりあえず肩を貸して彼の部屋へ戻りベッドへ座らせる。その間脈をはかったり瞼の裏側を見たりする。皮膚の状態から若干脱水の症状が見てとれるが、それ以外は特に異常はなかった。やはりまだ心労が強いのだろう。

    「僕、飲み物をもらってきますから先生はここで待っていてくださいね」

     リンハルトはベレトへ声をかけてから、一旦その場を離れた。


     それからしばらくしてリンハルトは茶器一式を抱えて食堂から戻ってきた。食堂の料理番に事情を話したところ、茶器を貸し出すとともに山盛りのクッキーも添えてくれた。ちなみに茶葉のほうは偶々食堂に居合わせたフェルディナントに押し付けられたものである。精神を安定させる効果があるものらしい。何故かラベンダーの束もお盆に乗っているのはベルナデッタからである。ラベンダーの芳香を嗅ぐと眠りが深くなるらしい。

     リンハルトがテーブルに並べられた品について一つ一つ説明するとベレトはゆっくりと紅茶を口に含み、味わってからしみじみと話す。

    「……そうか、自分は皆に心配をかけてしまっているな」
    「そりゃあそうですよ。みんなあなたが好きですからね。ペトラは先生に滋養のあるものを食べさせたいからと狩りに出ましたし、ドロテアはあなたの快気を祈る歌をうたっています。カスパルは『気晴らしに手合わせがしたくなったらいつでもつきあう』と言ってました。エーデルガルトとヒューベルトもあれからジェラルトを殺した犯人をずっと追っているみたいです」

     花瓶に差したラベンダーを眺め、ベレトは口元に微笑を浮かべる。みな個性的で我が強いところはあるが、とてもよい子達である。それを思うと自分の現状が不甲斐なくなるが、どうしても今は動く気力が沸かなかった。
     リンハルトがベレトの表情から考えを読み取って言う。

    「あっ先生、今『みんなのためにも早く立ち直らなきゃ』って思いませんでしたか?良くないですよそういうの。そりゃあ先生のいない授業は退屈ですし、僕としても早く出てきてほしいですけどね。でも無理を押してまで職場復帰する必要なんてこれっぽっちもありませんからね。休めるうちは休んどいたほうがいいと思います。休養は大事ですよ」

     おそらく生徒の中でも過労とは最も遠いリンハルトはベレトにそう説いた。

    「先生が本当にもう平気だって思えてから、出てくればいいんですよ。そのほうが後に引かなくていいんじゃないかと思います。僕にはピンときませんけど、喪に服す期間というのはそのために設けられているものでしょうからね」

     リンハルトらしい気遣いにベレトの口元がまた緩む。紅茶のカップを飲み干すとことりとテーブルに置き、ベレトのすぐ隣に腰掛けているリンハルトにそっと肩を寄せた。

    「ありがとうリンハルト」

     肩と肩が軽くふれあうくらいのほんのわずかな接触だったが、リンハルトは嬉しくなり横にいるベレトにふわりと頭をもたせかける。リンハルトの長い髪がベレトの体にかかり、花の洗髪料(シャボン)の匂いが香った。
     ベレトは一瞬驚いた顔になるが避けようとはせず、リンハルトがしなだれかかるにまかせていた。

    「こういう時は甘えてもいいんですよ先生。いつでも肩くらい貸しますよ」

     ベレトの肩に頬をすり寄せ、リンハルトは至近から上目遣いに甘く微笑む。

    「……ねえ先生、抱きしめてもいいですか?」
    「そっ…それは……」

     狼狽した表情をみせるベレトにリンハルトは静かに言う。

    「なんだか今の先生はとても寂しそうに見えるので、抱きしめたくなりました。それくらいなら今の僕でも許されるんじゃないかと思って……それも『まだ早い』でしょうか?」

     女神の塔でのベレトとのやりとりを思い返しながらリンハルトは言う。先生の体を好きにする権利はまだもらっていないけれど、親愛の抱擁を交わすくらいの仲ではあるとリンハルトは自負している。
     リンハルトに迫られたベレトは動揺のあまりひどくぎこちない答えを返す。

    「それは……早く…はない」

     ぼそりと呟くとリンハルトはにこりと笑って立ちあがり、ベレトの体を両腕で包み込む。そして母親が子供にするように優しく背中を擦った。少しでもベレトの心の傷が早く癒えるようにと慈愛をこめて。いつものように好奇心や下心が入り交じったそれではなく、純粋な慰撫の意味で。
     もっとリンハルトが大人になれば、もしかしたら別の慰め方が許されるのかもしれないが、今はこれが精一杯である。
     弱り切ったベレトは穏やかな接触に心を溶かされ、リンハルトの華奢な体を抱きしめ返す。人肌のぬくもりがベレトの喪失の痛みをやわらげていく。

     それから鬱々とした小雨が止み、空に虹がかかるまで二人はずっと抱き合っていた。






     

      

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    大上満

    DONEリンレト版お題「忘れた頃に」で参加させていただきました。
    あまり内容とは関係ありませんが翠風ルートです。
    ショートショート。
    忘れた頃に温室をふらりと訪れたベレトは赤いくす玉状の花の前で佇むリンハルトと行きあった。
    屋台で売られている棒付きの飴のようにぴょこぴょこと地面から突き出ている可憐な花々をベレトも横から見つめながら聞く。

    「この花が好きなのか?」

    幾つもの小さな紅い花が一塊に集結して玉房(たまぶさ)を成している。うろ覚えだが品種名はアルメリアと言ったか。視線を花からベレトへ移してリンハルトは言う。

    「いえ特別好きってほどでもないんですけどね。旅に出る前にカスパルが置いていった種が育って今頃開花したんですよ。それでちょっとその時のことを思い出して」

     時期はずれに咲いた花がリンハルトの中に眠っていた記憶を刺激した。
    あれは確かカスパルが旅に出る直前の事だった。道ばたで露天を開いていた老婆がごろつきに難癖をつけられて商品を奪い取られそうになっていたところを偶然通りがかったカスパルがぶちのめして助けたらしい。その時に礼としてもらったのがこの種だと言っていた。だが当のカスパルにとってはありがた迷惑だったようで……。
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