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    いちろ。

    @ichiro1107_1

    赤安。
    書いてるのはわりと暗めが多いかも。

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    POIPOI 17

    いちろ。

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    夢の中の登場人物
    ・ライバボ(純組織しゅ×ハムれいくん)
    現実の登場人物
    ・「僕」:元店員、現在「大家さん」の元で療養中。
    ・大家さん:「僕」が働く店の常連。医師らしい。療養が必要な「僕」を自宅に住まわせている。

    #ライバボ
    mother-in-law
    #赤安
    #沖安
    okinawa

    夢に焦がれた小夜啼鳥は。④(完)「この家で殺人事件、ですか?」

    「はい。大家さんなら何かご存じないですか?多分、そんな昔の話ではないと思うんですけど」

    夢の中で発射された銃弾の痕跡が現実で見つかった。
    つまり、あれは全て実際に起こっていた出来事で、ライもバーボンも実在しているということになる。
    そして、ライが死んだという事実も。死体が発見されたならニュースに取り上げられている可能性も考えた。が、銃殺した遺体を事故死に偽装するとなると手間がかかる。手っ取り早いのは何処かの山林にでも埋めるか海に捨てるかして失踪という形に収めることだ。
    バーボンなら、どうするか。恐らく彼なら、組織を欺くために下手に発見されるリスクを背負って遺体を遺棄するよりその時が来るまで自分の目が届く場所に留めておくだろう。そう考えると、この家の何処かに死体を埋めたという線が一番濃厚だ。

    彼らは以前会話の中でこの家をセーフハウスと呼んでいたことから、ここが組織の持ち物であったはず。もしも今もそうだとしたら大家さんがそちら側の人間という可能性もある。または、敢えてカモフラージュのために何も知らない一般人を管理人として置いているということも勿論考えられるし、既にこの家を売り払った後ということもありえた。
    けれど幾ら仮説を並べたところで検証しなければ机上の空論だ。どんな結果が出るにせよ調べておくに越したことはない。白であれば良し、黒であれば危険だが上手く探れば夢の続きを今度は僕自身の目で見ることができる。
     
    そう考えた僕は夜、大家さんの部屋を訪ねていた。
    僕を快く自室に招き入れてくれた彼に促されるままソファに腰を下ろすと、大家さんが湯気が立ち上るマグカップを手渡してくれた。中身はホットミルクだ。最近あまり眠れていないことは知られていたから、きっと気を遣って寝つきがいいものを用意してくれたのだと思う。この人には心配をかけっぱなしだ。その上、僕は大家さんが反社会的な連中との繋がりがあるのではとまで疑っている。

    「さあ……、この家を買ったのは2年ほど前のことですが、不動産からも特にそういった話は聞いていませんね」

    「そう、ですか……」

    まあ、この人の立場なら真偽がどうであれそういうしかないか。
    罪悪感を抱きつつ真っ白な水面に口をつけてみると、まろやかな風味の中でほんのり甘みが広がった。これは砂糖だろうか。いや、少し粘り気があるようだから蜂蜜か?

    「しかし何故、この家で殺人事件があったと?貴方のことだ。なにか確証を得ているんでしょう。あの部屋に何があったんですか?」

    飲み込むとゆっくりと喉を下りていく牛乳の感覚を覚えながら、大家さんからの問いかけには思わずうつむいてしまった。今までずっとはぐらかしてきた話をどこまですべきだろうか。

    「実は、僕、この家に寝泊まりするようになってから、奇妙な夢を見るようになりまして」

    「ホォー、奇妙な夢、ですか。それは気になりますね。夢の詳細を伺っても?」

    迷った末、僕は大家さんに今まで見ていた夢の内容について全て話すことにした。
    繰り返し登場するバーボンとライ。
    最初は反発していた二人がだんだんと距離を縮めていっていたこと。
    二人がセーフハウスと称して主に生活していたのが、この家の僕が寝泊まりしているあの部屋だということ。
    そして、その部屋でライに裏切りがばれたバーボンが、ライを銃殺したこと。

    ゆっくりと時間をかけて言葉を選びながら話し終わるころにはマグカップの中身は空になっていた。
    僕の話にずっと黙って耳を傾けていた大家さんは左手を顎に添えて何やら思案している様子だ。思考をなぞるように顎の輪郭に沿わせた親指を行き来させている。

    「話をまとめると、今まで夢の中の登場人物だと思っていた彼らが実在すると確信したあなたは、事件後のバーボンの足取りを追うためにまずは死んだライを探したい、と」

    「はい。だからできれば大家さんにもご協力願えないかと思いまして」

    「大変興味の惹かれる話ではありますがお断りします。そしてあなたにもこれ以上、その組織とやらに深入りをするのはやめていただきますよ。謎を前に解かずにはいられないあなたの性質も重々承知しています。ですが、主治医としてもあなたを危険に晒すわけにはいきませんからね」

    きっぱりと首を横に振られたあと、至極ごもっともな意見を返されてしまった。今後の捜査までしにくくなったことを思うと、彼に助力を頼んだのは失敗だった。こんなことなら適当なところにぼかしを入れておくべきだったかもしれないな。そう後悔し始めていた時だった。

    「それより、今の話を聞いていて一つ気になったことがあるんですが」

    大家さんの纏う空気にぴりりと緊張が走った。

    「なんでしょう?」

    「あなたは先ほど、バーボンがライを銃殺したと言いましたが、本当にその男は死んだのでしょうか」

    「え……、それは、勿論そのはずです。至近距離で撃たれていましたし、出血の量もすごかったので」

    予想外の指摘にどきりとしつつ、その時の光景を思い出してうなずいて見せる。

    「だからといって断言するのは早計なのでは?バーボンはその時、ライが本当に死亡したのか確認したわけではないんでしょう?なにせ彼もまたライを撃った直後に意識を手放しているんですから」

    確かに、その通りではある。が、

    「まさかそんな……、では大家さんはライがあの時死んでいなかったと言うんですか?」

    一面の血だまりはとめどなく広がり続けていた。あのまま放置していたら間違いなく絶命は免れないはずだ。だが、僅かにもたげた疑念から、ありえない、という言葉は発することができなかった。彼が言わんとしている言葉の先に背筋が凍る。

    「ここからは、例え話として聞いてください。もしもライが撃たれたときまだ生きていて、バーボンが気絶した後に意識を取り戻していたとしたら、そのあとどうなったと思います?」

    「もしライが生きていたとしたら、ライは、バーボンを……?」

    じゃあ、バーボンはもう、死んでいる?
    僕の中に芽生えた疑問にすかさず大家さんが首を横に振ってみせた。

    「それはありえない。だってライは”お前の命までは奪わない”と言ったでしょう?だったらバーボンは生きていますよ。間違いなくね」

    「何故そう断言できるんです?やっぱりあなた、……ッ?」

    まるでライ本人であるかのような口ぶりだ。強烈な違和感を覚えた僕は、大家さんに詰め寄ろうとして立ち上がる。しかしその瞬間、視界が揺れ、気が付くと僕はソファーに倒れこんでいた。なんだこれ、体が動かない……?

    「やっと効いてきたみたいですね。お遊びはこれくらいにしてあなたの安眠のためにもそろそろ答え合わせといきましょうか。知りたがっていた真実をお教えしますよ。嬉しいでしょう?ねえ、安室さん」

    「は…?ど、ういう、ことだ……」

    「そうですね、まずはあなたのことからお話しましょうか。あなたの本名は降谷零。つまりあなたが探していたバーボンという男はあなた自身だったんですよ」

    弧を描いた唇が饒舌に語る話は俄かに信じられないものだった。突然のことに、思考が止まる。

    「どうです?思い出せました?」

    「僕がバーボン?……そんな、っ……そんな馬鹿な、だって僕は、」

    「喫茶店の店員兼私立探偵の安室透、ですか。それが本当のあなただと?名前は元より偽名ですし、その職歴も組織潜入後に用意されたものです」

    「あり、えない……、」

    「ふふ、ここまで聞いてもまだ思い出せませんか。だいぶ暗示が深くまで入るようになってきていますね。嬉しいですよ降谷さん」

    さっきから、この人は何を言ってるんだ。バーボンが僕だとか、僕の名前が降谷零だとか。その上暗示がなんだって?もう訳が分からない。ああクソ、この状況をなんとかしなきゃいけないのに、睡魔がすぐそこまで迫っている。瞼を持ち上げるだけで精いっぱいで、考えがまとまらない。頭が、重い。

    「さて、次は僕について話しましょうか、ってもういよいよ限界のようですね」

    ぼやけていく視界の先で、大家さんの──沖矢さんの声が響いている。

    「残念ですが、タイムアウトです。また『夢に潜る時間』になりましたよ、安室さん」

    「ゆめに、……もぐる……──」

    その言葉を聞いた途端、僕の身体からすとんと意識が抜け落ちる。ふわふわと、宙に浮いたような心地が気持ちよくて、僕は目を細めた。

    「せっかくなので、このまま確認しましょうか。安室さん、あなたの今の状況を教えてください」

    このまま眠ってしまいたいと思っていたけど、沖矢さんに聞かれたことにはきちんと答えなきゃ。だってこの人の言うことに逆らってはいけないから。だから、僕は言われたとおりに口を開いた。

    「僕は…、今、沖矢さんに、自分が降谷零であることを、忘れるよう洗脳されています……」

    「続けて」

    「今の僕は、安室透で、……職場、の、人間関係……に悩んで、て……、それで、精神科医で、……職場の常連だった、沖矢さん、に相談……して、ご自宅に、療養として……住まわせて、もらっている……と思い込んで、います……」

    「では、なぜ僕に催眠をかけられることになったんでしたっけ」

    「そ、れは……、」

    「それは?」

    「僕が、ライの思いを、拒絶、したから……、です……」

    「それはなぜ?あなたも彼のことは好いていたでしょう」

    「だって……、ぼくは、公安、だから……はんざいしゃ、とは……つきあえ、ない」

    なんでだろう、胸の奥が、とっても痛い。うまく言葉が紡げない僕に、沖矢さんが、短く舌打ちをした。

    「やはりまだ、そこは壊せないか。わかりました。いいですか安室さん。これから僕の言うことを復唱してください」

    「沖矢さんの言うことを……復唱します……」

    「あなたはここに来てからのことを忘れます。バーボンのことも、ライのことも、自分自身のこともです」

    「僕は、ここに来てからのことを……忘れる……バーボン、のことも、…ライ、の、ことも……僕、自身、のこと、も…忘れ、ます……」

    本当に、それでいいのか?でも、沖矢さんがそう言ってる。沖矢さんの言うことは絶対だから、忘れなきゃ。いや、だめだ、ちがう。せっかく思い出したのに。僕はもう、忘れたくなんか──

    「ああ、またかかりが悪くなってきていますね。安室さん、僕の声を聞いていると、だんだん気持ちよくなってきます。あなたは僕の命令に従うことでさらに多幸感を味わうことができます。だからあなたは僕に従いたい……そうですね?」

    「ッ……はぃ、……沖矢さん、の声を聞いていると……気持ちがいぃ……、です……沖矢さんに…、…従いたい…、です……」

    沖矢さんの言葉を復唱する度、胸の中に、じんわりとあたたかな感情がこみ上げてくる。気持ちがいい……。そうだった。沖矢さんに従うことが、僕の幸せだったじゃないか。どうして忘れていたんだろう。

    「だからあなたは何も考える必要はありません。安心して僕に身をゆだねていてください」

    「僕はなにも考えません……沖矢さんに…すべて、ゆだねます……」


    いつの間にか、目の前まで来ていた沖矢さんの手が、優しく僕の頭を撫でた。僕はそれが嬉しくて、ゆっくりと目を閉じる。

    「そう。それでいいんです。あなたのわだかまりが消えるその日まで、何度だってやり直してあげますから。だから今は眠っていてください」

    沖矢さんのその言葉を最後に、僕の意識はぶつりと途切れた──。

    「……おやすみなさい、降谷さん」






















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    いちろ。

    DONE夢の中の登場人物
    ・ライバボ(純組織しゅ×ハムれいくん)
    現実の登場人物
    ・「僕」:元店員、現在「大家さん」の元で療養中。
    ・大家さん:「僕」が働く店の常連。医師らしい。療養が必要な「僕」を自宅に住まわせている。
    夢に焦がれた小夜啼鳥は。③バーボンがライを殺した。夢から跳ね起きた僕は今までにないくらい背中がびっしょりと濡れていて、僕の体は恐怖でしばらく震えが止まらなかった。バーボンが浴びた返り血の感触が残っているのも恐ろしかったが、何より恐怖したのは拳銃を発砲した時の反動が寝起きのはずの僕の手にしっかりと残っていることだった。

    「夢、なんだよな……?」

    誰かに肯定してほしくて寝起きのかすれた声で呟いてみる。当然その問いに答えてくれる人間はいなかった。実在する部屋を舞台にした夢の中の殺人事件。あの時撃っていなければ、バーボンがどうなっていたかわからない。ライの言葉を信じるとすれば命までは奪わないと言っていたが、どんなに特殊な関係を築いていたとしてもあいつは組織側の人間だ。裏切られ拷問されていた可能性もあったと考えると、バーボンの判断は正しかったと思う。彼はあの後どうしたんだろうか。古巣に戻ったのだろうか。それとも、そのままライの死を偽装して潜入を続けたのだろうか。 
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