深海ペンギンの見る夢1ぐっすり寝てたいうのに、隣室が壁蹴るもんだから目が覚めて。おい、穴空くぞ。隣室、先週から陸慣らしに揚がってきてる新入生の双子。手足長すぎて余ってるんだろ、寝相改善しろ、ここは海ん中じゃねぇ。
明日起きたら言ってやる考えながら寝返りを打ったらまた一撃。
「なんだ、」
同室のヤツも起きたらしく唸ってる。
「リーチのどっちかだろ」
まだ咄嗟に区別がつかないが、手足をもて余してそうなのはデカいほうか。
「寝相にしてはキツくないか」
「えぇ~」
お互いベッドにかじりついて、もそもそ言ってる間にヒィヒィ高めの声まで聞こえてくる、ほんと壁薄いな。
おまえら、さっき寝たばっかりじゃねぇのか、夜行性なおせ…まぁ、俺らが世話役だからね、後輩になるかもしれない陸揚げされたばっかりの稚魚の様子を見に行かないとね、あくびを隠さず隣室の扉をノック、するところで先に開いた。
「おぉ、」
グーで当たらなくてよかった、当たっても胸だけど、向こうもキョトンとしつつ、
「助けてください」
素直に言えてえらいね、えーと、敬語だから、デカいほうのリーチ、
「ジェイド?」
「えぇ、」
暴れてるのお前じゃなかったのね、
「どった」
となると叫んでるはちっちゃいほうフロイドか(とはいえオレよりデカい)
「わかりません、やっと寝たと思ったら、いきなり叫んで飛び起きて叫んで呪いでしょうか」
おちつけ、ベッドのうえで悶えてる兄弟に寄りつつ、
「フロイド、」
言う間にも兄弟に向けて差し出した手を弾かれては最早オロオロしてるのが丸出しで。大人びてんなーと思ってたけど、年相応なところもあるのね、未知の身体だもんね。にしても、もう呪われる覚えがあんのかお前ら、待て、なにやった。
「ヒレ、ヒレいたっ、」
息も絶え絶えに訴えてるから、あーと思い当たる。
「脚ツッてんね」
「え、は?釣る?とは?」
「おい、この脚掴まえろ」
暴れる脚を捕らえようとしたところで、鋭い蹴りに変わって、間一髪で足首掴んで止める、あぶねぇ、リーチのリーチ半端無さすぎ、
「フロイド、痛いの、どっち」
いやこれ、両方か、
「フロイドになにするんですか、」
「治療」
オレの掌より大きな脚の裏を鷲掴んで指を反らしてやる。
「いっ!ふざけっ!!」
すかさず回転して飛んでくるもう一方はいつの間にか入ってきた同級が受け止めた、もうそんな使いこなして器用かよ。
「あんがと」
二人に足首から引っ張られて、フロイドは腰まで浮いてるから大人しくシーツ掴んでる、それをジェイドが背を撫でてやってて双子って甲斐甲斐しいな。
「脚の筋肉痙攣してんだよ、陸に揚がった人魚はだいたいなるから」
ぐーっとあらためて押し込んでやったあたりで、フロイドの眉間の皺も弛んだのが見えた。目尻に涙まで溜めちゃって、ぜぇぜぇしてるから、相当キツかったんだろう、初めてだしね。
「まぁ、時間たてばだいたい治ることだし、もちろん呪いでもねぇよ」
足首まわしつつふくらはぎもさすってやる。
「疲れたまんま寝るとなりやすいから、しばらくはマッサージして、あと水分ちゃんと取ろうな」
おつかれさん、ぺしぺし叩いてやって、仕組みの詳しい説明ほしけりゃ、明日にして、俺はまだ眠い。
「あ、ありがとうございます」
「ん、あ、あと、眠れないなら、こうやって親指から順繰りに引っ張ってやると効くときあるぞ」
赤ん坊の寝かしつけ方だけど、とは言わずフロイドの脚を下ろして実演してみせる。大騒ぎしていた本人はそんなこと知らない風で「はぁ…」と息を吐くジェイドの腰にいつのまにか絡んで寝息を立ててる、さすがに早ぇだろ稚魚ちゃん、先輩笑っちゃう。
「ふふ、ほんとうですね」
吊り目を思い切り下げてフロイドの髪をすくジェイドに
「じゃあ、お前も早く寝ろよ~」
「はい、お騒がせしてしまいました、おやすみなさい」
翌日、ふくらはぎのストレッチ説明してる俺の尻尾をなにもなかったようにニヤニヤ2人で撫でさすりやがった。
そのあと?
誰だよ、アイツにパルクール教えたヤツ。
俺でーす。
水中最凶ヤローがさらにデカくなってしかも陸でも飛び跳ねるなんてただの兵器だろ。
フロイド、お前、せめて夜に上から降ってくるのやめろ。
脚滑らしたら危ないだろ。