おしゃべりの窓　驚いたアディティーアは叫んだの。ファレナ様、そんなお顔でいらしたんですねって。あたしの部屋まで聞こえた。そしたら、みんなに聞こえたってことよ。見て。あたしじゃなくって、この窓の向こう。あっちが獅子宮。象を千頭並べられるくらい離れてるのに、聞こえたからね。妃殿下の唄い鳥、最高でしょ。ファレナ様の黒塗りが取れた知らせにぴったり。でも、うまくなかったのよね。結局そうなの。うちって国は。あなた知らない？ ファレナ様の黒塗りは太陽の祝福だった説。太陽を直視すること能わざるがごとく説。神官たちはその理屈でファレナ様を天高く持ち上げてきた。ま、色を理由にできる時代じゃないし、お元気ならそれでいいじゃない。黒塗りが取れたっていいじゃない。廃嫡は大げさ過ぎ。ダーシャカマーンも心配していた。アディティーアのお姉さんよ。あの子、責任感じてるんだって。妃殿下とチェカ様も閉じ込められてる。
　その窓からは色んな話が聞こえてくる。明日の夜明けまでに黒塗りが戻らなければ、廃嫡を受け入れるか、太陽に祝福を求めるか。うちの国って、そうなの。魔法使いの代わりに大きな虫がいる。そいつは太陽が本当は大嫌いなんだ。焼けた石を抱く祝福の儀式なんて、でたらめよ。黒焦げと黒塗りの区別もついてやしない。へえ、あなたも聞こえた？ チェカ様の即位式は三の月、藍の日がいいんだって。廃嫡でも黒焦げでも、小さな王様の踏み台に使えるってわけか。虫食いだらけじゃどうせすぐに壊れそう。
　え？ ファレナ様の黒塗りは、弟君がお生まれの日から始まったのかって？ それを聞いてどうするの！ ファレナ様は黒塗り、弟君は黒獅子、黒塗りのファレナ様も黒獅子。オーケー？ 黒塗りが取れたファレナ様はピンチ。妃殿下もチェカ様も崖っぷち。あなたもだよ。兵士が探している声が聞こえる。雪風の沖に捨てられたはずの魔法使い。黒砂の君。隠し通路はクローゼットの真下を三枚はがしたら出てくるっておばあちゃんが言ってた。恩を売りに行ってきな！