結局クレさんを愛でたいだけの話(👕)「ちょっと、ふふ、ウミ。笑ったら失礼ですよ」
「そういう、ひ、イーグルだって、笑ってるじゃない」
体育館の壁にもたれながら、イーグルと海は互いの脇腹を肘でつつきあった。
不運が重なった結果だった。
3,4限を通して行われる学年合同の球技大会のその直前。
校舎を出て、体育館へ移動する途中のことだった。
他学年の生徒がふざけて三階のベランダから落としたボールが、海の歩く真横の水たまりに落下した。
ボールは着水し泥水を跳ね上げる。
真白な体育服は、完全に茶色に染まった。
海は一跳ねの泥を受けることもなく無事だ。
代わりに、この世の泥のすべて請け負ったのが、クレフだった。
生徒は青ざめ逃げ出していく。予鈴が鳴る。追う余裕はない。
「他のクラスの人に貸してもらいに行きましょ!」
薄紫色の髪の毛をタオルで拭きながら海は言った。
〝学年〟合同の球技大会ということを忘れるほどに慌てている。
体育服を借りられる他学年の知人―思い当たりは数人いるが……
クレフが考えている時、二人の元にイーグルとジェオが駆けてきた。
クレフが事情を話すと―というかその泥だらけの様をみれば話すまでもないが―
イーグルが上目遣いにジェオを見た。
「貸してあげたらどうですか」の顔だ。
見れば、ジェオは肩の上に何着かの体育服を重ねて持っていた。
「ジェオって、代謝がよすぎるので汗をかいた時のためにこうして何着も用意しているんですよ」
と、本人の代わりにイーグルはどこか自慢げに説明をした。
ほら見てくださいよ、この筋肉。燃費が悪そうでしょう。
半袖の体育服から覗く隆々とした腕をつつき、イーグルが嬉しそうに笑った。
本鈴が鳴るまで、あと何分もない。
サイズの違いにいささかの不安を感じるが背に腹は代えられない。
クレフはジェオたちの提案を丁重に受け入れた。
想定はしていたが想定外だった。
160cmが182cmの人間の服を着ればどうなるか。
からかう勇気のある者はクレフの元を訪れ彼の服の裾をつまむ。そうでないものは遠目にキャイキャイとはしゃいでいる。
まるでパパの服を着せられた子供のようなクレフの装いに、クラスメイト達は各々の方法でその風貌を愛でた。
第一試合が始まってから数分が経った。
こちら側のコートでは、バスケットゴールのネット裏に引っかかってしまったボールを、ジェオが別のボールを投げつけて救出しているところだった。
無事、二つのボールがコートに落ち、まるで点が入った時のような喜びようでハイタッチを交わしている。そこだけが、まるで男子校のようだった。
ふとあちらのコートを見れば、クレフはクレフで吹っ切れたのか、からかわれた怒りを原動力に点を稼ぎまくっている。
「今のクレフとは当たりたくないですねえ」
第二試合の対戦表をチラリと見た後、笑いを堪えきれない様子でイーグルが言った。
海もうなずく。けれどその表情は、先ほど笑みを浮かべていた時は少し違う。
幸い手持ちのハーフパンツが余っていたので、下にはそれを穿かせた。
ウェストのサイズがばれる懸念があったけれど、クレフは自分を守って泥まみれになったのだからそんなことも言っていられなかった。
ジェオの巨大な体育服によってハーフパンツはほとんど隠され、激しい運動によって裾がめくれるたびに白い太ももが見え隠れする。
海は、鼻血めいたものが出そうになるのを堪え、ひとまずはクレフたちの試合を見守った。
End
🎵生足魅惑のどうしさま~🎵