金碧珠の地のはてでワンドロお題 水
金碧珠の地のはてで
波紋を立てる水面を見つめる。
ダンデの瞳からしょっぱい水が転がり落ちる度に波紋が立ちその度に、水面に映るダンデの姿がゆらゆらと揺れる。
本当ならば今日はキバナと二人でキャンプを楽しんでいるはずだったのに、今のダンデはひとりぼっちでキバ湖を見つめていた。
また一つころりと落ちた水が波紋を立てる。
すんと鼻をならし先週の出来事を思い出す。
きっかけは些細なことだった。
お互いに仕事が忙しかったり、生活のリズムが乱れ小さなイライラがたまっていた。
普段なら気にならないことが気にさわり、顔を合わせれば言い合いが続いた。
そしてついに先週の土曜日、久しぶりに重なったオフの日その日は朝から言い合いが始まった。
「なんでお前はいつもいつも、飲み終わった後のカップを片さないんだよ!」
「だから、今片付けようと思ってたって言ってるだろ?!」
「そういっていつも俺様が片してるじゃんか!!だいたいいつもお前は、何かにつけて後回しにしすぎなんだよ!家で俺様がどれだけフォローしてやってるか知らねぇだろ!!!」
「別に頼んでないじゃないか!きみは細かい事をいちいち気にし過ぎなんだ!そのカップも今から自分で洗うから渡せ!」
そういってダンデはキバナの持つカップに手を伸ばせばキバナはダンデからカップを遠ざけた。ダンデはキバナのその態度に更に苛立ち無理やりカップを奪おうとした。
「っちょ、お前危な」
その時キバナの手からカップが滑り落ち床に叩きつけられくだけ散った。
「っあ‥……すまない」
そういってダンデが慌ててカップに手を伸ばそうとすれば
「お前はさわんな!!!!!!」
とキバナがダンデに鋭い声をあげた。
二人でお揃いでかったカップの片割れはみるも無惨な姿になっておりキバナは無表情でそれを片付け始める。
「っあの、ごめ‥……」
「いいよべつに。」
キバナの返事にダンデホット息をつこうとしたとき
「言葉だけの謝罪ならいらねーし。」
と言った。キバナのその言葉にダンデ
ぴしりと固まる。
「ち、ちが、あの」
震えそうになる唇を必死に動かし言葉を出そうとするが、なかなか声が出ない。
キバナはそんなダンデを見上げため息を付き立ち上がる。
ダンデを、見つめるキバナの瞳はゾッとするほど冷たくダンデは、もう言葉を発っせなくなる。
「お前っていつもそうだよな。都合悪くなりゃ黙り込んで。察してちゃんやってりゃ、楽でいいよな。」
唇を噛み締めうつむいたダンデを見下ろし
キバナは冷たく言いはなった。
「もう、俺様お前に付き合えないわ。別れよう。お前と俺様バトル以外のテンポもこだわりもあわなさすきる。」
キバナの言葉にダンデは絶望した表情の顔を上げ家を出ていこうとするキバナの腕をつかむ。
キバナは、口をはくはくと動かし何かを言おうとするダンデを見つめたが、ダンデの口から言葉が出てくることはなかった。
そんなダンデにため息を一つつきダンデの腕を振り払うと
「荷物はまた取りに来るわ。じゃあな」
といいがしゃんと割れたカップをゴミ箱に投げ入れ出ていってしまった。
一人取り残されたダンデはヒュッ、ヒュッと過換気を起こしながらゴミ箱に捨てられたカップの欠片に、手を伸ばす。
砕けた欠片を握り締めた掌から血か流れたが構わず更に強く握り締める。破片の刺さった掌が、振り払われた腕が、心がじくじく傷んで涙が溢れる。
酸素を吸いすぎた頭がグラグラと揺れ、座ってすらいられない。
ゴトンと頭を床に打ち付け倒れ込んだダンデは血塗れの手で胸をかきむしる。
「ッキバ‥……‥……キバナ‥……かな、で‥……」
ヒュッ‥……ヒュ‥……と荒い自分の呼吸を聴きながらダンデは意識を手放した。
ダンデが目を覚ました頃には掌からの血は渇き、
瘡蓋を床にぬぐいつけるようにしながら起き上がる。外は既に暗くなっており、部屋のなかは真っ暗だった。
冷たい床の上で膝を抱えダンデはまたひとりぼっちで涙を流し続けたのだった。
次の日、何度もキバナに、謝罪のメッセージをおくり、何度も電話をしたが、既読もつかなければ、電話が繋がることもなかった。
バトルタワーの会議でキバナを見かけ、話しかけようとしてもダンデが話しかける前にキバナは姿を隠してしまう。
家に帰ればキバナのいない冷たい真っ暗な部屋がダンデを飲み込む。部屋の明かりをつけないまま携帯食料をかじりゴミ箱にゴミを捨てる。
キバナが出ていってから一度も水を流していないシンクはからからに渇き、リビングの机にはいびつに張り合わされたカップとまだはり合わせてない欠片がおかれたままになっている。
シャワーを浴び、机の上のカップの欠片を慎重にボンドで張り合わせたあと、ダンデは泣きながらキバナの残したパーカーを抱き締め眠りについた。
キバナが去ってからもうすぐ一週間が立つ。
机の上には、いびつに歪んではいるが、なんとかはり合わせたカップ、床にはゴミ箱に収まらなくなった携帯食料とプロテインバーのゴミが床に転がっている。それを一つ一つ広いゴミ箱に押し込んだ後ダンデは壁にかかったカレンダーを見上げた。
カレンダーの今日の日付にはキバナの字ででキャンプ!!と書いてある。
「あぁ、もう一週間経ってしまったのか……」
本当なら今ごろキバナとキャンプをしながらバトルをしたり、夜には二人で抱き合いながら眠りにつくはずだったのに今のダンデはひとりぼっちで、いまだにおかれたままのキバナの荷物と、洋服に残ったキバナの香りだけにすがって今日までを過ごしていた。
仕事も休み、予定もなくなってしまった今ひとりぼっちの冷たいこの部屋にいることが耐えられなくなったダンデはリザードンの入ったボールと、キャンプ用品、キバナのパーカーを持ってワイルドエリアに向かった。
ワイルドエリアに着いたダンデは、一人キバ湖の畔にテントを張った後ひたすらキバ湖を眺めていた。
キラキラと光る水面を覗き込めばみっともない顔をしたダンデの顔が映り込む。
一つダンデの瞳からころりとしょっぱい水が落ち波紋が立つ。
一つ落ちてしまえば堰を切ったように瞳から無限に水が溢れ落ちる
すんと鼻をならしたダンデの頭を埋め尽くすのはキバナの笑顔と、ひとりぼっちの寂しさ、それから後悔ばかりで、掌に残った傷跡がじくりと傷んだ。
なんでいつも俺は肝心な時に声が出なくなってしまうのだろう、なんでキバナみたいに的確な言葉を発せないのか。
キバナが言っていたことは何も間違っていなかった。キバナがダンデの取りこぼした家事や色んな物をフォローしてくれていたのには気づいていたし、いつものキバナが笑いながら仕方ないなぁと許してくれるのに甘えきっていた。
別に自分で出来ないわけじゃないのに自分を甘やかし笑いかけるキバナの瞳が暖かくて、優しくて大好きだで、それが見たいがためにわざとキバナにわがままを言ったこともあるぐらいだった。
でも、もしキバナが許してくれてダンデの元に帰ってきてくれるなら、もう二度とわがままは言わないし、キバナの言う通り家事は後回しなんかにしない。だから、だから……
「別れるなんて言わないで…ずっと俺のそばにいてくれキバナ………」涙とともにこぼれた呟きは
すっかり暗くなったワイルドエリアに静かに消えていった。
ダンデ以外誰もいないワイルドエリアには風の音と、ポケモン達の鳴き声や息遣いだけが響いている。空を見上げれば沢山の星達がダンデを見下ろしている。
「キバナに見せたいなぁ」
空を見上げたダンデは少しずつ少しずつ重たくなる瞼をなんとか開き脇においていたバックからキバナのパーカーを取り出し抱きしめる。
その時パシュという音とともにボールからリザードンが飛び出す。
「リザードン?どうしたんだ」
クルルルと、小さく喉をならしながらダンデに頭を擦り寄せるリザードンの鼻先を撫でればまるでダンデを、包み込むかのように寄り添ってくる。
「……慰めてくれるのか?」
ダンデの言葉に同意するようにフスッと鼻をならしたリザードンはまるで揺らめく炎のように美しい碧の瞳でダンデを見つめる。
「リザードンの目は‥……キバナに似た色をしてるな‥………………キバナ‥……会いたいなぁ‥……寂しいなぁ‥……」
そういってうつらうつらと槽をこぎ始めたダンデに寄り添いながらリザードンはまた鼻先を擦り寄せ、ペロリとダンデの濡れた頬を嘗めた。
やがてダンデがすぅ、すぅと寝息をたて始めたを見届けてからリザードンも眠りについた。
ダンデと、喧嘩をした。
そればかりか、「別れよう」だなんて心にもない事を言いはなってしまった。
震える唇で何かを伝えようとしたダンデの瞳はグラグラと揺れ、頬からは血の気が引いていた。
思わず大丈夫か?と言う言葉がこぼれ落ちそうになるが今ダンデにこんな顔をさせているのは間違いなく自分で、少しずつ、少しずつ冷静になっていく頭で先ほどの自分の言動を思い出せば、思い出すほど先ほどの自分を殺してしまいたくなる。
言葉は一度出してしまえば、もうなかったことには出来ない。だから、キバナはダンデの腕を振り払らい部屋を後にした。
久しぶりにナックルシティにある自宅に帰ったキバナはがらんとした部屋の壁に背を預けながら座り込む。
ダンデの家で過ごすことが多くなってから自分の荷物を少しずつ少しずつ持ち運び、今ではキバナの自宅には家具以外ほとんどなにもない。
ほこりが少し積もった床に手をつけば自分の大きな手の跡が残る。
「ほこりが積もるくらい帰ってなかったんだな……」
ため息を一つ。おまけに、別れたくないなぁ‥……と弱音も一つこぼしたキバナは長い自分の足を折り畳み抱き締め額を膝に押し当てる。
カップが片してなかっただけであんなに怒る必要なんて全くなかったのに、仕事が忙しかったから、睡眠のリズムが狂いイライラしていたから、言い訳を言い始めれば後悔と共にいくらでも出てくるが今となってはもう遅い。
「泣いてないかな‥……」
一緒にあの家で過ごし始めた時はダンデが自分にだけ見せる油断した姿や、ダンデのわがままを仕方ないなぁと笑って聞いてやれば嬉しそうにはにかむその顔がかわいいと思っていたのに。
きっとダンデは今ひとりぼっちであの部屋にいるのだろう。泣いてるかもしれないし、怒ってキバナの荷物をゴミ袋に放り込んでるかも知れない。でも今のキバナにはそれを確かめる術なんてなかった。
次の日一睡も出来ないままスマホのボタンを押せば充電がなくなっており、真っ暗な画面に死にそうな顔の自分が映り込んでいる。
「ひっでー面‥……」
こんな顔ダンデには見せられないそう思いながらキバナは洗面台へとふらふらと向かう
「今日は確か会議があったな‥……」
今ダンデに会うのはなんとなく気が引ける。
いっそのことバックレてしまおうかなんて思ってはみたもののダンデの様子が気になって仕方ないキバナは嫌々ながらバトルタワーへと向かっていった。
会議中チラチラとダンデの様子を見れば瞳は赤く、髪は少しパサついていた。
普段はキバナが洗い、丁寧にブラッシングしながら渇かしているからサラサラふわふわなのに。
休憩中は、睡眠不足のせいで良くない体調を隠すため人気のないところへすぐさま向かい。
そんなキバナをダンデが何度も引き留めようとしていたのをキバナは気づけないままだった。
自宅に帰ればほこりっぽい空気がキバナを包み込み
更に気分が悪くなる。それを紛らわすためにシンクの蛇口をひねり勢い良く水を出す。
水に直接口を近づけゴッ,ゴッ,と喉をならしながら飲み込む。顎を伝って、胸元を濡らす水を洋服でぬぐい買ってきたサラダをモソモソと口に運ぶ。一人ぼっちの食事はこんなに味気ないものだったのか……
「ダンデはちゃんとご飯たべてるかな‥……」
ちゃんと寝てるかな、泣いてないかな、寂しがってないかな‥……そんなことを考えながら食事を終えシャワーを浴びた後キバナは一人寝室へと向かっていった。
キバナがダンデの家を出てから一週間。
すっかりきれいに掃除を終えた部屋には、ほこりは一つもないが、結局荷物は取りにいけないままのため相変わらず家具以外の荷物がほとんどない。
「いい加減荷物取りに行かないとな‥……」
そう呟いたものの、なかなか足は動かずのろのろと身支度を整える。
たっぷりと時間をかけて準備を整えれば時間は昼を過ぎていて、ゆっくりゆっくり歩きながらキバナはダンデの家へと向かい始めた。
キバナがダンデの家についたのは少し日が傾いたところで、あちこち寄り道をしながら集めたダンデの好きなものを腕に握り締めながらドアノブ触れる。
ガチと音がして鍵がかかっていることに気づきポケットの中の合鍵を取り出す。
ガチャンと鍵を開け家の中にはいれば、誰の気配もない暗い室内がキバナを迎えた。
パチンと部屋の電気をつけ目に飛び込んできた光景にキバナは目を見開く
カサカサに渇いたシンクに床のゴミ箱には収まりきらない携帯食料とプロテインバーの包み、そのしたに血がにじんだタオルが見える。
そして一際、瞳を釘付けにしたのはテーブルの上のいびつにではあるが張り付けられたカップだった。
あの日ダンデが、割り、キバナがゴミ箱に投げ入れたはずのカップがいびつにではあるがもとの形にはり合わされていた。
キバナが震える指でカップの縁をなぞればがたがたと歪んだ感触がする。
周りを見渡しダンデの姿を探すがリビングには間違いなくキバナ一人しかいない、浴室にも、少し乱れたウォークインクローゼットにも、ダンデ姿はない。
最後に寝室荷足を運べば、ベットの上に散らばった自分の服が見えた。しわくちゃになったそれを一つ一つ拾い集めれば自分の服なのにダンデの香りがした。
きっとダンデはひとりぼっちで、眠るのが寂しくて寂しくてたまらなくてキバナの服をクローゼットから引っ張り出し抱き締めて眠ったのだろう。
「……っごめん、ごめんダンデ‥」
ダンデの香りがする自分の服を強く抱き締め、キバナは何度も何度も謝る。
怒ってごめん、一人にしてごめん、さみしい思いをさせてごめん、謝って謝って、謝り続けてもキバナが許してほしい相手はここにはいない。
探さなくては、ダンデを見つけて直接謝らなくては、しかし今ダンデがどこにいるのかなんて全く見当がつかない。
ダンデが行くところ‥…………どこだろう。
わからない、せっかくのオフなのに、本当ならば今ごろダンデとキャンプを楽しんでいたはずなのに今のキバナは一人でここにはいないダンデを探してる。
会いたい、会いたいダンデにあいたい‥……
それだけが頭を埋めつくしキバナの鼓動を早くする
ダンデ‥……ダンデ!ダンデ!!
どこにいるんだ、全部の部屋を探し周りもう一度カップのおいてあるリビングに戻ってきたキバナは途方にくれながらふと目にはいった壁のカレンダーを凝視する。今日の日付には自分の字でキャンプ!!とかいてある。
ハッとした表情になったキバナは急いでダンデの家を飛び出し、腰のホルダーからフライゴンの入ったボールを取り出す。
「休んでるとこ、ごめんフライゴン。俺様をダンデのところにつれていってくれ」
その言葉に答えるようにボールから飛び出したフライゴンにキバナは飛び乗り
「ワイルドエリアまで、お前の全力で飛んでくれ」
と言った。シュートシティのダンデの家から、ワイルドエリアまで、キバナのフライゴンなら普通の時でも、あっという間につくだろう。しかし今は1分1秒でも早くダンデにあいたかった。
フライゴンが空を見上げ羽を羽ばたかせる。リィンという美しい羽音と共にふわりとした浮遊感に包まれ星が輝く夜空にキバナは飛び立った。
どこだ?どこにいる……上空から日の落ちたワイルドエリアでダンデを探すのは簡単ではなくキバナはフライゴンの背から飛び降り地上で走り回りダンデを探していた。
空が少しずつ白み始めた頃エンジンシティのキバ湖の畔に、近づいた時キバナがいる畔と反対側の畔に揺らめく炎の見つけた。
目を凝らせばそれはリザードンのしっぽの炎でキバナは急いで自分の上空を飛ぶフライゴンを呼び寄せ反対側の畔に降り立てば、ダンデを抱き締めるように寄り添うリザードンがいた。
キバナが一歩近づけばリザードンがパチパチと口から焔を溢しながらキバナを威嚇した。
フライゴンがキバナを庇うように前に出ようとするがそれを手で押さえるとキバナは地面に膝をついてリザードンを見つめた
良く似た色の瞳でお互いを見つめれば、リザードンはフスッと鼻をならし焔を納める。
「ありがとう」
キバナがそういってリザードンに手を伸ばせば素直に目を閉じキバナに鼻先を差し出した。
差し出された鼻先を軽く撫でればクルルルと、小さく喉をならしそのあと、フィっと首を動かしダンデの頬に鼻先を押し当てる2.3回それを繰り返せばふるりとダンデの目蓋が震え、ゆっくりと瞳が開かれた。
「っん‥……リザードン?どうしたんだ‥……!!!‥…え、なんでキバナが…?」
そういってダンデが急いで逃げ出そうとすればリザードンがそれを阻むようにダンデの服の裾を咥えた。
「離せリザードン!怒るぜ!!!」
じたばたと暴れるダンデに近づき抱き締めればぴたりとダンデの動きが止まる。
「……っ離してくれ。」
「やだ。」
「離せ!!!」
「絶対離さない。」
「……今更なんなんだ。君と俺は別れただろ」
「別れてない」
そういったキバナの手にダンデは思い切り噛みつく。
「ってぇ」
自分を抱き締める腕が緩んだ瞬間腕の中から抜け出しキバナに向き合う。
「‥……君が、君が言ったんだ!!!別れようって!俺は、別れたくなんか‥……なか‥…たのに」
ばくばくと早鐘を打つ心臓を押さえるように洋服の胸元を押さえれば、とどめておけなかった涙が頬を濡らす。
「何回も、何回も電話もしたし、メッセージも送った!謝りたかったから!‥……っでも、でもキバナがそれを全部無視したんじゃないか!」
違う、違う言いたいことはこんなことじゃないのに、キバナが去った部屋で一人で過ごした日々の寂しさが、キバナの声を聞けなかった寂しさが、ぬくもりのないベットで独りキバナの服を抱き締めて泣きながら眠りについた寂しさが一気に吹き出て、こんなみっともない言い訳のような言葉ばかりが溢れてくる。
「別れてせいせいした!自分の好きなように過ごせるし、文句を言う人もいない。ベットだって一人で広々使えて快適だし‥…それに‥…それ…に‥………」
息を荒げながら言葉を続けようとすれば、キバナ優しい手がダンデの頭を撫でた。
「別れてせいせいしたなんて嘘つくなよ」
そういってキバナが手を伸ばしまたダンデを抱き締める。ダンデは抵抗を見せることなく腕の中に収まり目を閉じる。
「っ嘘じゃ‥ない‥……」
「嘘だろ‥…だってせいせいしてるならなんで…ベットに俺様の服を持ち込んでたの?なんであのカップを捨てずに、しかも一生懸命はり合わせてさ‥……」
「っ!!」
「なぁ、ダンデ………ごめん、本当にごめん、ひどいこと沢山いって、挙げ句の果てに別れたいなんていって‥……許してほしいなんて言う資格なんてないよな‥…でも、ごめん…ごめんなぁ‥……」
ダンデを抱き締めるキバナの腕の力が強まりダンデの髪にキバナが頬を寄せる。
ダンデはキバナの胸に耳を当てどくどくと脈打つキバナの心音を聞いていた。
どくん、どくん規則正しいその音を聞いている内に少しずつ落ち着きを取り戻したダンデはスリッとキバナの胸に頬を擦り寄せた
「‥……謝らなくちゃいけないのは‥俺の方なんだ。俺がキバナに甘えすぎたから、あの日ももっと一生懸命謝れば良かったのに、うまく言葉がでなくて‥……ごめん、ごめんなさい‥……」
キバナはダンデを抱き締めながら静かに言葉に耳を傾け時々しゃくり上げるダンデをなだめるように背中を撫でる
「毎日、毎日怖かったんだいつ君が荷物を取りに来てしまうか‥…既読のつかないメッセージにいつ拒絶の返信が来るのか…怖くて怖くて…君がいない部屋が寂しくて‥………ほ、となら君と今頃、キャンプを楽しんでるはずだった……のに、なんで、今ひとりぼっちなんだろうって‥…っ…」
そこまでいってダンデは子供のように泣きじゃくりはじめた。
「‥……そっか‥……そっかぁ‥…約束していたもんな、それなのにごめん。ひとりぼっちにして、寂しいおもいさせて、こんなに泣かせてごめん。どれだけ謝っても謝り足りないよ」
キバナの瞳からもころりと涙が落ちダンデの髪を濡らす
「ギバナ‥……キ……バナ‥…俺を、ひとりにしな‥で……別れたくない………別れるなん‥って言わないで‥……」
そういって背に回ったダンデの手がキバナの服を握り締める
「言わない、もう二度と言わない。ダンデが別れたいって言っても絶対に別れない。」
キバナの言葉にダンデが顔を上げキバナを見つめる。二人の視線が重なり交わり金と碧が混ざりあう。
「‥……本当に?本当に別れなくて良いのか?俺はずっとキバナの恋人でいられるのか?」
「ダンデが俺様を許してくれるのなら」
「許す、許すから‥……」
君の恋人でいさせてほしい。そう続けようとした口をキバナの口がふさぐ。
軽く押し当てられたそれはすぐに離れて行くがすぐさま2度、3度と繰り返しふれあう。
額を合わせ鼻先を擦り合わせどちらからともなくくすくすと笑いあう。
「なんで笑ってんだよダンデ」
「君こそ‥……」
「ダンデとまた恋人になれたのが嬉しくて」
「俺も」
そういってまた唇を重ねた二人を太陽の金と湖の碧が混じりあった金碧珠の水面が優しく見守っていた。