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    いかげそ

    推しに狂いがち

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    いかげそ

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    小説家相澤と子狸出君のほのぼの話。
    すみません完結していません;;続きは需要があれば…
    初めての小説状態なので読みにくいかと思います。

    スペシャルサンクス 添削・かるぱすさん、ネタに付き合ってくれた・優雨さん
    ありがとうございました!

    小説家のスローライフ~そばかす狸のおてつだい~ 「俺は田舎に行く」

    決定事項を伝えた俺に、担当の山田は呆けた顔をした。

    推理小説を書き続けて数年。アングラ系の雑誌でそこそこの評価を得ていた俺だが、最近スランプに陥ってしまった。
    「この、毎回淡々と事件解決するの、どうにかなんねぇかな…探偵の、刑事の行動があまりにも合理的すぎてつまんなくなってきてるぜ?」

    腐れ縁な担当からツッコミを入れられ、今まで書いた小説を読み返してみる。なるほど、自身の合理主義な部分が反映されている。そう認識してしまった途端、どんな文章を書いても合理的すぎる気がしてきた。だからと言って感情を込めてと考えれば考える程、俺の中で表現が死んでいき、淡々とした文章になっていった。所謂スランプである。
    これはまずい、気分転換が必要だと散歩に出たが都会は優しくなかった。無精髭にぼさぼさの頭で昼から夜まで徘徊したのが悪かったのか…久々の外で職質された。


    これは本格的にまずい状況を変える必要があると、俺は今住んでいるアパートを引き払い、殆ど人がいない山の集落に家を借りたのだ。都心から電車とバスを乗り継いで4時間、そこから車で二時間程の山奥だ。山田には苦労をかけるが貸しががあるので大丈夫だろう。

    「息子達のいる町へ引っ越すから家を管理してくれる人を探している老夫婦がいてね!大事にしてくれるなら価格安で貸してくれるそうだよ!菜園も手入れしてくれるなら助かるって!」

    田舎に移り住みたい旨を編集長の根津さんに伝えた所、丁度借り手を探していたらしい老夫婦と掛け合ってくれた。木造の大きな古民家と山菜が採れる裏山、そしてそこそこ広い菜園。写真で見せられたその場所は、遠い昔の暮らしをそのまま切り取った様で、想像していた田舎暮らしそのものだった。
    格安な上に破格の条件、気付けば俺は契約を終えていた。
    時々裏山から狸が来るけど放置して欲しというのも条件だった。なんだそれは…

    ただひとつ、妙な条件をつけられた。
    が、それはまた後で説明しよう…


    契約して数日後、俺は山奥の古民家で念願のスローライフを始めた。
    都会の喧噪も車の音も聞こえない、外を出歩いても職質されない。窓から見える山の景色と木々のざわめき、鳥の声。薙いだ心で紙にインクを滑らせていく。

    「作品の思考をガラッと変えてさ、違うジャンルに挑戦っていうのもいいんじゃないか?」

     そう、同時期に小説家としてデビューした白雲に言われ、それなら田舎のスローライフを題材にするかと描き始めたエッセイは、初めての経験が多いからか、スラスラと書くことが増えていった。

    田舎暮らしとはいえ、一応電気も通っているし水道もちゃんと引いてある。
    しかし俺は田舎暮らしを体験しようと、無謀にも土間にある竈や薪風呂に挑戦してしまった。
    結果は惨敗だ。
    井戸には手動ポンプがついているが、古い物で硬いレバーを何度も上下させなければいけない。何度も上下させてバケツに水を溜め、風呂釜まで水を運ぶ往復運動。これは風呂釜半分ほどで投げ出した。その後は薪用の木を運び薪にする。斧などは自由にしてくれていいとの事で、ありがたく使わせて貰ったのだが。なかなか上手く割れない。何度も振り下ろす内に全身に疲労が貯まり、ついにはその場に座り込んでしまった。まだ薪をくべて湯を沸かす段階にもいっていない事に絶望を覚えながら、暗くなり始めた空を見上げた。
    結局その日は風呂を沸かすだけて終わってしまった。夕飯はもう作る気もおきない。箱買いしておいた栄養補助ゼリーを一気に吸い込みその日は寝た。風呂は地獄の熱さで結局4回井戸まで往復した。
    翌日、今度こそ竈で飯を作ると挑戦するが、出来た物が炭の様な米だった。流石に泣いた。泣きながら山田にスローライフ関連のハウツー本を探せとメールした。

    そんな時、家を貸してくれた老夫婦が心配で様子を見に来てくれたのだが、俺の暮らしぶりを見てどう映ったのか、数日泊まって一通りの事をおしえると苦笑いしながら言ってくれた。地獄に仏だ。
    「昔と違って人もおらんから一人だと大変だぁ、無理せんでもええからなぁ」
    と、数日間基本的な事を教えて貰い、やっと俺の生活スタイルが確立した。電気との両立、ありがたい。
    あと本はもういらないと山田にメールしたら直後電話がかかってきたので無視した。


    さて、前置きが長くなったが…
    この家を借りる時に言われた妙な条件。

    「たまーに狸が裏山からおりてくっけど、ほっといてやってな。悪させんけん」

    たぬきだ。田舎の山のなかなら狸の一匹や二匹いてもおかしくは無い。もしや何か問題があるのかと疑ったが、ひょっこり現れた狸をみてその意味がわかった。

    縁側でくつろいでいる時に、その狸は裏山からやってきた。ふわふわとした尻尾を左右に振りながら、まだ子狸であろう狸はまっすぐに菜園に向かってきた。最初は腹を空かせて野菜を食べに来ているのかと思ったがそうでもない。畑に生えている雑草を抜いて、縁の下に収納してあるジョウロを引っ張り出していた。それは狸用のなのか、幼稚園児が使うような象の緑のジョウロだった。それに器用に井戸のポンプを使い水を溜め(俺より上手い)、先日植えた野菜の苗に慣れた手つきで水をやっている。

    …狸がだ。

    疲れが溜まっていて幻覚でも見ているのかと思ったがそうじゃない。最初にその様子を見た時は夢か現実か区別が付かず、呆然と眺めていた。あまりにも凝視していたからなのか、俺の視線に気付いたそいつはビクッと軽く跳ねた後、暫く視線を彷徨わせてからちらりとこちらへ視線を寄越してペコリと頭を下げた。
    そして丁寧にジョウロを元の位置になおしたかと思うと、凄い勢いで山へ駆けて行ってしまった。

    その日から俺はその子狸の動向を観察することにした。
    丸に近いようなずんぐりむっくりな体型と同じくらいのふかふかした大きな尻尾、狸ってこんなに尻尾デカかったか?全体的に緑がかっている体毛は触れば柔らかそうだ。目は大きく、よく見れば頬にそばかすのように見える模様がある。資料として持って来た図鑑と目の前で働く狸を見比べ首をかしげる。普通の狸と何かが違うのだが…観察していく内にどうでも良くなった。愛らしい見た目と行動にとにかく触りたいと言う欲求しかなくなっていた。

    しかしこの子狸、見た目に反してすばしっこいのか、全く触らせてくれないのだ。菜園の草むしりをしている時に、いつのまにか隣で草を抜いていた。驚かさない様に自然な動作で触ろうとしたら気付いたらしい。小さく跳ねたかと思うと慌てて距離を取り、まるでゴム鞠のような勢いで転がるよう跳ねてに逃げてしまった。薪割りに至っては縁の下からハラハラした表情で見つめてくるが出てこようとはせずじっとこちらを伺うだけだった。
    近くに来たり手伝ったりするのに、目が合えば小さく跳ね、近づこうとすれば途端に毛を膨らませて逃げてしまう。触りたいが全く隙をみせず、それが余計に欲求を駆り立ている。



    ただ、一度だけ触ったというか接触した事があった。土手に生えている山菜を探しながら歩いていたらいつの間にか土手の上を並んで歩いていた。俺が見ていた事に気付いた子狸は、いつものようにビクンと体を跳ねさせ山の藪へと頭から突っ込んで消えて行った。
    そんなに逃げなくてもいいだろうと、愚痴りながら何気なく小石をコツンと蹴った瞬間、何故か頭上の木がらメキッと嫌な音が聞こえて見上げた。いつの間に登ったのか、細い枝と共に何故か奴が落ちてきた。慌てて手を伸ばしキャッチしたが突然の重みでそのまま顔面でも受け止めてしまった。首に影響は無く痛みも無かったが、それよりも受け止めた子狸の毛が想像の数十倍もふかふかで、土と日向のいい匂いがした。このモフモフともっと堪能しようとしたが手に力を入れる前に素早く距離を取られてしまった。

    その一件かあってから、しばらくは狸は近くにも寄ってこなかった。
    ただ、立派な松茸が玄関に置いてあった。

    狸との距離を縮められない日々が続き、俺はもう触れ合う事は半ば諦めていた。
    言われた通り、放っておくのが一番いいのだろう。一度でもあの子狸を毛を堪能できたのた。それでいいじゃないか…いやよくないな。

    そんな事を思いながら今日は山で取れた山菜をおこわにしてみる。山菜とキノコの香りが香ばしい。山田がいたら騒ぎそうだなと、都会で奇声を上げながら激務をこなしている友人を考えていると、台所の窓から緑の物体が覗いていた。

    子狸だ。ヤツが窓から覗いている…

    匂いを嗅いでいるのか、半分目を閉じ、鼻をひくひくさせてうっとりとした顔で窓枠にしがみついていた。

    「おい…」

    声をかけるとこちらに気付いたのか、半分に閉じられた目をまん丸にして硬直してしまった。そんな狸を横目におひつの蓋を取る。うん、我ながら上出来だ。軽く混ぜて茶碗に一杯、おこわをよそう。
    少し冷まししながら窓の方を見ると、先程と同じポーズで固まっていて吹き出してしまった。
    大分熱が取れた状態のおこわを茶碗から外し、軽く湿らせた手で丸くにぎる。
    小ぶりのおにぎりを窓枠に置いてみた。
    狸は目の前にあるおこわおにぎりを見て、また俺を見る。

    「食べていいよ」

    軽く声をかけるとさっきまでまん丸だった目が、途端にキラキラと輝きだした。そんなに食べたかったのかと暫く様子を見る。窓枠によじよじと登り、ちょこんと座ったかと思うと嬉しそうに両手でおにぎりを持とうとした。しかし熱かったのか、きゅっ!と悲鳴の様な声を上げてひっくり返ってしまった。
    窓枠から落ちた狸に驚き勝手口から外にでると、大粒の涙を流してひんひん泣いていた。

    「おい、大丈夫か!?」

    声をかけるとますます涙を流して一点を見つめる。
    狸の視線の先には、泥まみれになったおにぎりがあった…
    「きゅ、きゅ…。」
    「なんだ…おにぎりが落ちたから泣いていたのか…」

    野生のくせに綺麗好きなのか、と不思議に思いながらももう一個おにぎりを作ってやる。
    今度は落としたり汚れたりしないようにと、皿に乗せて泣いている子狸の目の前に差し出した。
    きょとんとした表情でこちらを見る。目が真っ赤になっているが、涙は止まったようだ。

    「今度は気を付けて食べなさい」

    そう言えば、再びおにぎりに視線を移す。今度は軽く触りながら、恐る恐るてを伸ばしおにぎりをそっと持ち上げる。厚くなかったのか少しだけ尻尾を揺らした子狸は、また先程の様に目をキラキラさせて勢いよくおにぎりに齧りついた。途端目を見開きこちらを見る。おにぎりを口いっぱいに頬張りながら幸せそうにモグモグと咀嚼する子狸の表情の豊かさに、自然と俺の口元は緩くなった。

    「満足そうでなによりだね」

    少しは仲良くなれたかと、そう言いながら手を伸ばしたが
    それとこれとは話が違うらしい。口の周りに米粒を付けた子狸は一瞬で
    森の方へ消え、結局モフモフを堪能することは出来ずじまいだった。


    つづく
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