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    gobou_fox

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    gobou_fox

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    素直になった意地っ張りと、化けの皮を被った臆病で役にこだわる意地っ張りのプライドが溶けただけの話。
    B面ってやつです。カエデはこう考えてます!!
    アドソン君、ありがとね!

    B面「カエデの親友」 ネコイナリ・カエデは、アドソン・ブレイブの相棒だ。
     親友ではなく、あくまで相棒だ。
     趣味が近いわけでも、嗜好が近いわけでもない。
     部屋が同じということを知らない者からすれば、学内で一緒に居ること自体が奇異に見えるだろう。
     それでも、二人の間には信頼と互助という確かな絆があるのだ。
     
    「あれ? アドソン?」
     寮舎の前を通りかかったカエデは、視界の端に呆然と立ち尽くすアドソンを見つけた。
     今朝、デートだと意気揚々と出て行ったが、様子を見るとどうやら手酷くフラれたようだ。
     普段の言動から軽薄に見えるアドソンだが、実態は面倒見のいい男だ。
     たとえば、ひどい彼氏を持った女の子を助けるために、ちょっかいを出してその彼氏に殴られて怪我をしてきたり、息が詰まっていそうな真面目な生徒のガス抜きをしようとからかって怒られたり、お人好しで不器用な相棒なのだ。
     だから今日も、どんな余計なコトに首を突っ込んだのか気になって、いつものように軽口を叩きながら近づいていく、カエデの呼びかけに振り返ったアドソンは、いつもと違った深刻な様子で、
    「カエデ……」
     と、名前だけ呼んでくるのであった。
     冗談にしてはいつもと違う反応に、いつの間にこんなに演技が上手くなったのだろうかと、内心で舌を巻きながら、素知らぬ様子で「なに?」と応えると、アドソンはそっと近づいてきた。
     どうせいつものように不意打ちを狙う形でプロレス技を仕掛けてくるのだろうと身構えようとしたカエデは、アドソンの瞳の奥に見つけた感情に戸惑いを隠せなかった。
     間もなくして、肩に預けられた重みと、悲痛な独白にも似た吐露にカエデは言葉を失った。
     戸惑いに頭の中が真っ白になる。
     縋る手が、肩に押し付けられる顔が、アドソン・ブレイブが負ったダメージの深刻さを物語っていた。
     
     ネコイナリ・カエデから見た、アドソン・ブレイブは決して弱味を見せようとしない男だった。
     以前から胸の内に大きな問題を抱えているのは察していたが、それを聞き出すつもりもないし、アドソン自身も踏み込まれる事を望んでいないのを知っていた。
     それが暗黙の了解だった。
     陽気に、それでいて思慮深く、露悪的に振舞う不器用な男。
     それがアドソン・ブレイブだ。
     
     しかし、今、俺の目の前にいるアドソンにそんな要素は微塵もなかった。
     その様子はまるで、ここではないどこかで、ここにはいない誰かに、断罪とそして赦しを乞う罪人か、あるいは帰り道を失って今にも泣き出しそうな迷子のような、酷く不安定な有様だった。
     思考が凍結する。
     掛けるべき言葉が見つからない。
     いつものアドソン・ブレイブを立ち上がらせる言葉が見当たらない。
     パワーバランス…
     俺たち二人がずっと拘って、守り続けてきた天秤が頭をよぎる。
     どんなときも対等であろうと、胸を張っていられるように暗黙に置いた天秤。
     今ここで、お前に普通の言葉で手を差し出したら、その秤が傾いてしまうそんな気がした。
     
     ―崩れるのは怖いな…
     
     頭に一瞬浮かんだ思考に眉をひそめる。
     大事なのは、助け合うことを邪魔するパワーバランスなどという、ちっぽけな拘りではないだろう。
     信頼と互助、それこそが口にするまでもない暗黙の了解だ。
    「俺は………酷い奴だ………」
     今にも泣き出しそうなアドソンの言葉に、息が詰まりそうになる。
     いつの間にかお互いの間に張ってしまった薄い膜のような意地と、凝り固まってしまった幼稚なプライドを溶かしていく。
     何に戸惑う必要があるのだろうか、苦しむ友に掛ける言葉など決まっているだろう。
     単純なことだ、苦しいなら話してほしい、それでアドソンがラクになれるなら、俺が拘ったアドソン・ブレイブとネコイナリ・カエデに戻れなくなったとしても、肝心のお前がここで潰れてしまうよりはマシだ。
     だから俺はためらいを飲み込んで口を開く、
    『……話しなら、いくらでも聞いてやるけど?』
     そうだろ相棒、だからさ、ちょっとその荷物置いとけよ。
     
     
     
     背中にアドソンの手が回されているのが分かる。
    「………もう少しだけ……」
     そう言って抱きしめてくるアドソンは弱々しく、まるで幼い少年のようであった。
     抱えている物の全部ではないだろうが、今は余計なものを降ろせたのだろう。少しだけラクになったのか、張り詰めていたアドソンの気配が緩むのを感じる。
     その様子に安心して、胸につかえていた物がため息と共に抜けていく、
    『仕方がないなぁ』
     安堵と共に漏れた言葉は、アドソンに向けたのか、それとも自分に向けたのか、あるいはその両方か、俺にも分からない。
     アドソンを腕の中に受け入れ、その小さな背中を撫でる。
     俺を雨の日の友として、その傍らにいることを許してくれた信頼に応えるべく、俺は今少しの間、アドソン・ブレイブという役を、化けの皮を脱いだ親友を深く抱きしめた。
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