no title「深津さん、沢北さんがいらしてます」
内線から聞こえる女性の声が弾んでいるのがわかる。かつてNBAで名を馳せ、今も日本で現役選手として活躍している沢北栄治が来社するともなれば、社内は朝からちょっとしたお祭り騒ぎだ。チラチラと集まる視線が鬱陶しいが、すべてに気づいていないふりをして普段の自分を継続する。
「わかりました。すぐ行きます」
相手が誰だろうと、仕事は仕事。特に今回はプロジェクトリーダーを任されていることもあり、念入りに準備を重ねてきた。沢北選手(とあえて言うべきだろう)がモデルを務める我が社のスポーツウェアの、限定コラボデザイン発売に向けた重要な会議が始まる。
「全部オッケーです。それで進めてください」
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