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    SEENU

    @senusenun01

    妄想文や雑絵を載せて発散している

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    続き、6で終わらん気がしてきた~~~~~
    ※モブ注意

    タイトル未定3:ダウド

    彼が“紅い鯨” に着いたのは日が落ちて数時間経った頃だった。彼にはこのお祭り騒ぎの街でしか出来ない仕事が複数あったからだ。殺人や誰かを傷つける内容のものは何もなかったが、侵入と盗みの計画が数件あった。それらはあっけに取られるほど簡単だった。この日にシフトを入れられたガードにやる気はなく、裏口はメイドがお気に入りの労働者を引っ張り込むために常に開け放たれていた。その上彼のフーガの仮装のせいで、いつものように潜むことなく堂々と侵入できたのが幸いしていた。

    トーマスの用意した衣装を見た時、ダウドの顔は盛大に歪んだ。黒いベルベットの上下は体にぴったりとフィットする派手なもので、金のビーズや羽根が体側のラインを強調するように配置されている。そして道化を思わせる金のマスクだが、これはちゃんと彼の希望通り顔が全て隠れるものだった。色とりどりの大きな羽で覆われた帽子も、垂れ下がる羽の飾りが髪や首元を隠してくれている。

    “マントや大袈裟な飾りのない、動きやすいものを選びました。顔も隠れます。”

    忠実な部下はそう言ったが、柔らかい布が皮膚にぴったりと沿い、いかにも無防備でダウドはずっと落ち着かなかった。服の上からでも筋肉の動きが見え動作が予測しやすいし、急所を狙うのも簡単だろう。普段厚い革で全身を覆っていた彼は、刃も弾丸も簡単に通してしまう薄い装備にむず痒さしか感じなかった。

    辿り着いた紅い鯨は、想像と違っていた。外観は想像通りのダンウォールによくあるパブだが、店の正面ドアはきっちりと閉められていて、その前には捕鯨員の恰好(どちらも彼の部下ではなかったから、本物の捕鯨員の仮装だろう)をした屈強なガードが2人立ち塞がっていた。

    “店に入りたいんだが、”

    彼が言うと、二人はダウドの全身を横柄に眺め回した。武器や危険物のチェックだ。

    なるほど、ここには秘密があるらしい――、ダウドは何でもない風を装いながら瞳に虚無を召喚した。彼らは銃で武装しているし、ドアの側にある樽の後ろにはショットガンが隠されている。警戒するだけの何かがあるということだ。

    ダウドはすでに銃やナイフなどをまとめて近くの建物の屋上に隠してきていた。彼の最大の武器は左手にある。何かが起きても時間さえ止められれば、数回のトランスバーサルで隠した武器にたどり着けるだろう。

    “……通っていい、楽しむんだな。”

    右側の捕鯨員が無愛想に言い、左の捕鯨員がドアを開けた。ドアが開かれた途端に、中の熱気と音楽とが渦巻きダウドの鼓膜に突き刺さった。

    彼は簡単に肩と肩がぶつかる人並みを縫って進み、マスクのせいで狭くなった視界でざっと店内を見回した。タバコの煙で白っぽく映る中はほぼ満員で、右手にカウンターがあり、反対側にはテーブル席がいくつかとダンスのための空間がある。階段を上がった先のフロアは宿泊出来るようになっており、曲がった階段の下ではライオンのマスクの男達がギターを演奏していた。どこから見ても、この国の普遍的なパブの作りだ。

    ダウドは警戒しながらまずはカウンターに近付いた。情報収集には酒を味わっている無害な人間を装い、店員と話したり周りの会話に耳をすますのが手っ取り早い。

    “連れはいないのか?”

    同じように捕鯨員の衣装を身につけた店員にウイスキーを注文し、空いていた一番右端のスツールに腰掛けたダウドに隣の男が声をかけた。目だけを覆う黒いマスクをした男は大柄で、短い金色の髪と無精髭、そして太い腕と分厚い手を持っていた。爪が黒ずみ両手のひらの角質が厚くなっている所を見ると、重い荷か機械を扱う労働者だろうーーダウドはあたりをつけ、無難な言葉を選んだ。

    “飲む相手を探しているんだ。”

    彼は酒を好まないが飲めないわけではなかった。左手のマークの持つ毒への耐性はアルコールにも作用する。つまり1瓶空けた程度では少しも酔わない彼が、呑むことに意味を見い出せないだけだ。

    “お前のようなかわいい男なら、すぐに相手が見つかるだろう。”

    男の含みのある言い方に、ダウドは暫くの間周囲を見まわし、そして得心した。

    “……実は、そういう店だとは知らなかった。だから入口に見張りがいたのか。”

    “この中に監督官も混じっているかもしれないがな。ともかく、ここではなにも隠さなくていいって事だ。”

    一般的に港のパブならば男ばかりでも不自然ではないから、見落としていた。ここには女性は一人もいなかった。つまり、監督官の教義に反した嗜好を持つ男性がフーガの日に自由になれる場所という訳だ。ダウドは受け取った酒を舐め考えた。女王は何の目的で、自分をここに送り込んだのか。ギャングらしき人間もいるがそれぞれが1人で来ているようだし、ヴォイドゲイズでスキャンしてみても脅威は見つけられない。

    “その衣装、似合っているな。”

    言いながら、黒い仮面の男はダウドに体を近づけてきた。彼はダウドのずらした仮面の口元をねっとりと眺め、酒臭い息を吐きかけた。吐き気がしたが、彼は大袈裟に酒をあおることで耐えた。顔面にグラスを叩きつけたい衝動を我慢しさえすれば、ちらりと見えるダウドの顔の傷に注目することのないこの男は隠れ蓑にちょうど良さそうだった。連れもいないままでは誰に声をかけられるかわからない。

    “今日、この店で何か特別なショーか何かの予定はあるのか?”

    “ショー? 知らないな。毎年来ているが、いつもこんな感じだ。酒と食い物と、良い出会いを探すだけだ。”

    ダウドは頷き、再度尋ねた。

    “どこかのギャングが頻繁に出入りしていたりは? 何か噂を聞いたことはないか?”

    ないけど、と男は眉を寄せた。マスクの下の探るような表情に、ダウドは“実はコールドリッジ帰りなんだ、” そう嘯いた。港の方では珍しくもない経歴だ。男は納得した様子だった。

    “ギャングなら多分混じってるぜ、あの赤いマスクの長身なんかがそんな雰囲気だ。”

    背後を振り返る男に習って、ダウドも後ろのホールを眺めた。彼が示したのは既にポケットに小さいナイフを隠しているのをヴォイドゲイズで確認していた人間だったが、ひどく酔っているようで重心のおぼつかないダンスを披露している。どう見ても警戒の対象外だ。

    “誰かを気にする身なら、上の階に行かないか?”

    背後に体を向けたままのダウドの気を引くように、男の太い腕が彼の腰に回された。

    “他に誰か好みの奴がいたか? そいつも混ぜてもいいし、楽しんだ後でパートナーを変えることも出来る。フーガの夜は長いからな。”

    腰に伝わる体温にこめかみがひりつき、今すぐこの労働者の右腕を切り落としてやりたいと思ったが、ダウドは腹筋に力を入れてやり過ごした。“もう少し飲んでからがいい、” そう言ってグラスをあけ、お代わりを頼むことで話題を逸らそうとした瞬間、この場全ての空気が変わった。

    “……凄いのが来たな。”

    カウンターの中の捕鯨マスクの店員は酒を作る手を止めて、関心したように顎を上げた。どこかから口笛が聞こえ、一瞬ギターのリズムが乱れる。ダウドの心臓も同じように乱れ、彼もまた周囲の人間と同じように動作を止めた。

    コルヴォ・アッターノだ――

    店員の視線を追って振り返ったダウドにはすぐにわかった。彼は入り口のすぐ近くに立っていた。

    金の装飾がされた真っ白の貴族風の上下はこの場よりもボイル邸の方がふさわしく、反して傷や鋲があちこにつけられた鼠を模した黒革のマスクは毒々しい。長い髪はマスクに付けられたぼろぼろの布で隠されているが、鼻までしか覆われていないマスクは形の良い唇とセルコナンである肌の色を明らかにしていた。しかし、何よりも彼が目立つのは立ち姿――その並外れた長身と、堂々として威厳を感じさせる姿勢にあった。

    何故彼がここに、ダウドが真っ先に思ったのはただそれだった。彼は王室護衛官の急な来訪に混乱していた。背後のドアはまだ少し開いており、彼が見張りのチェックをクリアしてたった今ここに来た事を示している。周囲の人間は遠巻きに、しかしそわそわした様子で彼を見つめているようだった。

    “彼が好みか?” 隣の男に訊かれ、ダウドは曖昧に唸ってカウンターに向き直った。彼の中ではある考えが浮かんでいた。

    エミリー女王の目的は、コルヴォにあったのではないか。

    ダウドの知る限り、今までコルヴォはフーガの日に女王の側を離れる事はなかったはずだった。それが今年はここにいるということは、娘の方が進んで彼を自由にしたという事だ。

    そして、彼女が父親の性的嗜好を知っていて、間違いなくここに来るだろう彼の警護を密かにダウドに頼んだとしたら……?

    それは納得の出来る話だった。隠されてはいるが女王の父親という立場上、コルヴォも護衛官ではあるものの要人であり、密かに誰かを護衛に付けるというのは納得ができた。もしくは彼が酔って醜態を晒したり、飲みすぎた事で一夜を共にするのにふさわしくない相手(この場合王室に敵意を持つ者や、後で金を強請ってくる可能性のあるギャングだろう)を選んだりするのを防ぐ目的か。

    いずれにせよ、彼女の目的が父親のひそかな警護にあるとすれば全てに筋が通る。

    ダウドは大きく息を吐き、新しい酒に口をつけた。今の彼は仮装をしている上に武装解除しているためヴォイドゲイズでも疑われることはないだろうし、隣にパートナーがいるように見えるから声をかけられる事もないだろう。ダウドがすべきことはただ目立たずこの場をやり過ごすことだけだった。彼が誰かと上の階に行くような事があれば屋上にでもいればいいし、他の店に移動するようならそっと尾行すればいい。

    目的とやるべきことが明白になり何に警戒すべきかわからなかったストレスから解放されたことで、ダウドの気はだいぶ楽になった。まだ腰に置かれたままの、隣の男の手は気になるが。

    “彼は労働階級じゃないな。どこかの貴族の専属ガードか、もしかしたら監督官か……。どっちにしろ身分の高い人間だろう。”

    男に倣って、ダウドも再びちらりと背後を振り返った。コルヴォの周りには人垣ができ、誰もが一緒のテーブルにつくか、もしくは一緒のベッドに入りたがっているようだった。ダウドが王家に仕え彼から仕事を貰うようになって5年ほどになるが、ダウドは彼のこういった側面を知らないままだった。環境が似ていることから黒い目の男の話や故郷の話をよくするような間柄ではあるものの、ダウドが見てきたのは王室護衛官や父親としての彼で、男としての彼ではない。彼はどんな人間を選ぶのだろう。

    気取られないように見ていると、コルヴォが急にこちらに体を向けた。ダウドは焦り、不自然にならないよう顔を逸らして隣の男に体を少し近付けた。彼は声をかけてきた男がダウドを隠せるほどに体格が良かったことに感謝し、目の前に並ぶ酒のボトルに注目した。ダウドはこの席についた時すでに、密かにテザリングを使いカウンターのボトルを背後が映るような角度に調整していた。コルヴォは真っ直ぐにこちらに近づいて来ていたが、目的は酒のようでカウンターの中央の方に向かっている。隅の方のダウド達には注目しないだろうが、用心したほうがいいだろう。

    “もう部屋は取ってあるのか?”

    ダウドの思わせぶりな問いに気を良くしたのか、男の太い指はゆっくりと腰骨を探る動きに変わった。指を残らず折ってしまいたい、湧き上がる衝動を抑えダウドは頭を男の肩にもたせかけた。これで店員と何かを話しているコルヴォからは、少なくとも彼の上半身は見えない角度になったはずだ。顔を見ずとも男がにやにや笑っているのが感じられた。今は耐えるべき時だった。 コルヴォがカウンターから離れた後で目立たないよう2階へ移動し、この野郎の顔面に拳を何発か打ち込んでからゆっくりと能力でコルヴォを見張れば良いのだ。

    しかし、ダウドの計画に反しコルヴォはなかなかその場から動かなかった。それどころか、こちらを見ているような気がする。

    “どうやって呼べばいいんだ、可愛い子。それから、どんな風にされるのが好きなんだ?”

    問いながら男の手が尻の方へ移動するのを感じていたが、ダウドは返事を返せなかった。コルヴォが余りにも近すぎて、声で露見する可能性があるからだ。捕鯨服の店員と話していた筈の彼の話し声もやんでいた。ダウドは緊張し俯いて体を固くしたが、彼の体をまさぐっていた男はそれを勘違いしたようだった。“大丈夫だ、溶けるほど全身にキスしてあげるから……、”

    男の太い指がダウドの薄い衣装を辿り、服の上から尻の割れ目に差し入ってきた。ダウドは黙って縋るようにグラスを握りしめ、呼吸を止めた。コルヴォが動く気配がしていた。

    “失礼だが――”

    すぐ背後から良く知った声がした。
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