Destructive Circuits 8コルヴォは不機嫌にも見えるあの無表情で、ずっとダウドを見ていた。しばらくお互いに立ったまま見合っていたが、彼が動かない事を悟りダウドは足を引きずるように前に出した。彼の体は疲れていて、あちこちが痛んでいて、どんな戦いの後よりもひどく消耗していた。
“……誰だかわからなかった。髭がある。”
数メートルの距離まで彼が近づいた時に、コルヴォが急に口を開いた。ダウドは思わず自分の髭に手をやっていた。半月近くを森で過ごしずっと手入れされない彼の身なりは、酷くくたびれていて不潔に見えるに違いない。コルヴォの口調はいつものように平坦で険しい表情も変わらなかった。しかし彼が口をきいたことで、ダウドの中にある種安心感のようなものが芽生えたのは確かだった。最初、彼は考えを変えた護衛官が自分を殺すためにここにやって来たのではないかと考えたからだ。
“コルヴォ。なんで、ここにいるんだ?”
それは当たり前の問いだった。祝賀会のため彼がこの国にいるのはわかるが、こんな昼間のタイガにいる理由はない。訝しむダウドに返された答えは、彼の疲れで痺れ果てた頭を撃ち抜いた。
“お前の言った通り、商工会の人間は皆“肉屋”を知っていた。首都から北上し川沿いに5時間……。私の場合は、馬車を使ったが。”
ダウドは大きく目を開けて息を呑み込んだ。
まさか、そんな筈はない。あれは自分だけが見る夢のはずだ。
コルヴォはそれ以上何も言う気はないらしく、また貝のように口を閉ざしダウドを見るだけだった。ダウドも言葉がなかった。疲れすぎて鈍った彼の頭には、コルヴォの訪問に加え、今の言葉はあまりに衝撃が強すぎた。
彼は一旦思考を止め、戸口の前に立つコルヴォに退くように言うと鍵をかけないまま出て来た歪んだ小屋の扉を開けた。とにかく彼は一刻も早く、肩に食い込み絶えず痛みを与えてくる背嚢を下ろしたかったのだ。
ダウドが今心底必要としているものは、栄養と休息、そしてなによりもあたたかなベッドでの睡眠だった。いきなり現れて彼に衝撃を与える護衛官ではない。
厳しい冬山と狼や他の敵対的な動物とが彼をずっと緊張状態にさせ、疲労はとっくに限界を越え絶えず眩暈がするほどだった。自分の小屋に帰って好きなだけ眠る、ただそれだけを思い描いて無理矢理に足を動かし続けてきたのだ。彼はずっとまともに寝ていなかったし、体力を補給できる程度にしか食べていなかったし、ほとんど休みも取っていなかった。
ここに護衛官がいることが夢だろうが現実だろうが、ダウドの全身は今すぐベッドに倒れ込みたいと訴え続けていた。彼は入り口の作業台に背嚢を置き、その重さから解放され肩を回そうとしたが――、人の気配を感じて振り向いた。
ダウドのすぐ後ろにはコルヴォが立っていた。彼は窒息しそうなほど驚き、変わらない表情の男を見上げた。“ダンウォールに戻れ。” コルヴォは短く言ったが、命令のようでいてなんの感情も感じられない声音だった。
ダウドは瞬きした。今、コルヴォは何て言った? 認識がうまくいかず、重い疲労感が彼の思考を奪い代わりに眩暈を連れて来る。ダウドの足元はぐらつき立っているのも限界だった。ここで倒れてしまうかもしれない。しかしコルヴォは更に距離をつめ、彼に言った。
“トーマスもお前を必要としているし、お前に会いたがっている。”
“何だって?”
思いもよらない名前を聞いた瞬間、彼の中に一瞬現実が戻って来た。
トーマス。かつての彼の腹心だ。彼は別れ際、自分はダンウォールの生まれだからこの街を離れない、そう言っていたが……
“何故彼を知っている? あの男は今お前のところにいるのか?”
コルヴォはそうだ、と答えたきりまた口を閉じた。ダウドはかつてコルヴォの無口さは自分と口をききたくないか、様々な心的障害がもたらしたものかその両方だろうと思っていたが、もしかしたら彼は元々あまり喋らない人間なのかもしれないと思った。護衛官の長身が覆いかぶさるほど不自然に近寄って来て、ダウドは作業台に後ろ手をついて斜めになった上半身を支えた。
間近で見るコルヴォの顔は、夢で見ていた彼と眉間の皺の深さ以外はほとんど変わりがなかった。頬骨は高く鋭利な印象だが、きちんと肉がついていて肌色も良く、目の周りも明るく健康的だ。澄んだ琥珀色の目にかつての濁りはない。
“コルヴォ――、”
圧倒されたダウドの口から出たのはかすれた彼の名前だけだった。コルヴォはじっと、何かを見逃さないとでも言うように間近のダウドを見つめ続けている。彼の体が更に寄せられ、互いの腰が触れた。妙な緊張感にダウドは身を固くし、上半身を作業台の上に乗るほど反らして小声で言った。
“コ、コルヴォ……、その、イタチが……。”
コルヴォはイタチ……、と呟くと一歩後ずさり、彼らの間に目を落とした。ダウドの腰に死んだテンが3匹ぶら下がっているのを見て、彼は眉間に刻みついた皺を深くした。“お前は荷物を纏めろ。” コルヴォは短く言うと彼に背を向け小屋を出て行こうとした。
瞬間、ダウドの中で小さな爆発が起こり、彼の体は自動的に男の腕を掴んでいた。重度の寝不足と疲労で今すぐ寝たい所を邪魔され、更にろくな説明もないままに一方的に色んな事を言われ続け彼の中で苛つきが瞬時に頂点に達したのだ。
“まずどういう事なのか説明してくれ。俺はお前の部下ではないんだ。いきなり現れて一方的に命令されても、判断材料が少なすぎて検討の余地すらない。”
彼は振り向いた男に怒りを隠さずに言った。夢の話、ダンウォールの話、そしてトーマス。すべてが彼の中でぐちゃぐちゃだった。ダウドは帰ったらまず重い背嚢を下ろし、いつもの椅子でゆっくりと一服するつもりだった。半日前に最後の煙草を吸った彼の体はニコチンを要求していた。それから温かいスープか何かを採り、湯に浸した布で簡単に体を拭いて、そして恋しい毛皮の毛布に包まれて自然に目覚めるまで眠ろうと――、
それを邪魔した訪問者をダウドは睨みつけたが、コルヴォの表情筋はダウドの視線を受けてもひとつも動かなかった。彼はしばらく黙ったままダウドを見下ろしていたが、
“命令ではなく要請のつもりだった。”
読めない顔でそう言った。そして、
“嫌ならいい。お前が選べ。”
そう言い残すと、今度は本当に出て行ってしまった。残されたダウドは怒りに任せて自分の帽子を床にたたきつけ、その後マフラーも同じようにした。
部屋の中の全てを破壊したい衝動にかられたが、彼は乱暴な手つきで、自分の少ない私物や作ったチャームなど魔術に関わるものを手早くまとめていった。視界に彼の快適なベッドが目に入るたび肚の虫が騒いだが、それを振り切って、ダウドはコルヴォの後を追うべく小屋を飛び出した。
ダウドが村に着いた時、肉屋の前では一家とコルヴォが何かを話していた。肉屋はダウドを見つけるとすぐに肉の乗った体をはずませ駆け寄って来た。
“ダニロ!無事でよかった。”
彼はダウドの前まで来ると、目を細めた。そして彼にしては小さな声で、
“ただ者じゃないと思っていたが、俺の勘は確かだったな。あんたの上司に聞いたよ。あんたは……、ダンウォールの秘密警察だったんだ。”
彼は咄嗟にコルヴォを怒鳴りたいと思ったが、訓練された理性は彼をやや重々しく頷かせただけだった。ダウドはコルヴォの部下になった覚えはないし、そもそもダンウォールに秘密警察などない。“ここを出て行くと聞いたよ、寂しくなるな。” 肉屋のその言葉に彼は思い出し、腰に下がっていたテンを外すと彼に差し出した。
“――虎はいなかったか。” 肉屋はそれを見てぽつりと呟いた。
当初、ダウドは肉屋には虎を見つけられなかったと報告するつもりだった。しかし彼の寂しげな笑みを見るとその気持ちはどこかへ行ってしまった。利益第一で計算高いが商売人らしい人情も持ち合わせた彼に、ダウドは親しみのようなものを持っている自分に気付いていた。
“虎は、彼女はいた。だが俺は彼女を……、自由にしておくべきだと思ったんだ。”
彼は正直にそう言った。共に狩りの計画を立てた人間に対し不誠実でいられなかった。イタチを手にした肉屋は最初複雑そうな表情でダウドを見ていたが、少ししてため息をついた。
“そうか。” そうしてダウドの腕を叩き、“まあ、彼女も大理石の上の剥製にはなりたくなかっただろうしな。” そう言って彼に片目をつぶって見せた。彼の寛容さにダウドは感謝と尊敬とを覚えていた。
“いろいろ世話になったのに済まない。テンはあんたにだ。それから、俺の小屋だが……、” 言いかけたダウドを彼はさえぎった。
“それについては、あっちの背の高い彼から迷惑料を貰ったよ。後は任せろ。”
ダウドは思わずコルヴォに視線を移していた。彼は肉屋の妻と娘から何かを買っているようだった。彼女たちはどちらも頬を染め、目を輝かせ夢見るような顔で護衛官を見上げている。
“これが口止め料だって事はわかってる。だが、こんなものがなくても俺たちは“猟師のダニロ” の事は誰にも言わないよ。信用商売だからな。”
またいつでも訪ねて来てくれ、そう言って片手を差し出した肉屋にダウドも手を差し出した。二度とここを訪れる事はないかもしれないが、どれもいい思い出ばかりで、彼は猟師小屋での生活を一生忘れないだろうと思った。
馬車は村から続く泥道をまっすぐに走り続けていた。ダウドは2週間近く森を彷徨っていた自分の匂いを気にしたが、コルヴォの無表情は変わらなかった。馬車に乗るとコルヴォから紙袋を渡され、彼が開くとその中には作ったばかりのサンドイッチが入っていた。さっき彼が肉屋の妻から買っていたのはこれだったらしい。ダウドは有難くそれにかじりついた。まともな食事は久しぶりだった。ティヴィア小麦の黒パンは良い香りがしていて、鹿のベーコンや鮭の塩味、玉ねぎやバターの旨味がダウドの体に染み渡る。
“虎を狩らなかったんだな。”
コルヴォが前を見たまま呟いた。ダウドは夢の中でも彼に虎を見逃したことを話していなかった。
“誰かの欲の為に彼女を捉える事は、俺には出来なかった。”
コルヴォは軽くうなづいたが、何も答えなかった。
ダウドが彼に聞きたい事は沢山あったし、言いたいことも色々あった。しかしとにかく、外部に石炭の炉が取り付けられたティヴィアの馬車はあたたかく快適すぎた。心地の良い満腹感に加え、馬車の規則的な振動が彼に急激な眠気を運ぶ。ダウドの視線は食べている最中にも定まらなくなり、意識は途切れ途切れになり……、そして彼は目を閉じた。
次にダウドが目を開いた時には、馬車はティヴィア古典様式の白を基調とした屋敷の中庭で止まっていた。いつの間にか日は傾き、彼は自分がずっと寝てしまっていた事にここで気付いた。
何も言わずにさっさと馬車を降りてしまった護衛官に耐性が付き始めたダウドは、ここはどこだと問う事もなく黙って彼に続き屋敷へ入った。短時間ではあったが栄養と快適な睡眠が取れたことで、彼の中の倒れそうなほどの疲労感と眠気は少なくともなくなっていた。白い外観とは異なり内部は伝統的な赤や緑の調度品で彩られており、その生活感のなさに彼はこの屋敷は大統領府が国賓のために用意した迎賓館か何かなのだろうと予測した。
屋敷の奥からメイドを伴って現れた深い緑のドレスの女はダウドと同じくらいの年で、彼らを見ると優雅に挨拶をした。“マダム、” そうコルヴォも返す。
迎賓館のマダムはホールにつっ立っている多分に場違いな猟師を見ても、顔色ひとつ変えなかった。ダウドはトナカイ皮の上下を着たままだったし、手入れされてない髪や髭で覆われた顔は垢じみているだろう。彼女は落ち着いた声で新しい客のために何か必要なものがあるかをコルヴォに訊ねた。
“彼は市警の人間だ。” コルヴォは淡々と説明した。“国外へ逃げた政治犯を追うため、タイガに派遣されていた。”
秘密警察の次は市警か。思う所はあったが、ダウドは黙っていた。
“お疲れのようですから、すぐにお部屋を用意いたしますね。” コルヴォの紹介を聞いたマダムは横にいたメイドに指示をしようとしたが、コルヴォはそれを遮った。
“彼は私と同じ部屋でいい。すぐに、風呂の用意を頼む。”
風呂は3度も湯を替えなければならなかった。大きな大理石のバスタブに焼いた石を入れたティヴィア式の風呂で、マダムは石鹸や歯ブラシに加え、彼の為に保湿オイルや垢すりのための麻布も用意してくれていた。
ダウドの体はあちこちが痣だらけで、彼の気付かないうちに足や手の皮のところどころが剥け、爪の一部は欠けて周囲には血が固まっていた。熱さに傷が痛んだが久しぶりの湯は彼の全身に染みわたった。猟師小屋に風呂はなく、大きめの桶に焼いた石を入れ簡単に髪や体を洗うのが彼の日常だったのだ。彼は長い溜息を洩らした。
コルヴォはマダムと話した後、またすぐにどこかへ消えてしまっていた。ダウドが得られた情報は、女王は予定があり今回は参加出来ず、彼が代表として式典や祝賀会に参加するという事だけだった。コルヴォは無表情で無口だが少なくともダウドに対する敵意やその類は感じられなかったし、それどころか親切だとも言えた。
ダウドは彼を問い詰めることはやめておいた方がいいと考え始めていた。彼がもしかつて持っていた何かをなくしてしまったのなら、それがコールドリッジでの凄惨な拷問によるものか女王の死によるものかはわからないが、どちらにせよダウドの責任による所は大きいだろう。女王が生きている時に彼がスパイグラスで見た護衛官には、豊かと言えずとも表情があった。口数は今と変わらないのかもしれないが、少なくとも彼が娘に笑顔を向けていたのをダウドは覚えている。
そして彼はまた死神そのものだった頃のコルヴォも知っていた。凍土のように冷たく暗く、生気を感じさせない声と目をした彼だ。それに比べると今のコルヴォは人間らしかった。ダウドの問いに対しても特に誤魔化したりはせず、答える気はあるように見えた。最初は彼の態度に腹を立てていたが、どちらかというと、考えや言葉は人並みに持っているが上手く表せない……、ダウドは今では護衛官に対しそんな印象を持ち始めていた。
トーマスの事は気がかりだったし、正直に言えば今すぐ彼を捕まえて経緯をすべて説明しろと言いたい所だ。しかし辛抱強く待っていればいずれ明らかになるだろう。
それに、ダウドは怖かった。彼の夢の話だ。
あれが夢ではなくてヴォイドなのか、コルヴォとどう繋がっているのか、それがいつから始まったのか。それについて彼と話すのも、考える事自体もダウドは避けていた。なにしろ、ダウドは動かない彼を回顧録のように使っていた。秘密にしておきたい話も沢山あったし、知られたくない内容もあった。それに考えたくはないが黒目野郎の嫌がらせという可能性もある。
ダウドは曲がりくねり出した思考を放棄して、風呂から出た。いつか機会があればコルヴォと話をすればいいだけで、ただでさえ不可解なヴォイドが絡んでいるだろう問題を今考えても仕方がない。
彼は湯上りのケアを済ませると用意されていたバスローブに袖を通し、風呂から出た所にある大きな鏡の方へ近づいた。置かれていた剃刀を手に鏡を覗き込む。ダウドが自分の顔を見たのは久しぶりだった。手入れのされない髭はいかにも猟師風で、伸びたままの髭はもみあげから続いて頬や顎を覆い、上唇を覆い隠すほどになっていた。
彼は石鹸を使いゆっくりと髭を落としていった。次第に、剃刀の刃の下に彼の特徴的な傷が現れる。この地に来てからはずっと隠されていた傷だ。
彼は名前を変えこの傷が隠れた事で違う人間になれた気がしていたが、その下にあるのは紛れもないダンウォールのナイフの顔だった。彼は髭を全て剃ると、少し伸びた髪を後ろに撫でつけ改めて鏡を覗き込んだ。
そこには、疲れた顔をした男がいた。暗殺者でもなくもう猟師でもない。何物でもないただのダウドだ。
彼はこれから自分はどこへ向かっていくのだろうかと考えた。コルヴォが現れたことでスイッチが切り替わり、自分の回路がタイガの森を離れ完全に新しい方向へ進み出したのをダウドは感じていた。人生の岐路。
黒目の男はそれを“運命の選択” と呼んでいたが――、ダウドとコルヴォのそれは、お互いが強く干渉しているような気がしていた。
ノックの音が聞こえ、ダウドが今考えていた人間が姿を見せた。鏡越しに背面のドア開けたコルヴォと目が合い、彼は振り向いた。
“……懐かしい顔だ。”
言いながらコルヴォが近づき、ダウドは思わず後ろへ下がった。洗面台に彼の腰が当たったが今回は2人の間にイタチはなかった。コルヴォは彼の顔をじっと覗き込み視線は顎から唇へ、そして傷を辿り、彼らの視線が再び合わさった。ダウドは彼の思考を探ろうとしたが凍り付いた表情からは何も読み取れなかった。
ただ、彼の目線にある熱をダウドは感じていた。
猟師小屋でもそうだった。それを自分の期待が見せた幻だと思う心と、そうであってほしいという気持ちとが彼の中でせめぎあう。そのまま時が過ぎ、何か言うべきか彼から離れるべきかをダウドが考え始めた時、コルヴォが低く言った。
“お前は、私が欲しいと言ったな。”
ああ、俺は確かに、夢の中の話でそう言った。
ダウドは頭の中で答えたが、コルヴォに倣って口には出さなかった。やはり彼の思い違いではなかったのだ。ダウドは明確な答えを口に出す代わりに、唇を舐めて上目遣いで彼に視線を送った。コルヴォの手が持ち上がり彼の指がバスローブの合わせを辿る。それから彼はダウドの意思を確認するように少し首を傾げた。ダウドは唾を飲み込んで囁いた。
“コルヴォ……。”
名を呼んだ男に指にベルトの結び目を解かれ、ローブが大きく開かれる。
ダウドの中心で、性器は既に熱を持って膨らみわずかに勃ち上がっていた。正面からの男の視線が痛いほどに降り注ぎ、彼は体を震わせた。
コルヴォに引き寄せられ、キスをされるのかとダウドは身構えたがそうではなかった。コルヴォは立ったまま彼に覆いかぶさると、背中に手を這わせローブを彼の肩から落とした。彼の手はそのままゆっくりと背筋を辿り、ダウドの尻に行きつく。
“期待していたのか。”
濡れた音がダウドの耳にもはっきりと聞こえ、彼は思わず顔を護衛官のコートの首元に埋めていた。コルヴォの指が尻の割れ目を撫でるたびにバスルームに粘着質な水音が響く。その通り、彼はずっと期待していたのだ。ダウドを見る強い視線や、猟師小屋でのコルヴォの態度。マダムに同じ部屋を使うと言った事。
ダウドは風呂上りにそこをオイルで潤し、そしてコルヴォを待っていた。
自分が夢の中で彼にねだったものを、何年もの間彼が気が狂いそうなほど求めていたものを彼が与えてくれるかもしれないと――。その甘い予期は村でもここに着いてからも常に彼の頭の片隅を支配し続け、そしてようやくその願いが叶おうとしている。
しかしコルヴォの指はダウドの思いを裏切り、期待に震え収縮を繰り返す穴の感覚を楽しむかのように往復するだけで入ってこようとはしなかった。入り口に浅く指がかかると自然とダウドの肚は震え、性器には血が集まる。彼の息は上がり、震えながらコルヴォのコートに縋りついていた。早く指を入れ乱暴にそこを嬲って欲しいと思っているのに、何故くれないのか。
彼は耐えられなくなり、コルヴォから離れると膝を折って彼の前に跪いた。ダウドの意図を察しているだろう護衛官はただ彼を見下ろすだけで動かない。それを了承と取り、ダウドは目の前にある彼の下半身に顔を寄せた。
コートの下に手を入れ腿に手をかけ鼻先を股間に埋める。いっぱいに息を吸い込むと、眩暈を覚えるほどに浸水地区のベッドでかいだコルヴォの香りがダウドを満たす。彼は震える指でフライを開き、そこでもう一度確認するようにコルヴォを見上げた。今の自分は飢え切った犬と同じ顔をしているに違いない。コルヴォは手でダウドの手を避けると、自分で性器を取り出した。
ダウドが初めて見た彼の陰茎は太く、コルヴォの身長に見合うだけの立派さで勃ち上がっていた。鼻先にある性器の匂いに彼の口内には瞬時に唾液があふれ、ダウドはそれにしゃぶりついた。
やり方など知らなかった。ただ口と五感を使って彼を感じたかった。膨らんだ亀頭を顎の裏で挟み、先走りを味わい、幹の血管や集まった皮の柔らかさを唇や舌で楽しむ。咥えたまま見上げたコルヴォは少しだけ顔を赤くして彼を見下ろしていた。裸で床に跪いてみっともない欲に塗れた顔をし、音を立てた下品なフェラチオをしている自分をコルヴォはどう思っているだろう。想像するだけで彼の体に何かが駆け上がり、陰茎は膨らみきって雫を垂らした。
指先がダウドの頬に触れ、コルヴォは言った。“寝室に。”