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    SEENU

    @senusenun01

    妄想文や雑絵を載せて発散している

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    続き こういう思い違いによる展開がめ~~~~~~っちゃくちゃ大好き!

    タイトル未定4:コルヴォ

    歳の終わりの空気は皮膚を切るように鋭く冷たかったが、コルヴォの体は暖かだった。衣装屋が気遣いのため風避けのマントを用意してくれたのもあるが、それよりもコルヴォの体内は美味い料理と酒とで指先まで温まっていた。

    最初の店はジェフに聞いた魚料理が有名な店で、フーガのためのふるまいも豊富だったし、次の店ではサーコノスのつまみや酒を楽しめだ。カルナカンの陽気な店主はマスクの下のコルヴォに気付いていたようだったが、却って彼を喜ばせようと自分たちの食べる家庭料理なども並べてくれた。どれも故郷を思い起こす味ばかりで、かつて飲んでいた庶民的な安ワインともよく合っていた。懐かしい馴染んだ音楽とダンス、褐色の肌をした陽気な人々。サーコノス島で育ってダンスが出来ない者はいないし、テンポの良いリラの音を聞いて体が動かない者もいない。ここが冷たいダンウォールだという事も忘れ、コルヴォもレモンビールを片手にダンスを楽しんだ。

    時を忘れた彼が“紅い鯨” に着いたのは、予定よりも遅い時間だった。コルヴォは故郷の酒や音楽ですっかり楽しい気分だったので、横柄な捕鯨員の恰好をした見張りに入店を止められても気にしなかった。

    “何の目的だ、鼠頭。”

    コルヴォは愛想よく笑いながら、ダークヴィジョンを使った。中には大勢の人間がいるが、見張りは武装している。フーガの日であるのに彼らは酔いもせず、きちんと業務を果たしているようだ。

    コルヴォはすぐに思い当たった。故郷にもこのような店はあった。普段はひっそりと紹介者のみが入れるような活動をしているが、フーガの日にはこうやって知らない者同士が集まれるパーティを開いたりしている。修道院の影響下において同性愛は罪であるが、法を無視するギャングたちとじゅうぶんな賄賂を支払えるだけの貴族、それからフーガの日には見逃される傾向にあった。それでも弱みに付け込む者を警戒するに充分ではあるが。

    “大丈夫だ、私は監督官じゃないよ。今夜のベッドを温めてくれる子ネズミちゃんを探しに来ただけだ。”

    わざと上品な発音で下卑た言い方をしたコルヴォに、男たちは顔を見合わせた。コルヴォは自分の外見がどう見えるのかを理解していたし、それをどう利用するかも知っていた。若い男の子を好む貴族による狂乱の日の冒険、彼らにはそんな風に映っただろう。彼らは納得したように道を開け、コルヴォのためにドアを開いてくれた。

    思った通り中は普遍的なパブだったが、仮装した男たちで溢れていた。身を寄せてダンスに興じる者たち、壁際で相手を口説いている最中の者や、酒や食事を楽しむグループ。煙草の煙と男たちの熱気がうずまき、息苦しさを感じるほどだった。

    “ずいぶんいい男が来たな。ここは初めてか?”

    ダンスをしている人混みのあたりへ進むと、コルヴォの周りにはすぐに人が集まって来た。注目されることを自覚していた彼はそれを利用して情報収集することを決めた。彼は目的を忘れたわけではなかった。

    “ここは安全か? 監督官が押し掛けたり、ギャングが密談に使っていたりは?”

    お忍びの貴族に見えるコルヴォに、男たちは口々に気前良く答えてくれた。ここは見張りがいるから安全なこと、どのギャングの息もかかっていないこと、毎年フーガの夜に行われているパーティだが問題は今まで1つもなかったこと。

    コルヴォは再びダークヴィジョンでざっと店内を見回した。小さな武器を隠し持っている人間はわずかにいたが、脅威になるほどではなさそうだった。天井を通して観た上の階でも密談や怪しげな行為が行われている様子もなく、どの部屋の人間もパートナーと楽しいひとときを過ごしているだけのようだ。彼がこの店の話をカリスタから聞いて以来トーマスやダウドと会う機会はなかったが、彼女の言い方だと彼らもさほど警戒しているようでもなかったし、単なるうわさ話程度の情報だったのかもしれない。

    “1人か? 連れがいないようなら一緒に飲まないか?”

    声をかけてきたのは、ビールの瓶を手にした燕のマスクの背の低い男だった。マスクから出る肌や声は酒に焼け、歳上だろうがまだ細いウエストを持っている。悪くはないな、コルヴォは目を細めた。今夜はここに泊まってもいいかもしれない。彼はジェサミンと深い中になって以来、異性を相手に選ぶことはなかった。ジェスもそれは同じで、彼女は愉しみのために黒髪の細身の女性を選ぶことが多かった。エミリーが生まれる前も生まれた後も、それ以上関係をややこしくするのを防ぐため、お互いに妊娠のリスクを避けていたのだ。

    “そうだな、じゃあ飲み物でも取ってこようかな。”

    コルヴォは言いながら、カウンターの方へ顔を向けた。カウンターは10席ほどだが全て埋まっていた。単身の人間もいるが、やはり誰かと肩を寄せ合う者が多い。その中で、ふと目に止まったある2人連れがコルヴォの注意を引いた。

    あれは良い仲ではないな……。少なくとも右の男は、左の人間を歓迎していない。不審に思ったコルヴォは燕のマスクの男に聞いた。

    “あの、右端の2人を知っているか?”

    “なんだ、あんたは体格のいい奴が好みか?” 燕男はニヤつき言った。“でかい方は毎年ここに来るやつで、ハンマーってよばれてる。悪い男じゃない。右の黒い服は知らないな、さっき来たばかりじゃないか。”

    その答えにコルヴォは目を細め、再度彼らをよく見た。壁際の黒い服の男のグラスがやけに遠い所に置かれているのが気に掛かっていた。一般的に隣り合って座る人間において、彼らが肩を抱き合ったり腰に腕を回すほど親密ならば、互いのグラスもすぐ近く、二人のスペースの内側に置かれるのが当然だった。カウンターの他の人間の飲み物は背中に隠れて後ろから見ることは出来ない。しかし右端の男のグラスだけが、腕を伸ばす必要があるほど不自然に彼の体の外側に置かれている。

    それに、黒い上下の男にはなんとなく見覚えがあるような気がしていた。

    コルヴォは燕男に礼を言うと、人を掻き分けてカウンターの方へ進んだ。近付くと、“ハンマー” の右手が隣の男の尻をまさぐっているのがわかった。

    カウンター内の捕鯨服の店員は気さくにコルヴォに何が必要かを訊ねた。コルヴォはビールを注文し、コインを置いたカウンターの上を辿り視線を横にやった。座っている人間やハンマーに隠れているが、右端の男の腕とウイスキーのグラスが見える。手袋をした彼のグラスにかかる指は、妙に力が入っているようだった。

    “あんたは目立つな、入ってきた時から注目の的だ。” ビールの栓を抜きながら捕鯨員が言った。“良い男だ、あんたに声をかけられたらこの店にいる誰もが飛び上がるぜ。”

    コルヴォは笑顔で返した。

    “ありがとう。でも、もう誰にするか決めたんだ。”

    言いながら彼は少し後ろに移動した。そこからはハンマーの隣の男がよく見えた。二人は身を寄せ合って一見親密な関係のように見えるが、右側の人間の体からは少しも力が抜けていない。

    身長、体格。それから独特の雰囲気に、よく見ればわかる特徴。

    間違いない。ダウドだ。

    コルヴォが黒目の彼にマークをつけられてから知ったことだが、彼らは左手が使えない。能力のためにいつでも自由にしておく必要があるからだ。攻撃も防御も右手のみで行い、物を持ったりするのも右だった。どこかにぶら下がって体重を支える時でも両腕は使えないし、気絶した人間を担いで歩き回るのにも右腕のみを使用しなければならなかった。だから、当然左右の腕や肩の筋肉量に差が出てしまうのだ。

    コルヴォは意識して左を鍛えるようにしていたし、ダウドや部下たちもそうだろうが、マークを扱う年月が違いすぎた。捕鯨服は体のラインを殆ど隠してしまうが、コルヴォは仕事の中でダウドがコートを脱いだ所を何度か見たことがあった。彼の左右の腕の太さは違っていて、それは今彼が着ている体に沿った衣服で明らかになっていた。

    “失礼だが――、”

    コルヴォが彼らの背後にまわり声をかけると、ますます彼だという確信が深まった。“ハンマー” がゆっくりとこちらを振り返ったのに比べ、隣の男は背中から漂う緊張感を強めただけで、顔を上げもしない。とっくにコルヴォに気付いていたのだろう。

    “隣の彼に用があるんだ、離してくれるとありがたい。”

    彼の尻に置かれたままの男の手がやけに不快で、コルヴォは語気を強めて言った。当然のようにハンマーは反発した。

    “誰でも靡くと思っているんだろうが、色男。彼は今俺と話しているんだ。”

    “でも、残念ながら彼は私の知り合いなんだ。”

    コルヴォは微笑んだ。“こっちに来るんだ。マスター。”

    黒い衣装の男の肩が跳ね、やがて彼は諦めたようにゆっくりと振り返った。どことなく監督官を思わせる金のマスク、その奥のコルヴォを見上げる灰色の目。そこにはいつもの鋭さはなく、気まずさを感じているような目つきをしていた。

    “ガード。”

    彼はそれだけ言い、諦めたようにため息をついて立ち上がった。やりとりを見ていた“ハンマー” が恨めしそうに睨みつけて来るが、コルヴォは見下ろす目を細めただけだった。彼は黙ったまま体を返して歩き出し、ダウドは何も言わずに着いてきた。

    コルヴォの先で、先ほどの燕頭が興味深そうにこちらを見ていた。コルヴォ達が通り過ぎる一瞬、彼はニヤリと笑った。きっと“ハンマー” から今夜の相手を強奪してきたように見えるのだろう。それも、そう違ってはいないが。

    “どういうことだ?”

    人の少ない壁際まで移動すると、コルヴォは声を潜めた。ダウドは壁に背を預けるといつも彼が返答に迷った時にしているように、仮面の下に手を入れて顎をかいた。

    “俺は……、ここに用があったんだ。”

    “用事?” コルヴォは目を大きくした。“トーマスの言っていた件とは違うのか?”

    やはりここには何かがあるのか、コルヴォは周りを見渡した。何度見ても気になるものは見つからないが、彼はダウドがプライベートでここへ来たとは思っていない。さっきの“ハンマー” 野郎も無害な客を装うためのカモフラージュだろうと判っていた。トーマスはダウドのことを、毎年フーガの日にも仕事をしているか難しい顔で本を読んでいるだけだと言っていた。人の持つ愉しみを全てレンヘイブンに捨ててしまったような人です、彼は上司をそう評していた。

    しかし彼がトーマスの名を出した途端、ダウドは目に見えて狼狽えだした。

    “それは違う、それとは別で、――ちょっとした調査だ。対象者と話をするような。”

    お前の気にするような問題はない、ダウドはそう言ったが、その言葉はコルヴォの不審を強めただけだった。彼は今までコルヴォに何かを隠したりする事はなかった。それは同じ国家の仕事をしているという理由もあったが、大部分は彼らの過去にあった。寛大な女王によりスパイマスターに選ばれた彼はどんな些細な事であれ、コルヴォに疑われたり不審を抱かせるようなことをする筈がないのだ。

    “だから俺のことは気にするな。俺がここにいない方がいいなら、出て行くこともできる。”

    “対象者って? さっきの男か?” コルヴォは重ねて聞いた。身をかがめ、壁に張り付いている彼の金のマスクに顔を近づける。それは音楽と人のざわめきとで会話が聞こえにくかった為なのだが、まるで彼を詰問しているようだった。“そうではないが……、” 彼は言い淀んだ。ダウドの答えはどれもが歯切れが悪く、取り繕う態度はコルヴォを苛立たせた。

    “こっちは大丈夫だから、お前は好きなように今日を楽しんでくれ。”

    ダウドはなおも突き放すような言い方をした。今ここでコルヴォにわかったのは、ダウドが何かを隠したがっていることと、彼がすぐにもコルヴォと離れたがっているという事だけだった。彼にはそれが気に入らなかった。

    “そうだな、では楽しもう。”

    コルヴォはダウドの返答を聞かず強引に彼の腕を引くと、ホール中央の男たちのダンスの群れに飛び込んだ。これ以上彼に何かを訊いても無駄だと思っていた。

    “コル……、ガード!”

    “シー、静かに。大声を出すと人目を引いてしまう。”

    コルヴォはダウドの腰に腕を回し、自分の体に強く引き寄せた。反射的に身を捩る動きを封殺しもう片方の手で彼の手を取る。彼は当然ダウドは怒るだろうと思っていたが、コルヴォを見上げる瞳は苛立ちよりも戸惑いの色が大きかった。

    “何でこんな事をするんだ。何がしたい?”

    “それに答えるには、先に何故お前がここにいるかを聞かせてもらわないとな。マスター?”

    金のマスクの下でため息がおこり、穴から覗く眉が寄せられた。“お前は、トーマスに何か聞いてここに来たのか?”

    アコーディオンとギターの軽快な音色に反して、彼の腕の中の体温とベルベットのしっとりとした触り心地は艶かしい。彼にとっては不本意だろう頼りない薄い布は彼の暖かさに加え、筋肉の微細な動きまでを正確にコルヴォの元へ届けてくれる。コルヴォは今回は質問で返す事なく正直に答えた。

    “具体的には何も。彼がこの店を気にしていると聞いただけだ。”

    彼は音楽に合わせて体を揺らし、マスクの奥のダウドの瞳を覗き込んだ。彼の目に熱はなかったが、コルヴォはその灰色の瞳に炎を灯してみたいと思った。彼の脂肪の少ないしっかりとした腰や、太い足は彼の好みだった。というよりも、ダウドはずっとコルヴォにとって好ましかった。立場上なるべく考えないようにはしていたが、彼の鋭角な顎の線や、広い背中や腰のラインに目を奪われる事は何度もあり、その度ごとに気をそらしていたのだ。

    しかし今日はフーガだ。今日あったことは、明日には全てが幻になる。

    コルヴォはダウドの腰に置いている手に力を入れ、下半身を彼が気になるように押し付けた。彼の体はその瞬間緊張で固くなり、コルヴォはこの体から力が抜けていく瞬間を味わいたいと願う。彼の手を取っていた左手を一度離し、彼の指と自分の指とを絡めて再度握り直した。マスクの下の灰色の瞳に怒りや拒絶はなく、ただ戸惑いだけがあることにコルヴォの心は踊った。

    “ここで良い出会いがあればと思ったんだが……、前から近くにいたようだな。”

    コルヴォは低く囁いた。自分の鼓動が早くなっていることを自覚したが、体を合わせた彼もそうだという事に気づき、それはますますコルヴォの心を逸らせる。彼のコロンと、煙草とウイスキーの香り。それが魔法のようにコルヴォを惑わせ、周りの喧騒や音楽を彼から奪い去っていった。

    “コ――、ガード……、”

    ため息のような彼の小さな声。コルヴォのマスクの中の体温が上がり、目や頬に籠もる熱を感じた。彼はマスクや手袋、装飾のある衣装を邪魔だと思った。コルヴォはダウドの腰を抱く手を動かし、非常識ではない程度に彼の背中や尻にかかる筋肉の隆起を味わった。ダウドは少し身動きする程度で、さっき“ハンマー” に見せていたほどの緊張や拒絶を示すことはない。彼のグレーの瞳が揺れ、瞳孔が開きかけているのがコルヴォの思い違いでなければいいが――

    “お前はこの中で、誰よりも魅力的だよ。” コルヴォは彼に顔を寄せ、金の仮面と帽子から垂れ下がる羽根の飾りを鼠の鼻で掻き分けて、姿を現した彼の耳に直接言葉を吹き込んだ。

    コルヴォの吐息の先の、彼の耳が赤く色付いた。絡めた指に力を入れて意思を伝え、熱い耳に唇をかすかに触れさせる。“私が探していたのはお前だったんだ……、マスターダウド。” コルヴォは普段と違う甘さを感じさせる発声方法で、カルナカ訛りでひそやかに言った。ダウドは身じろぎもせずずっと黙っているが、合わさった胸から直接伝わる彼の鼓動の速さがコルヴォを動かしていた。

    彼は音楽に合わせていた体の動きを止め、背の低い男の体から腕を離した。ダンスをする人間達の中で、ダウドもまた魔法にかけられたようにただ立ち尽くしている。金のマスクから覗く瞳は、確かにさっきまではなかった熱を孕んでいるように見えた。

    コルヴォは静かに、そっと彼の金のマスクを口元が見えるだけ持ち上げた。彼の薄い唇、マスクの中から首元まで続く長い傷跡。

    口付けた彼の唇は燃えるように熱く、かすかに震えていた。
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